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私は仕事がしたいのです!  作者: 渡 幸美
第三部

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12 小さくて大きな悩み

私達は、きゃっきゃと寮に向かって歩いている。

愛と平和って、こういうことよね…ちょっと違うかしら。でも幸せだ。

私は大仕事を終えて、ほっとした心地でいた。


「ねぇ、エマ聞いてもいい?」

ソフィアが声を掛けてくる。

「うん?何を?」

いい会社名でも思いついたかしら?

「ラインハルト殿下には、何と言われてお付き合いが始まったの?」

キャー!聞いちゃった!って、ソフィアさん…

「えっと、あの、」

油断していたので、しどろもどろな私。平和な時間はあっという間に崩れ去る…。


「ソフィア、こんな所で聞くのはどうかと思うわ」

せ、セレナ!さすがよ!言ってやって!

「えーっ、だってお茶会で聞きそびれたのだもの……セレナは気にならないの?もう下校時間だし、誰も残ってないわよう!」

ソフィア……そんな天真爛漫っぽい所も好きですけど。

「…………気にならなくはないわ」

うん、セレナの素直な所も好きですよ。

「ふふっ、なるわよねぇ?皆もそうだと思うわ!」

皆さまにこやかに微笑まれる。これ、肯定のやつですね。逃げ道がないわ……。うう。


「お、お付き合いなんてしてないわ。そもそも、そう言われてもいないし」

仕方なく私は口を開く。

「「「「「「えっ?」」」」」」

全員が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる。


「婚約者にしたい、とは言われた…の。何だか面白いし、か、かわいいし、って。で、でもそれって、聖女だし、国の宝だし、だからかなとも思うのよね」

言ってて悲しくなってきた。そしてきっと纏まりがない。けど何だか止まらない。

「いろいろとね、手を尽くしてくれて感謝もしてるの。すごい人だし、婚約者に、って……光栄なことだと思う。けどやっぱり、ローズとジークには憧れちゃうのよね」

エヘヘ、と、笑って誤魔化すようになってしまう。


「……解るわ」

セレナ。

「エマ、それって、ラインハルト殿下からは、はっきりとした気持ちの言葉は貰っていないってことなのね?」

レイチェルの言葉に、頷く。

「わ、あ~、あれだけしておいて、そうかあ」

シャロン。あれだけ、とは?確かにいろいろ助けてもらった…けど。

「威嚇も凄いじゃない。なのに、ねぇ?」

リーゼ。威嚇?初日にあの四人に、ってこと?

「ちょっと、腹立たしさも感じるわね。非常事態の横抱きにしたって、あんなに悋気を……」

ソフィア。

「そうよね……確かな言葉は欲しいわよね?だって、どんなことをしてくれたとしても、きちんと言われなければどうとでも取れるもの。嫌な言い方をすれば、向こうだって逃げられるのよ」

カリン。……そうなのだ。自分も何も伝えてないくせに、臆病になっているのはそこなのだ。情けないけれど。


「でも、あんな殿下を見たのは初めてだもの。私には、エマのことを大好きにしか見えないけれど」

「せっ、セレナはそう思ってくれる?!」

……はっ、思わず食い付いてしまった。皆の視線も集まる。またやってしまった感があるけれど。

「……エマは、そうであって欲しいのね?」

とてもとても優しい顔で、セレナが言う。

セレナの言葉に、顔が赤くなっているのが分かる。

「………………うん。そうなの…」

最後の方は、蚊の鳴くような声だ。


「「「「「「……………………」」」」」」


一瞬の沈黙後。


キャー!!と言うより、ギャー!!に近い悲鳴が廊下中に響き渡る。


「み、皆さん!さすがにはしたないわよ!」

セレナが窘める。

「そ、そうだけど、セレナ、もうエマが可愛すぎるわ!」

「そうよね、ソフィア!もう、隠してしまいたいほどよ!」

「シャロン、分かるわ~!」

「うふふ、そうだと思ってた!」

「ね!レイチェル!」

皆で大盛り上がりだ。学園の人にでも見られたら、きっと皆さんヤバいです。


「気持ちは解るけど。……エマは、ちょっと不安なのよね?」

セレナの言葉に、こくんと頷く。

「さっきカリンも言っていたけど、確かな言葉がないとねぇ」

レイチェル。

「そこよね!殿下、意外とアレねぇ。誰がどう見ても……ではあるけれど」

「本当。ちょっと残念」

ソフィアとカリン。わやわやと、殿下批判が始まってしまう。


「あ、あのね!でもね!殿下、すっごく優しいの!いろいろ考えてくれていてね、皆と仲良くなれたのも……!」

居たたまれなくなって、ちょっと反論してしまう。そして、皆の生温かい視線に気付く。

「あう…だから、その」

もーうー!!せっかく、頑張って気持ちを落ち着けて、1日過ごしていたのにー!

顔が熱い。熱すぎる。


「そうよね、ごめんなさい、エマ」

セレナが代表のように、微笑みながら言う。

「そうね」「うんうん」と、皆もお姉ちゃんのような微笑みだ。

優しい空間だ。恥ずかしいけれど。


その後もあれこれ聞かれながら、私達はようやく寮にたどり着いたのであった。


◇◇◇


寮の自室にようやく帰宅。はーっ、と大きなため息をつく。

「ああ、楽しかったし、充実した時間だったけど、最後疲れた……」

けれど、皆に嘘をつきたくもなかったし。物凄く恥ずかしかったけど。


「恥ずか…しい」


そ、そういえば。

きゃー!きゃー!あ、明日もラインハルト殿下はお迎えに来てくれちゃうかしら?く、くれるわよね?

あの生温かい視線の中を、耐えられる自信がない!絶対にまた挙動不審になる!


「ど、どうしようかなあ」


私の小さくて大きな悩みを余所に、夜は更けていった。





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