7 神殿に行こう
さてさて、夕べはパジャマパーティーを堪能しまして、朝になりました。
あの後、ローズのノロケ話しやらのろけ話やらを楽しく聞いて、日付が変わる頃には寝ました。今日…つまり次の日に予定がありますからね、闇魔法練習の。睡眠不足は大敵です。その辺を考えられてしまうのが、マジメな私達……五人位が寝られそうなベッドで二人で寝て、ぐっすりでございます。
そして只今、朝食中。朝は、ジークも含めた三人で。ふかふかパンが美味しい。
「そうだ、今日の魔法の練習ね、私、考えたんだけど。神殿に行かない?」
「神殿に?」
「うん、思い出したんだけど、聖女修行をやる部屋みたいのがあってね。そこは空気も凛としていて神聖で、すごい、こう……良かったのよ。女神像もあって、不思議な安心感もあって……魔力の暴走も押さえられる特殊な空間になってるみたいだし、いいかもしれないと思って」
「なるほど。よさそうだな。行くか?ローズ」
「もちろん!」
ジークはすぐに人を呼び、神殿に先触れを出すように指示をする。フラッと行っても大丈夫な気もするが、さすがに王太子殿下と公爵令嬢が行くとなると、そうもいかないわよね。
神殿から了承の返事ももらい、支度をして、私達は馬車に乗り込む。王家の馬車も乗り心地は最高だ。ジークが向かいに座り、ローズと私が並んで座っている。今日はまだ内緒話があるので、ニーナはお留守番だ。そして馬車の外には、もちろん護衛さん達が馬でついてくる。ちなみに四人。ちょっと多く感じるけど、王太子と公爵令嬢だもんね、仕方ない。今さらだが、王族の護衛の方々は皆さん魔法騎士さんだ。
そして今日の私は、外出着の軽めなワンピースみたいなドレスをローズに借りて着ている。ローズも私と似た格好だ。それでも上品。ジークも少し軽装。と言っても、お忍びのお貴族様だとすぐ分かるレベルだ。二人ともキラキラしいし。
「いや、エマもキラキラしてるからね?」
ローズが苦笑しながら言う。あら、声に出ちゃってたのね。
「その自覚の無さ、少しはどうにかした方がいいぞ」
「え、そんなに?」
「「そんなに」」
う、うーん、ちょっと前世に引き摺られすぎかなあ。客観的にエマの可愛らしさは理解しているのだけれど。エマが自分だって意識はあるけど、そこは抜けがちと言うかなんとも言うか……二人といる機会が増えると言葉使いも緩くなるし、学園でも周りの人達がキラキラしてるから、そちらに意識を奪われてしまう事が増えたかも。いかんいかん。
「……忘れちゃうのよね。あと、なかなか扱い切れなくて」
「そこがいい所でもあるけどね」
「でも少し気を付けないと、また余計なのを寄せ付けるぞ」
「余計なのって言われましても……」
それってもしかして、自分の弟も入ってます?
「ジーク、心配なのも分かるけど、言い方!……まあ、確かに心配だけど、エマのそういう所も好きだから悩ましい……」
「二人ともありがとう、ちょっと意識して頑張ってみる!」
「無理はしなくていいと思うわ。エマらしさがなくなるのも寂しいし。何か矛盾しちゃうけど」
そんな話をしているうちに、馬車は神殿に到着した。
神殿は、各地にある教会の総本山みたいな所だ。
王城から近く、学園の反対方向へ馬車で20分くらい。
神殿の入り口で、ルース神官が出迎えてくれた。
「ジークフリート王太子殿下、イベレスト公爵令嬢、ようこそいらっしゃいました。お待ちしておりました」
「本日は世話になる」
「はい、何なりと」
そして私を見る。
「エマは先週ぶりですね、変わりないですか?」
「はい!ルースさんもお変わりないですか?」
相変わらず眩しい笑顔だ。
「そうですね…ああ、先日、私の実家に所用がありましたので、帰った折にエマのお母様のご様子も見て来ましたよ」
「わ、ありがとうございます!学園に入る前に少しだけ帰れましたが、それきりでしたので。手紙のやり取りはしていますけど」
ルース神官のご実家、ハーベルト伯爵家はうちの実家のお隣の領地だ。王都から馬車で丸1日かかる。ルース神官は時々ご実家への用事がてらに母の所に寄ってくれるのだ。ありがたい。
「お変わり無さそうだったよ。エマによろしくと」
「はい」
「そうそう、それと。エマのアドバイスが役に立ちまして、実家のゴタゴタも無事に解決したのですよ。ありがとうございました」
「え?ご実家のゴタゴタ?私、何かしましたっけ?」
ヤバイ、覚えていない。
「ああ、すみません、詳細は話してなかったですよね。私が勝手に参考にさせてもらいました。…ふふ、何事も自分次第ですよね」
……そんな話は何だかしたことあるような。
「ともかく、ありがとう」
そう言って目を細めて、ルース神官は私の頭をポンポンと撫でる。
わ~、イケメンにこんなんされたらヤバすぎる!
「る、るーすさ…」
「ルース殿、そろそろ移動しても?」
苦笑しながら、ジークが入ってくる。
「これは大変失礼しました。ご無礼を」
「まあ、構わんが。神殿の皆がエマを可愛がっていることは認識しているのでな。しかし時間も限られているからな」
「恐れ入ります。…中へご案内いたします。大神官様もお待ちですので」
「楽しくなって来たわね……!」
やり取りを黙って聞いていたローズが、一人言ちる。
ローズさん、周りに聞こえないような小声ですが、私には聞こえてますよ!




