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私は仕事がしたいのです!  作者: 渡 幸美
第三部

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16 そして当日

お披露目式当日になった。


空は雲ひとつない晴天だ。女神様がちょっと手出しをしてくれたのかな?とか思ってみたり。

急な発表だったにもかかわらず、街は華やかに飾り付けられており、出店やら何やらが沢山だ。お祭り騒ぎが嬉しいです。


「いいなあ、街中楽しそう……見に行きたい……」

私はすっかり準備万端で、待機部屋にいる。前日から王城へ泊まり、今朝は5時起きして、ぴかぴかに磨いていただきました。

「何を言ってるの。今日はエマを見てもらう日でしょ?まあ、気持ちは分かるけど」

いつもは緩めのハルト様に窘められる。

「そう、ですけれど」

ちょっとプウッとしてしまう。

「ほらほら、俺からしたらどんなエマも可愛いけど、そんな顔しないの。何度でも言うけど……ドレスもとても似合っていて……とても素敵な淑女だよ。エマと婚約できて、本当に嬉しい」

手を取り、甲にキスをされる。この世界の男性陣のスマートさは、何年生活しても慣れない。

「それより、エマ。敬語に戻ってるけど?」

「あ、すみませ…、ごめん、ハ、ハルト」

「うん」

満足気な笑顔のハルト様改め、ハルト。

恥ずかしながら少し前から、二人きりの時は敬称無しで呼ぶ事になりまして。もちろん、敬語も。


……実は、少し前に前世持ちなのがバレたのだ。


◇◇◇


それは、ローズとのお披露目魔法の練習中。ジークがふらりと様子を見に来た時のこと。

「二人とも、調子はどう?」

「ジーク!大丈夫と思うわ」

ローズがふわりと笑う。その笑顔を眩しそうに見るジーク。

「そうよ~、楽しみにしていてね?ローズファンが増えてジークが焼きもちを焼くほどの、綺麗な魔法を見せるからね!」

「それは……」

と、ジークが言いかけた所で。

「ねぇ、何でエマは兄上を愛称で呼んで、さらに呼び捨てで親しげなの?」

と、冷気を纏わせたハルト登場で。彼は水魔法使いだから、ますます冷気が寒い……とか言ってる場合ではなく。


「あっ、……と?」

思わず目が泳ぐ私。バッシャバシャですよ。

「そもそも、警戒心の強い兄上と義姉さんが親しくなる早さが尋常じゃなかったから、気になってはいたんだよね」

……有無を言わさぬ圧をかけて言葉を重ねられる。だから笑顔が怖いってばー!

でも自分だけの話でもないし、勝手に話すのも憚られるし…。……何よりも。

「エマ、ハルトとは婚約したのだし、話してもいいんじゃないか?なあ?ローズ」

「そうね、私達は大丈夫よ」

「……うん。でも……」

私は前世アラフォーだったし。そりゃ、関係ないとは思うけど!でも、結婚とか、していたし……いや、ホントに今は関係ないけれど!

「ろ、ローズ達とは、違う、もの……。き、らわれ、たり、しない、かなあ……?」

そう、何よりもハルトに嫌われたり、引かれたりするのが怖いのだ。卑屈になって、ローズとジークに当たるようにしてしまう。「……ごめん、八つ当たり……」小声で謝る。


首を振って、抱きしめてくれるローズ。優しい。大好き。

「……ごめん、気楽に聞いたけど、そんなに言いにくいこと?それなら、聞かないよ。エマはエマだしね。……ただ、そんな簡単に俺がエマを嫌うなんてことはあり得ないからね?それは覚えておいて」

ハルトはそう言いながら、優しく頭をポンポンしてくれる。泣きそうになってしまう。

こんな、中途半端に聞いたら余計に気になるだろうに。

隠していることがあるのが確定なのに、引いてくれようとしている。


情けないぞ、私!!前世も今も、お天道様に顔向け出来ない生き方はしてないはず(黒歴史はたくさんあるけれど!)!!聞かれてまずいことないし!話さないと!……と、思うけど。

