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私は仕事がしたいのです!  作者: 渡 幸美
第三部

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17 ようやくの

式が始まる。

陛下と王妃様を先頭に、ジークとローズ、ハルトと私が続いて、バルコニーに出る。思ったより、見に来てくれている民達との距離は近い。


そして、私達の登場と同時に、地鳴りのような大歓声が起こる。これだけたくさんの人々が喜んでくれているのだ。嬉しさを感じると同時に、気を引き締める。


陛下と王妃様を中心に、向かって左側にジークとローズ、右側にハルトと私が立つ。


「皆の者、よく来てくれた!本日は千年ぶりの二人の聖女のお披露目の日だ!皆で祝ってやってほしい!」

陛下が民に呼び掛ける。始まりだ。風魔法を使って、遠方まで声が届く。その声に、わあ!と、更に沸く観衆。

「皆にも周知したが……闇魔法……月の魔力の持ち主には、今まで要らぬ苦労をかけたと思う。しかし、その時代も終わった!これからは、他の魔力と同様にこの国に貢献してもらいたいと願う!!」

観衆の間からざわざわと、期待と不安の混ざったような声が聞こえてくる。

「ローズ、エマ、こちらへ」

陛下に促され、ローズと私が陛下たちより一歩前へ出る。バルコニーの中心部分は、少しだけ前に飛び出た用な形になっている。そこに、ローズと二人で立つ。


「月の聖女のローズマリーと、太陽の聖女のエマだ!二人による、祝福を!!」

陛下の言葉に、二人で顔を合わせて頷く。そして、ローズの左手と私の右手を繋いで、それぞれ空いている方の手を前に差し出す。

「「グリーク王国に、安寧と繁栄を!女神様の祝福を!!」」


二人で声を合わせ、祝福の言葉を紡ぐ。そして、差し出した手に魔力を注ぐ。

ローズの月の、宵闇の安らぎの魔力と、私の太陽の、活力の魔力が混ざり合う。

それはオーロラのような、美しい魔力となって国全体を包み込む。そのあまりの美しさに観衆が惚けている。ゆらゆら、しばらく佇んだ後オーロラがぱあっと消え去り、星と太陽の光が混ざったような目映い光が、観衆に降り注ぐ。

ど、わああああー!!と、今までにないような歓声が巻き起こる。

「す、すごい、すごい!」

「なにこれ、なにこれ?!」

「何だか痛かった膝が治ったぞ……?」

「泣きそう!!」

「ワシの腰もじゃ~!」

「月の聖女様~!太陽の聖女様~!」

「ほんとに聖女様だ~!」

いろいろな声が聞こえてくる。大成功だ!!

皆の反応に二人で微笑み合い、観衆に向かって手を振る。皆も振り返してくれる。盛り上がりは最高潮だ。


『再びの私の娘たちへの歓迎をありがとう。グリーク王国の私のこどもたちへ、私からも祝福を』

すると、空から白く輝く光が届き、美しい声が響く。これは……

「「女神様?!」」

ローズと私が叫ぶ。その声に、観衆もにわかに騒ぎ出す。「えっ、これ、女神様?」「ほんとに?」


『そうよ。グリーク国王、そして、ジークフリートにラインハルト。……何よりも、グリーク王国の私の子どもたち。二人の聖女をお願いね』

その言葉と同時に、色とりどりの花が舞い落ちる。もう、誰も彼もが大興奮だ。

「はい、もちろんです、女神様」

「命に代えましても」

ジークとハルトの声は拡張されていないが、女神様には届いたらしい。微笑んだような空気が漂って、気配が消えた。

「……認めてもらえたようか?」

「かな?」

いつの間にか、ジークとハルトがそれぞれ私達の隣に立っていた。そしてそれぞれ、手の甲にキスをする。

こ、これはこれで恥ずかしい~!

歓声はもはや、爆音となっております。


「ジークフリート王太子と月の聖女ローズマリーとの婚姻は、予定通り二年後。ラインハルト王子と太陽の聖女エマの婚約も改めて発表する!女神様にも認められた慶事である!皆で祝ってやってくれ!!」

陛下の締めに、更にボルテージが上がる。皆の幸せオーラが見えるよう。何て、何て幸せな光景。この景色を守るために、これからも頑張らなくては。


決意を新たに、私達は手を振りながらバルコニーを去る。


そしてグリーク王国は、それから1ヶ月近くもお祭り騒ぎが続いたのだった。




◇◇◇◇◇



あれから7年。明日はいよいよ、ハルトと私の結婚式だ。え?遅い?ですか?


