9 女神の間
「こちらです、どうぞ」
ルースさんに案内され、私達は女神の間に入る。
私は勝手知ったるという所ではあるけれど。
「わあ……」
ローズが珍しく感嘆の声をあげる。
「部屋自体もとても美しいけれど……本当に空気が、空間が澄んでいて、凛としているのが解るわ。エマが話してくれた通りね」
「ね?解るよね?」
そうなのだ。入って正面に美しい女神像があって、その像の両横には火の消えない燭台が整然と佇んでいる。その足元は小さな噴水のようになっており、やはり枯れない蓮の花が浮かんでいる。それだけでも神秘的なのだが、部屋の壁一面に不思議な形をした、人工では難しいであろう精巧な彫り物がされていて、この壁が余計な魔力を弾くというか、吸収してくれるというか、ともかく、部屋から魔力を溢れさせてしまうことは無いのだ。
「ここが、女神の間か」
ジークが一人言のように言う。
「ジーク…様は初めて、ですか?この部屋」
「そうだな。この部屋の存在は王家は認識しているが、自由に出入りすることは許されていないからな。そうか、ここが聖女修行の場か。納得だ。それとエマ、今はルース殿しかいないし、いつも通りで構わないよ。しかも先程に、ローズをしっかりローズと言っていた」
ジークが含み笑いをしつつ答える。
「はーい!ではそうします!」
気の置けない人たちに囲まれると、猫かぶりが難しいので助かります。
「では、ローズマリー様…こちらの女神像の前へ。最初ですし、エマも一緒にしましょうか」
「「はい」」
ルースさんに促され、ローズと私は女神像の前で膝をつく。
「ローズ、まず女神様に祈りを捧げるの。いつものお祈りと同じで大丈夫よ」
「分かったわ」
私達は胸の前で手を組み、頭を下げて祈りを捧げる。
(女神様、勝手に御神託と利用してしまってごめんなさい。きっと人のために役立てますから……)
ついでの様で申し訳ないが、昨日の嘘も謝っておこう。
すると。
女神像が目映い光で輝き出し、アッシュブロンドの髪ではちみつ色の瞳をした、この世のものとは思えない美しい女性が現れた。…この世の人ではないのであろう、身体の周りのオーラが発色して輝いて見えている。
これは、もしや……
「「め、女神様……ですか?」」
ローズと同時に言った。
すると、その女性はとても美々しい笑顔を向ける。何だか、何でも言うことを聞いてしまいたくなるような、美しすぎる笑顔だ。
「そうよぉ!!エマ!ローズ!やあっと聖女が二人揃ったわー!嬉しい!!」
そう言って、美しすぎる女神様は私達に抱きついてきた。
えっ、女神様イメージが違う……とか思ったけど、私も人(?)の事は言えないし。何だか、抱きしめられているとものすごい安心感だし。ローズもそうなのだろう。私達はなされるがままに、女神様に身を預けていた。
どれくらい経ったのだろう。
「女神様……大変恐縮ではございますが、ご挨拶をさせてもらっても宜しいでしょうか。私はこの国の王太子であります、ジークフリート=グリークと申します。女神様にお会い出来ましたこと、大変光栄にございます」
ここでもまた、ジークが一番に我に返り女神様に礼をする。ルースさんも後に続く。
「神官のルース=ハーベルトと申します。女神様に拝謁叶いましたこと、恐悦至極に存じます」
「ええ、ジークフリートにルース、ちゃんと知っているわよ!あなた達も、私の可愛い子ども達!だけどそうね、ちょっと聖女の二人は特別なの。……少し二人を借りて行くわね!」
「「「「えっ」」」」
女神様は私達が何かを言う間もなく、ジークとルースさんにウインクをしながら、ローズと私を違う空間へと連れて行った。




