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私は仕事がしたいのです!  作者: 渡 幸美
第三部

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7 治療院へ その2

ちゅ、中途半端に投稿してしまいました!

こちらで、お願いします。

「おっ、エマちゃん、ちょっと久し振りだな?」

「ゲイルさん、こんにちは!お加減どうですか?」

「この間、ヒールを当ててくれただろ?だいぶ楽だよ」

「それは良かったです」

院長とラインハルト様と三人で院内を歩くと、入院患者さんに声を掛けられる。

「ん?そっちの男前は…え?まさか、ラインハルト殿下?!これは失礼を……」

「気にしないでくれ。こちらが病院にお邪魔している。……この病院はどうだい?不便はない?」

「そ、それはもう!良くしていただいてます!職員の方も皆さん優しいですし、何より今は聖女様の顔まで見られる。すぐに元気になるってもんです」

「そうか。それは何よりだ」

優しく微笑む殿下。

そしてゲイルさんの大声で、患者さんやお見舞いの人々が殿下に気づいて周りを囲い始めた。

これは、大丈夫なのか?

「殿……」

私が止めに入ろうとすると、それをそっと手で制されて、集まってきた人たちに丁寧に対応する。

聖女の力も薬の力も大事だけど、こういうことでも人は気力が湧くものだ。ちゃんと自分の使い道を分かっている人だな。……そもそも、優しい人だし。


それから暫くの間人に囲まれていたが、院長の「そろそろ殿下もエマも仕事に戻る。皆ももう休みなさい」との一言で解散になった。絶妙なタイミングで、さすがだ。

そして今、いつも借りている王立病院の一角の「聖女診療所」的な部屋に、殿下といる。院長はご自分の仕事に戻られた。


「ここで診療してるのか。薬も結構置いてあるんだね?」

「そうですね。不遜な事を言えば、私のヒールで大抵の怪我や病気は治せますが、さすがに来る方全員にとなると身が持ちませんし。命の危険があるほどの大怪我ですとか、そういう時にはどうしても力をかなり使いますから、備えておくというか」

ものすごく頷く殿下。だから、普段は分かっているんですってば!

「痛みとかは取ってあげて、後はちょっと魔力を付与した、聖女特製の良く効くお薬で治してもらう感じです」

「なるほど。なかなか効率的だね?」

「ありがとうございます」

「無償なんだよね?ごめん、その辺俺はノータッチだ。どうしてるの?」

「お薬は、王立病院ですので国からの補助を少し分けてもらうのと、寄付をしてくださる貴族の方も多いです」

「……エマ嬢には?」

「えっ?私はいりませんよ!まだ学生ですし、趣味と修行を兼ねているようなものですから。学園で衣食住も困らないですし。むしろ、勉強できてラッキーって感じです」

エヘヘ、と笑う。

「……そっか」

眩しそうな笑顔で答える殿下。その笑顔が優しすぎて、何だか急にまた意識し始めてしまう。


「そっ、そうなんです!で、ですね、将来的にはセレナ様たちにもお力をお借りしてですね、薬の研究なども出来たらと…」

「うん」

「そうだ、殿下のお陰で、リーゼ様たちともお茶会をする事になりました!ありがとうございました」

「それは良かった。楽しみだね?」

「はっ、はい…」

「……エマ嬢たちが事業を起こす時には、俺も手伝わせてね?出資するよ」

「あ、ありがとう…ございます……」

殿下の優しい返事がくすぐったい。私は今、どんな顔をしているのだろう。


何とも言えないような、穏やかな優しい空気が漂っているような、そんな時間が過ぎる。


「あ、エマねーちゃん、今日はいた!良かった!」

子どもの元気な声で、我に返る。いけない、いけない。

「こんにちは、リオくん!お母様は元気になった?」

「なったよ!お礼を言いに来たんだ!この前来たのにいなかったからさ」

リオくんは今9歳。お父様は亡くなられている。そしてリオくんのお母様は、重度の肺病に罹っていたのだ。先日強めのヒールを施し、その後改良したお薬で順調に回復しているようだ。

「ごめんね、ちょっと忙しくて。でも、お母様が元気になって良かった!」

「大丈夫!で、これ、お礼!」

小さなリンゴを差し出される。 

「わあ、ありがとう。でも、いいの?リオくんもリンゴ好きでしょう?」

「いいんだ!」

ニカッと笑う。この子にとって、このリンゴの価値はどれほどだろうか。泣くのを堪える。

「……ありがとう、大切に、いただくね」

もらわないのも、この子の気持ちを無下にしてしまう。大切にいただこう。


「ちゃんとお礼に来られて、偉いな、リオ?」

そこに殿下が口を挟む。

「わっ、びっくりした!え、誰?この男前!ねーちゃんの彼氏?!」

「そうだな」

し、しれっと、な、何を!

「ちっ、違うわよ!リオくん、こちらラインハルト殿下よ。絵姿で見たことはない?」

「…でんか?あ、ほんとだ!王子様だ!すげー!」

「すげー、って、リオくん……」

「いいよ、エマ嬢。それより、リオは本当に偉いぞ。人にお礼を言うことは、とても大事だ」

「うん!かーちゃんにもそう教わった!」

「そうか、いいお母上なんだな」

「うん!」

嬉しそうなリオくん。かわいいわ……

「リオは、買い物はできるかな?」

「できる!当たり前だろ!」

「そうか、じゃあお仕事だ。頼んでもいいか?」

「お仕事?やる!」

「では……」


殿下はクッキーなどのお菓子を数点、病院近くの菓子店で買ってくるようにリオに伝えた。そしてものの10分位でリオが戻って来る。

「ありがとう。では、仕事代だ」

渡された額は、平民からすると四人家族で1週間は余裕に暮らせるもので。

「えっ、こっ、こんなに?多いよ!」

リオは焦る。そうよね、時給換算したら、すごい額だわ。

「多くないぞ。このお菓子は病院で働いている皆に差し入れだ。皆喜ぶし、仕事も捗るだろう?それに、リオとお母上が元気に生活してくれるのも、立派な仕事だ。たくさん勉強して、かっこいい大人になってくれ」

殿下は、リオを真っ直ぐに見つめて話す。

「……うん!分かった!ありがとう、ございます!」

リオも真面目な顔で答える。そして、何度もお礼を言って帰って行った。


「……殿下、ありがとうございます」

「……いや、これくらいでは、気休めだろう。自己満足だな」

自嘲気味に言う。

「そんな事はないと思います。こういう、一見ささやかな出来事が、きっと今後を支える思い出になってくれます」

「そう?だといいけれど……」

「なります」

私は断言する。

「そっか。エマ嬢が言うと、そう思えるよ。…俺も、もっと頑張らないとな」


二人で微笑み合う。


その後は、すぐに別の患者さんたちがバタバタと来て普段通りの忙しい診療所になり、慌ただしいままにそこでの時間が終了したのであった。


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