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私は仕事がしたいのです!  作者: 渡 幸美
番外編

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あの日あの時と後日談  リーゼ=レコット 3

あれから二年経ち、学園を卒業した私は、基本、王立病院で仕事をしている。病院の運用やら経営やら、諸々を学ばせてもらっているのだ。そして、いずれは完成間近のレコット家出資の病院で働く予定。そちらの院長はお父様だ。


将来的には、王都を中心に東西南北にそれぞれ中規模の総合病院を建てるのが目標だけど、ひとまずは王都北の我が領地から。頑張るぞ。


そして、保育園と小学校事業者は、まだまだこれから。

光魔法と闇……宵魔法を使える人を中心に、人を集めている所。もちろん、その2つが使えなきゃ駄目な訳ではなくてよ?それに優秀な方に越したことはないけれど、子ども相手はそれだけでは儘ならないから、人選が大変。私も勉強しながらだし。教会のシスターたちにも協力をお願いしている。


大変だけれど、日々、充実しております。


「リーゼ、先日頼まれました資料です」

「ありがとう、レックス」

レックスは、聖エミの商業科を首席で卒業した、優秀な人材だ。黒髪黒目の柔らかな印象の彼は、見た目と異なり、計算の鬼だ。収支を少し間違えでもしたら、大変なのよ~?まあ、大事なことだから、当然なんだけど。


実は私、ちょっと彼に惹かれていたりする。ずっと一緒に仕事がしたいなあ、とか。何だろう、テンポが心地いいのだ。


コホン。ともかく、優秀な人材が補佐してくれている。

とても真面目な人で、呼び方だとか話し方だとか、なかなか折れてくれなかったけれど、同い年なのに……同期なのに……と、半ば泣き落としで、「……わかりました、では、お名前だけ甘えます」と、ため息混じりで最終的には折れてくれた。優しい(?)。


「うーん、何かを経営するって、大変なのね!」

ある程度、資料を読み込んだ所で、肩を伸ばす。仕事中は、もちろんドレスじゃないですよ。最近は、仕事用の素敵な女性服も増えたので、それを。この辺りも、『ルピナスシリーズ』の相乗効果よね。

「そうですね。お茶を淹れましょう」

「わっ、ありがとう!レックスのお茶、大好きなの!」

「……ありがとうございます」

ふふっ、照れてる。意外と素直でかわいいのだ。


いい香りのお茶が揃う。二人でいただく。


「それにしても……『ルピナスシリーズ』の発展で、平民にもチャンスが増えて……。元々、他の国よりも平民を大事にしてくれる国ではありましたが。とても、とてもありがたいです。それの、立ち上げに関わられたリーゼと仕事ができて、誇りに思っています」

レックスが真顔で話し出す。

「ど、どうしたの?急に。嬉しいけど、恥ずかしいじゃない」


一瞬言い淀んでから、意を決したようにレックスが続ける。

「う、噂で……」

「噂?」

「その、先日、王太子殿下の結婚式があったじゃないですか…」

「うん。二週間前ね」

学園の卒業式から二ヶ月後。二人の結婚式があった。

ローズ、綺麗だったなあ。ジーク様のあの世界で一番幸せそうなお顔、絵姿にとっておきたいくらいだったし。

すごく良かった!けど。


「……それで?」

「その……エマ様もご婚約されていますし、ルピナスシリーズに関わったご令嬢たちも、順に結婚されるだろうと」

「は?!何で?嫌味なの?私達、ほとんど婚約解消したのだけれど!」

噂って無責任だけど、何なのよー!

「い、いやっ、違うんです!嫌味ではなくて、皆さん魅力的だからですよ!…元々、高位の、貴族のお嬢様ですが、更に付加価値が付いて、そしてますますお美しくなられたと……すぐにお相手が見つかるだろうと……」

「何それ、人を商品みたいに」

思わず、レックスに当たってしまう。

「すみません……」

「あ、ごめんなさい。レックスが言っている訳ではないのに。それで?なぜ先程の言葉に繋がるの?」

首を傾げてしまう。


「……リーゼが結婚して、この仕事から離れるかもしれないと思って……せめて感謝を伝えておこうと」

「……ちょっとずれてない?それ」

「えっ?そうですか?」

「うん」

「でも、本心なので」

うっ、真面目な人の真面目な言葉は、心の深いところに刺さるわ~。むずむずしてしまう。


「あ、ありがとう……でも私、結婚しないわよ?そして全く予定もないわよ?更に言えば、もし結婚しても仕事は続けるわ!」

「本当ですか?!」

「ええ。だから当面、レックスにはお世話になります。もう少し面倒を見てね?」

「じっ、自分などで良ければ!できれば、ずっと一緒に……!」

レックスはそこまで言うと、ハッと口を押さえて下を向いてしまった。…耳も赤い。

「……すみません、おれ、いや、自分ごときが……し、仕事!リーゼとの仕事は、とてもやりがいがあって、その」

こんなに動揺している彼を見るのは初めてだ。……嬉しいなあ。もっと、いろんな顔が見たいなあ。


ゆっくり、ゆっくり進んでいけたらいいな。


「何度も言うけど、ありがとう!私も、レックスを頼りにしているし、ずっと一緒に仕事したいわ」


レックスが顔を上げて、ホッとしたような笑顔を見せる。~~~ちょっと、やっぱり可愛いんですけど!