「ジーク……話してもらってもいいかな……?」

自分では上手く話せる自信がなくて、お願いしてしまう。はい、チキンです。

「……分かった」

目を細めて優しく微笑むジーク。そして、ハルトに向き直る。


「ハルト。俺たち三人には、前世の記憶があるんだ」



ジークが一通り話終わる。

その間、ローズはずっと抱きしめてくれていた。

ハルトはずっと黙って聞いている。

「……信じられないか?」

ジークが苦笑気味に聞く。

「いや……驚いたけど……確かに、いろいろと辻褄が合う。そうか、女神様……」

ハルトはブツブツと一人言ちている。そして、

「うん、状況は分かった!前世の名残で親しげなんだね?じゃあもう、俺も事情を知ったし、エマ、俺も呼び捨てで呼んで!敬語もなしで!」

「え……?」

「え、って何?今ので俺がエマを嫌う要素がどこにあるの?」

ハルトがそっと、ローズの腕から私を自分の方に引き寄せる。


「だ、だって、アラフォーだったし、結婚してたし」

「うん、でもそれ、エマじゃないよね?」

「そ、そうだけど、今の事業も前世の知識の流用だし。私がゼロから考えたものでもないし」

「そうだね?でも民や国の為になる。使えるものは何でも使っていいと思うよ?違うの?」

「……違わない。私も、そう、思ってる、けど……」

「じゃ、問題ないよね?女神様のお墨付きのようなもんだし?」

彼らしく、飄々と言う。

「……私で、いいの……?」

「エマがいいの!何度でも言うよ?前世もあっての今のエマなら、それごと愛するよ。……もし、前世の旦那様が現れても、渡してあげないよ?」

私は俯きながらポロポロと泣いてしまう。こんな、泣き虫ではなかったはずなのに。

「……エマは?」

下から顔を覗き込まれる。キュンとしてしまう。

「は、ハルトが大好きです……」

言った瞬間、抱きしめられる。幸せすぎて、怖いくらいだ。


「盛り上がっている所で悪いけど、そこまでよ」

ローズの声で我に返る。き、きゃー!人前で、何を!

私が慌てて離れようとするのを、ハルトにぎゅっと止められる。

「もう、義姉さん、いい所なのに……」

「いい所で、じゃないでしょ!まだ節度を保ちなさい!」

「はーい」

渋々と腕をほどくハルト。

「エマも立派なバカップル仲間になったな」

ははは、と、ジーク。

「兄上、バカップルって何?」

「ああ、それはな……」

「その説明は要らなくない?」

「もう諦めなさいな、エマ。仲間よ、仲間」

「えぇ……」

こうして、恥ずかしくて幸せな時間が過ぎたのだ。


◇◇◇


それからはもう、呼び捨てで。ようやく慣れてきたのだけれど、時々敬語が出てしまう。

「……でも、本当に幸せだなあ。ありがとう、ハルト。私を選んでくれて。これからも宜しくお願いします」

私は久しぶりにカーテシーをする。

「……うん、こちらこそ、エマ。仕事に負けないように俺も頑張る」

ハルトが照れ隠しのように言う。

「何よそれ~!ちゃんとハルトも大事にするよ!……仕事も大事だけど」

「ほら、怪しい」

ふふふっ、と目を合わせて笑う。


少しして、ドアがノックされる。

「ラインハルト様、エマ様。お時間でございます」

リサのお迎えだ。

「分かった、今、行く。……エマ、手を」

「……はい」


ハルトのエスコートで待機部屋を出る。少し歩くとすぐに謁見のバルコニーがある部屋の前だ。

私達が着いてすぐに、ジーク達と陛下達も到着する。


「皆、揃ったな。二人の聖女の新たな門出だ。気を引きしめて、だが、何より楽しくな」

陛下がにこやかに声をかけてくださる。


「「はい!」」


「では、参ろうか」


陛下に続いてバルコニーに向かう。

皆が幸せな気持ちになれるようなお披露目式になりますように!


ローズも私も、気合い十分です!


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