「遅いよ!ようやくだよ!」

久しぶりの二人の晩餐で、ハルトが叫ぶ。

「旦那様、お行儀が悪いですよ」

サムに窘められる。でもどこかで、気持ちは解りますけれどとか思っていそうな顔だ。ちなみにサムとリサは引き続きハルトに付くことになり、公爵邸にいる。ハルトが公爵になってからは、すっかり旦那様呼びだ。


「だから、何度もごめんなさいしてるじゃない……」

私はばつが悪そうに答える。

そうなのだ。婚約から7年も経ってしまったのは、ひとえに私のせい…と申しますか、何と言いますか。


あのお披露目式の後。

お陰さまで、二人の聖女の人気はうなぎ登り。事業に参加したい人達も増えて人選に時間がかかったのと、人が増えたので、更に手広くいろいろな事を始める事にもなったのだ。……そう、やりたいことがたくさんあって、しかも人まで揃ったものだから、嬉しくて手を広げてしまった。

結果的には大成功!だったけど、軌道に乗せるのには時間がかかるわけで。


お米も時間がかかりました!いや農家さんはすごいですよ!稲作は奇跡ですよ!稲は早くに見つけられたものの、商品になるまでは、なかなか……。今年、ようやく納得のものが育ちました!目指すは魚沼産コシヒカリの品質……!先は長いけど。


その間に聖女仕事もあり。そんなわけで、もちろん皆も頑張ってくれたけれど、あっちの領、こっちの領と行き来が多く、忙しくなった私がハルトと会える時間が少なかったのも事実で。

ハルトはハルトで、公爵になる準備が学園の最後の一年と重なったので、なかなか多忙だった。王太子結婚式も控えていたものだから、準備のお手伝いもあって。もちろん、ローズとジークは予定通りに二年後に結婚しました!

ハルトと私はまだ婚約者だけれど、まあ結婚も確定とのことで、二人の婚姻後、公爵邸で一緒に住むことになった。……部屋は別々で。その辺は、周りがいろいろと厳しい。ち、ちゅーくらいは、した、けども!同じ屋敷にいても、すれ違いのような生活になってしまったのだ。

それが、ようやく落ち着いた。


「兄上たちの婚姻後、すぐは難しいとは思っていたけど、まさかの7年……しかも、俺よりリサの方がエマといる時間が長いとか……仕方ないけど…」

リサは、私の筆頭侍女兼護衛として、仕事の間もいてくれたのだ。

「……ごめん」

「いや、俺こそごめん。毎回言うけど、謝って欲しいわけじゃないんだ……軌道に乗せて、エマやローズ義姉さんがいなくなっても継続できる基盤を作らなければいけないなんて、解ってる。理解してるのに、ごめん、感情的だよね」

ハルトが眉を下げながら言う。自分が困らせているようなものなのに、キュンとしてしまう私。こんなに理解をしてくれている。そして、私を待ってくれている。じわじわと、甘い気持ちが広がる。


「……ハルト、ありがとう。ハルトが見守ってくれて、協力してくれたから、ここまで来れたの。ハルト以外の人となら、きっと無理だった。……わ、私も、早く、け、結婚……したかったの、よ?」

恥ずかしいけれど、伝えなければ。この国での結婚が……その、営みを含めていたとしても。ずっと待たせてしまった……のだし……。


「うん。……ありがとう、エマ。……明日はいろいろと、覚悟をしておいてね?」

蠱惑的な微笑みで言うハルト。き、緊張してきた……。

「お、お手柔らかにお願いします……」

「ふふ、それは難しいかもね?」

挑むような表情に、顔が赤くなるのが分かる。

「あ、あう……」

「その辺になさいませ、旦那様。明日に差し支えますよ」

「リサ。そうだな、ほどほどにしよう」

楽しそうなハルト。

「お部屋は、既に整えてございますので」

続けてにっこり笑顔で爆弾を落とす、リサ。

「~~~!!」

浮かれた笑顔のハルトを余所に、私は熱い顔を下に向けて、黙々と食事を続けたのだった。


◇◇◇


翌日も気持ちの良い晴天で、私達の結婚式は滞りなく進んだ。夜には公爵邸で披露宴を兼ねた晩餐会があり、大いに盛り上がった。領民の皆さんにもお祝いのお菓子が配られる。また、しばらくはお祭り騒ぎをしてくれそうだ。嬉しいことです。


そして、更に夜も更けて。初めて夫婦の部屋に二人でいる。

「エマのウェディングドレス姿、とても綺麗だったよ。確かに聖女なんだけど……もう、どの女神よりも美しかった」

ハルトが蕩ける微笑みで言う。

「ほ、誉めすぎ……!恥ずかしいわ」

恥ずかし過ぎて、ハルトの顔が見られない。

「エマ、こっちを向いて?」

私はもじもじと顔を上げる。

「本当に可愛い。……ずっと大切にするから」

そう言いながら、深いキスをされる。もう、頭は痺れて働かない。ますます、深いキスになっていく。それは、甘い夜のスタートで……


……ようやく、私達、結婚、致しました。


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