「リーゼ。自分こそ、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」

「うん!ねぇ!だったら、もう少し砕けて話そう?」

「えっ、それは。仕事中ですし」

「仕事中は分かるわ!でも、二人だけの時とか、休憩中とか、そういう時はいいでしょう?」

「でも……」

「仕事辞めようかな……」

「な、何を言っているんです?できっこないでしょ?!俺ごときの話し方くらいで、」

「あ、今砕けた!やったわ!」

ハッとするレックス。そして額に手を当て、がっくりとする。

「……怒った?貴族らしくなくて、がっかりした?」

覗き込むように聞く。


「かっ、顔、近っ…!ちが、がっかりじゃなくて、その!」

レックスは仰け反りながら言う。

「わかった、俺の負けです。……二人の時だけなら」

「本当?」

「……本当。リーゼにはまいるわ」

そう、いつもより砕けた口調で苦笑する姿は、いつもより自然に見えて、何だか赤面してしまう。見られたくなくて、下を向く。

「リーゼ?どうした?黙り込んで。やっぱり嫌なら戻……」

「違う、違うの、いいの!そのまま!そう、仕事!仕事に戻りましょう!休憩終わり!」

「あ、ああ」


バタバタと仕事に戻る。甘酸っぱいって、こういうことかしら。



ーーー二年後。


自分は平民だからと恐縮するレックスを口説き倒して、私達は結婚した。


結婚式は、レックスのお家を考えて、ほぼ身内だけで行った。

ルピナスシリーズ組が揃ったり、王太子妃がいらしたりしたら、そりゃあ大変よね。どのみち、ローズはご懐妊中なのでお城から出してもらえなかったろうけど……。

エマだけは、忙しい中参加してもらった。ルピナスシリーズの立案者として、皆の代表で。……もちろん、ハルト様も一緒です。二人とも、レックス側のご親戚に拝まれていた。

温かい式を挙げられて、幸せだ。


私には兄がいるし、私が平民になるのでも構わなかったのだけれど、事業絡みでレックスがレコット家に婿入りする形になった。

でも今、平民に家名を持たせる動きが出てきている。ルピナスシリーズで、商会だとか有力な農家だとかが増えたからだ。それぞれ『名付き』の商品を作りたいとの要望が多く、確かに、となったのだ。


裕福な平民も増えたし、貴族と平民の取引も増えた。グリーク王国は、こうして垣根が無くなって行くのかもしれない。


そうそう、一応。エトルも無事に魔法省長官になれたそう。結婚のお祝いの品と、おめでとうと手紙が届きました。まだ独身らしい。


「……手紙、何て書いてあるの?」

「えっ?おめでとうと、お幸せに、って。見る?」

私はエトルからの手紙を差し出しながら言う。

「……いい。別に、見たくない」

あれ、これは、もしや。

「……妬いてる?」

「…………」

無言でそっぽを向くレックス。もう!怒られそうだけど、嬉しいな。

「もう、全くなんでもないから手紙をくれたのよ。…そもそも政略での婚約だったんだし」

「……そうかもしれないけど。リーゼを傷つけたのには変わりないだろ。政略でも何でも、不誠実だ。よく連絡をして来れる……」

ブツブツと、闇に堕ちそうな旦那様。私のために怒ってくれるところ、私の大事な仲間たちと同じね。嬉しいけど。

「もう!いつまでも怒っていると、私に未練があるみたいじゃない?!」

少しキツめな口調で言う。

「そ、ういうわけじゃ」

「私の初恋は貴方なの!!初めてふわふわした気持ちを感じて、甘酸っぱさを感じて、ずっと一緒にいたいと祈ったのは、貴方が初めてなの!」

「リー…」

「なのに、まだ怒るの?」

レックスが抱きしめてくる。

「違う、ごめんよ、リーゼ。君に怒った訳じゃないんだ……何て言うか、いろいろ……でも、ごめん!!」

「キスしてくれたら許す」

「うん、ごめん、リーゼ。愛してる」


そして口付けを交わす。普段無口な方なのに、こういう時は言葉にしてくれる。……幸せ。



その後、私達は三人の子どもに恵まれた。賑やかな三姉妹だ。病院も保育園も小学校も、すっかり軌道に乗っている。


そして、今後の目標は、子ども達の手が離れたら、レックスと二人で孤児院を建てて、自分達が父母役になれたらと思っていることだ。まだまだ、人生、やりたいことがたくさんある。


いろいろあるけど、楽しくて、自由な人生だ。


……女神様、あのお二人の聖女を遣わせて下さり、ありがとうございました。共に生きる事ができて、とても幸せです。


私達も、貴女の子どもの一人として、これからもグリーク王国を支えて行きます。


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