2 婚約者候補登場?!
私は今、王城で、王族の方々がお食事をなさる食堂で、ちょこんと座っております。
目の前には、宝石のような前菜がキラキラ…眩しいです。私は緊張していても美味しいものは味わえる神経の持ち主なので、それは楽しみだったり。
「やあ、待たせたかな」
少しすると、陛下と王妃様が入って来られた。私たちは立ち上がり、礼をする。
「ああ、よいよい。三人とも座りなさい。ジークににも伝えてあるが、今宵は身内だけの晩餐だ。気楽にしておくれ。エマは久しぶりだね。今日は楽しんでくれ」
「ご無沙汰しております、陛下。ありがとうございます」
威厳はあるものの、穏やかな陛下。正しくこの国の象徴のような方。ジークが歳を重ねると、こうなりそうだなあと思うくらい似ている。イケオジ。
お母様の王妃様も、とても綺麗な方。亜麻色のつやつやな髪をアップにされている。アメジスト色の瞳がとても美しい。
「ローズ、エマ、ようこそ。今日は女の子が多くて嬉しいわ」
王妃様がふわっと微笑む。後ろに大量の花束が見えるようです。陛下も、ジークと同じで嫁溺愛なのよね。気持ちは分かります。もちろん側室もいない。
本日の席次は、陛下を中心に向かって左側にジーク、ローズの順に、右側に王妃様、私となっている。私を聖女として、王族に準じて扱って下さっている。そして更に私の隣にも、もう一席。そこはきっと…
「ごめーん、ちょっと遅れた?」
「これ、ラインハルト様!」
「はいはい、サムはうるさいね~。お待たせしましたか、皆様?」
執事長のサムさんに窘められながら登場したのは、第二王子のラインハルト殿下だ。ジークのふたつ下の弟君。
色味は完全に王妃様。またジークとは違った、少し線の細い綺麗な王子なんだけど……。
「ローズ義姉さん、久しぶり~!学園でもあんま会えないよねぇ?」
「ハルト、嬉しいけれど、まだ義理姉ではないわ」
ローズが苦笑しながら窘める。
噂には聞いていたが、本当に自由な方のようだ。
「おっ、隣はウワサのエマ嬢?ちゃんと会うのは初めてだよね?へー、ほんとに可愛いんだね」
「初めまして、ラインハルト殿下。お褒めいただき、光栄ですわ」
噂って何だよと思いつつ、淑女の笑顔を張り付けて答える。
「ハルト、失礼だぞ」
「何で?褒めてるじゃん。身内だけだし、いいだろ。全く兄上は固いねぇ」
「お前な…」
「ジーク、分かるがそこまでにしよう。晩餐が始まらない」
「……はい」
ものすごく言い足りない顔をしながら、ジークはラインハルト様をひと睨みして、口を閉じる。当のラインハルト様は、どこ吹く風だ。王妃様も何か言いたいことを堪えてるようにも見える。
「さて、ローズ、エマ、待たせたね。晩餐を始めよう」
わーい!
晩餐は和やかに進む。王宮の料理人の腕はさすがで、何を食べても美味しい。自然に顔が緩む。ちなみに私、好き嫌いないです。
「エマ嬢って、美味しそうに食べるねー」
「え、そうでしょうか?ありがとうございます?」
急にラインハルト様に笑顔で言われる。えっ、マナー?何かダメ?と思いつつローズ達をチラッとみると、大丈夫と目で答えてくれる。ホッと胸を撫で下ろす。
「何で疑問符ついてんの、褒めてるのに」
ラインハルト様が楽しそうに笑う。
「ありがとうございます…本当にとても美味しいので」
「お口に合って嬉しいわ。シェフにも伝えておくわね」
王妃様も喜んでくださる。
「うん、美味しそうにたくさん食べてくれる子っていいよね。あの四人の気持ちも分かるなあ」
あ、噂って、それ……てか、今言うの?
「ハルト!!いい加減にしないか!」
ジークが少し大きな声で、ラインハルト様の話を遮る。
「えー、何、兄上?そんな怒ること?いいじゃん、聖女様なんだから人気者で。それとも何、兄上もエマ嬢狙ってるの?浮気者~!」
「ーーーーーーっっ!」
ヤバい、ジークマジギレだ。何なのこの弟。お兄ちゃんに構って欲しいのかしら?にしても悪手としか思えないけど。ローズがジークの左手に手を添え、必死に窘めている。そんな姿も甲斐甲斐しくて可愛……って、それどころじゃない。
「ラインハルト様」
私は努めて冷静な声を出す。
「学園でどのようなお話をお聞きになられたのかは存じ上げませんが、ありがたくも私は、クラスメートをはじめ皆様に大変良くしていただいております。……それも、ジークフリート殿下とローズマリー様に転入初日からお世話になったお陰ですわ。
ふふっ、陛下、王妃様、殿下とローズ様、学園でも本当に仲睦まじくていらっしゃいますのよ?」
「あらっ、そうなの?」
ちょっとはしゃぐ王妃様。
「ちがっ、いや、違うと言うか違わないが……エマ、何をっ……」
うん、ごめんね、親の前で。でも動揺して怒りは飛んだでしょ?ししし。ジークの隣で真っ赤になって俯いている、ローズが尊い。
「はは、ジーク照れずとも良いではないか。婚約者同士が睦まじいのは喜ばしいことだ」
「……はい」
ジークはまだ片手で顔を覆いながらも、チラッとローズを見る。そして、たまたま顔を上げたローズと目が合い、二人でふにゃっと笑う。きゃー!きゃー!照れてるのか見せつけてるのか、分からないわよー!
「陛下、王妃様、見ました?見ました?今の!」
しまった、つい、テンション高く。「あっ、すみません」
「よいよい、楽しいな。これは婚姻後はすぐに孫の顔が見れそうだな」
「まあ!陛下ったら気の早い……でも、そうですわね!」
お二人とも楽しそうだ。良かった。
「まっ、孫……!」
こちらのお二人は、恥ずかしがりすぎて表情が作れなくなっております。愛くるしいわ……。
「ふふっ、私今日も見せつけられっぱなしでしたのよ?学園でもお二人の仲は有名で、付け入ろうとする猛者はおりませんわ。私、まだ婚約者もおりませんし、お二人にとても憧れてますの。きっと、陛下と王妃様のような、素敵なご夫婦になられますわ!」
麗しい将来のご家族が、麗しい笑顔で微笑み合っている。眼福すぎる……私、また死ぬのかな……?いやいや違う、話、逸らせたな!本当の事だけど!よしよし。
「……ふぅ~ん、さすが、聖女様、ね」
ボソッとラインハルト様がおっしゃったが、聞こえない。
「ラインハルト様?」
「いやいやー、ほんと、兄上たちは仲良しだよねー、羨ましいよー」
急にどうした。白々しくて、嫌な予感がする。
「と、言うわけで、エマ嬢は俺と婚約しようか!」
ほんと、何だこいつ。




