3 大事な話です
……と、口に出さなかった私を、誰か褒めてください。
「ハルト、お前は本当に、何を、言っている?その様なこと、冗談で言って良いことではないぞ」
わーん、そうだぞ、ばかラインハルト!せっかく鎮めたジークの怒りが再燃しちゃったではないか。
「冗談なんかじゃないよ。エマ嬢面白いし、かわいいし、気に入った」
「この……!」
「それにさあ!!」
ジークの言葉を遮って、ラインハルト様が続ける。
「エマ嬢、婚約者いた方がいいんじゃないの?……俺となら、周りも大人しくなるんじゃない?」
不敵な微笑みを浮かべながら話す。
「…………っ、いや、お前はでは役者不足だよ」
ジーク、一瞬考えたな?
「えー、兄上ひどーい」
「何がひどいだ!いつまでもフラフラしやがって!」
ジークまで言葉が乱れて来ております。
「まあ待て、ジーク。確かに悪い話ではなかろう。エマ嬢さえ良ければ、だが」
「……父上」
ジークがジト目で陛下を見る。ローズは心配そうに、ジークと私を交互に見ている。
「そんな顔をするな。エマが王家に嫁いでくれれば、聖女がずっとこの国に留まってくれるということだ。国王の立場からすれば、それは考えるだろう?」
「……エマは、婚姻など無くとも、この国に……延いては私とローズに尽くしてくれると宣誓してくれました。…非公式ではありますが」
はい。文書が必要なら、公式にしてもいいですよー。
「それは……そうなのか?」
陛下が私を見る。
「はい」
私は陛下の目を見て答える。
「父上…いえ、陛下。その件も含めて、お話したいことがあります。……人払いをお願いしても?」
ジークの言葉を聞き、陛下が頷き手を上げると、使用人の皆さんはさっと部屋を出ていく。丁度デザートを並べてくれた直後だった。
「ありがとうございます。まず……」
ローズの闇魔法のこと、私が考えている事業のこと。ジークが静かに話し出した。
「エマ……闇魔法は、本当にそんなことが出来るのか……?」
全てを聞いた陛下が、絞り出すように言った。
「はい。できると思います。女神様の御神託ということもありますが……何より、私の聖女としての力が、出来ると言っているのです」
そう、本当に聖女の力なのだろう。確信があるのだ。
「なんと……」
「ローズ、ああ、ローズ……!」
王妃様が立ち上がり、ローズを抱き締めに行く。
「良かった、本当に良かった……!私たちは王太子妃はローズしか考えられなかったけど……!きっともう、これで誰にも文句は言わせないわ……!!」
「王妃様……ありがとうございます」
やはり皆涙ぐんでいる。きっと、私がさらっと聞いた以上に大きい声もあったのかもしれない。それでも、私を聖女として正当に扱って下さっていた。ああ、やはり仕えるべき人たちだと、また心を新たにする。
「何だかあれだね、ローズ義姉さんまでそんなことができたら、聖女が二人いるみたいだねー!」
若干空気を読まない口調だが、そのラインハルト様の言葉に、本人以外の全員がハッとした顔をする。
「そうだ…二人の聖女……こういう、ことか…こんな奇跡が…」
いつもは毅然とした陛下が、見せたことのない表情をして呟いた。その瞳には涙が浮かんでいた。




