5 パジャマパーティー開始、の前に
晩餐のお開きの後、ローズと私は湯浴みをし、かわいいネグリジェにお着替えし、やはりとても広くて綺麗なお部屋で、念願のパジャマパーティー待機中です。
「エマ、私もお茶を淹れるの、なかなか得意なのよ!淹れて来るから、待ってて!ニーナ、エマをよろしくね」
「はい、ローズお嬢様」
ニーナさんは、ローズの専属侍女だ。公爵家の侍女だが、ローズが正式に王太子妃になった後も、そのまま専属でいる事が決まっているようだ。
「エマお嬢様。僭越ながら、少しお話してもよろしいでしょうか?」
「はい」
うーん、年上の人に畏まられるのって、どうにも慣れないんだよな…
「ありがとうございます」
「はい?」
「ローズお嬢様の事です。あのようにお年頃のまま楽しそうにしておられるのを、ここ何年も見ることが叶いませんでしたので……とても嬉しいのです。きっと、エマお嬢様のお陰ですよね。私達にはなかなか出来ないことでしたので…本当に本当に嬉しくて……」
そうだ、ローズはきっと前世を、ゲームを思い出した5歳の時から、ずっとずっと気を張っていただろう。
信頼しているであろう、ニーナさんにも話すことも出来ずに。
ニーナさんのその表情は、慈愛の女神のようだ。姉のように母のように、そんなローズを支えてくれていたのだろう。この部屋まで歩きながら、ローズはニーナさんの話をしてくれていた。子どもの頃から尽くしてくれていると。
「ニーナさん……私の方こそ差し出がましいようですが、これからもローズを支えてあげてください。さっきローズ、言ってました『ニーナが居てくれたから、今までのいろいろなことを耐えられた』って」
「お嬢様が……エマお嬢様、ありがとうございます」
目に涙を浮かべて微笑むニーナさん。ちょっとしんみり…していましたが。
「あともうひとつございます、エマお嬢様。私達に敬称と丁寧語はいりません!ニーナ、とお呼びください」
涙を拭いて、キリッと優秀な侍女に戻るニーナさ…ニーナ。
「え、え~、どうしても慣れなくてですね…」
「慣れて下さい」
わーん、厳しい笑顔!さっきまで女神様みたいだったのにー!
「ハイ…ガンバリマス」
「敬語……」
「ええ、分かったわ!」
これでいいですか?!もう、さすが侍女兼教育係!
「お待たせ!あら、ずいぶん打ち解けたみたいね?」
そうですね、打ち解けたと言うか何と言うか。
でも、彼女が居てくれるのは、ローズの友人としても心強い。
「ニーナはとても素敵な侍女ね!」
「ふふっ、いいでしょう?でも、さすがのエマにもニーナはあげられないわよ?」
「えー、残念!」
「ごめんね」
イタズラっぽく笑うローズ。ここにジークがいたら、きっと大変なことになっているだろう。
そしてそのローズの言葉を聞き、堪えきれなくなったニーナがポロポロと泣き出した。
「えっ、ちょっと、どうしたの、ニーナ?」
「申し訳ありません…情けない姿をお見せして…お嬢様にそう言っていただけるなんて……」
嬉しくて、と言うニーナの両手を包み込むローズ。
「当たり前じゃない。ずっとずっと、大切に見守ってくれていて、ありがとう。なかなか感謝を言えずにいて、ごめんなさい」
「そ、んな、勿体ない……」
「ううん、今までどれだけニーナに救われたか。これからもずっと側にいてね?」
「もちろんです!!」
「ありがとう」
そしてニーナは、ローズが淹れてくれたお茶を「私にも?」と恐縮しながらも幸せそうに持ち、部屋を出て行った。
「いいなあ、お嬢様と専属侍女の絆…憧れる…!」
「エマも付けてもらえばよかったのに」
そう、聖女認定された後、そんな話をいただいたのだが。
「うーん、どうせすぐに神殿入りだったし学園は寮だし、一人で出来るから固辞しちゃった。それに急に人が付いてもさあ」
「ああ、それはあるかもね。最初からだと慣れるけど」
「そうそう、憧れでいいの!」
ちなみに、正式な式典の時に一人で着られないようなものを着るときは、王宮から侍女さんが来てくれる。充分です。
「ローズのお茶も、美味しいわ」
「ありがと!さあ、念願のパジャマパーティーを始めるわよー!」
お手柔らかにお願いします。




