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私は一般人(モブ)である。  作者: 雨空 雪乃
第一章 〜一般人に憧れた私〜
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やっつめ 〜あのおかた〜

 「グッ…!うぅ…!」

左手で放った銃弾は、オベールの左肩…守護刻印を貫いた。彼はそのまま、床に倒れ込む。魔力の(いしずえ)である刻印を壊されれば、魔術師はもう魔術を使えない。

 「おのれ…おのれサクラ・ナ・スフォルツァ…!貴様…!ヘイムダル様だけでなく…!クソがぁ!」

オベールは撃たれてなお叫び続ける。

 「オベール…私はあなたを殺さない。ヘイムダルも、殺してない。意味がないもの」

 「貴、様ぁ!よくもぬけぬけと!」

 「私はね、普通に生きられればいいのよ。こんなことも、本当はしたくないんだよ」

 「ぐ…ぬぅ…!だったら…何故ヘイムダル様を…!」

 「だからそれは私じゃないよ?私はただの発見者。その場にいただけ」

 諭すようにそう言うと、彼は少し落ち着きを取り戻したようだ。

 「ならば…ならばなぜ『あのお方』は…お前を…お前が犯人だと…?」

そう、そこだ。その人っていうのは、誰なの?

 「『あのお方』っていう人が、あなたをけしかけたと、思う。きっとヘイムダルを殺した本当の犯人は…」

 「……そうか…。そういうことか…。サクラ…済まなかった…俺が鵜呑みにしたばかりに…」

 「うん、いいよ、もう。それより、『あのお方』って、誰なの?」

 『術式の発動を確認。解析を開始。』

私は頭の中に響いたその言葉を無視して、彼の言葉に耳を傾け続ける。

 「『あのお方』はな…影の力を俺に与えてくれた…。自分を『影の御使い』だと、そう言っていたんだ…。確か名前は……。グァッ!」

オベールは突然頭を抱えて苦しみ始めた。何が、いや…術式…!?一体どうなって。

 「あぁ…!グッ…ウァァ!!!…あの、『あのお方』の名は…!!アァアアアア!!!!!」

パァン!…という音がして、オベールの頭が弾け飛んだ。驚いて飛び退く。なんで…!どうして…!?すると、頭の中にまた声が響いた。

 『解析を完了。該当…『影魔術(ノクターン)』と断定。契約者の言語をトリガーとして発動する契約魔術と推定』

 契約…魔術…?聞いたことはあるけれど、こんな…酷い魔術だとは…。でも、一体誰が?

 ◆ ◆ ◆

 目を覚ましたルイン課長とギル爺に、私は状況を説明した。まぁ、話すより先に、ギル爺には治癒魔術を施したんだけど。さすがは神たちの王だ、あっという間に回復した。…大事にならなくて良かった…。

 ギル爺とルイン課長、それに私は、オベールの遺体を確認する。それは、ヘイムダルの亡くなった状況とほぼほぼ一致している。やはり犯人は『あのお方』、ということになるらしい。

 「サクよ、とりあえずは…あれだな…。よく頑張った。褒めてやろう」

と、ギル爺は私の頭をくしゃくしゃと撫で回す。

 「えぇ、残念な結果にはなってしまいましたが……。サクラ殿、よく頑張りましたね。ありがとうございます」

なんて、ルイン課長は深々と頭をさげた。

 「サクよ、それにしても、あの頃のリアにそっくりだな。…はは、懐かしいわな」

 「えぇ…そうですな。あの頃のリアークによく似ています。こう見ると、彼の子どもだと…実感がわきますね」

と、ギル爺とルイン課長が私に言う。性別違うからあんまりいい気もしないけど…まんざらでもなく私はつい頬が緩んでしまう。

 「しかしだな…さすがにもう…それはしまっても良いのではないか?」

私の両手には、まだ銃も、装甲も展開されたままだった。

 「あ、うん。そうだね…忘れてた。……術式終了(コールオーバー)…」

装甲はフッと光の粒子になり、私は元のコート姿に戻る。両手の銃は腰に戻した。

「しかし…こやつはなぜこんな姿に…影の契約魔術…そいつは…」

謎は残るばかりだ。

 事後処理も済み、さすがにその日はもう何もする気も起きず。明日また、という話になり、3人は各々帰宅するのだった。

 …まぁ、返り血まみれでまーぁ母さんに心配されたよ。それはもうこれでもかってくらい。

 ◆ ◆ ◆

 『カナタも元気そうで何よりだな…。』

 ベッドに入るなり、頭の中で声が響く。あの時は無視しちゃったんだった。…目を閉じて、頭の中でその声に耳をすます。すると、瞼の奥からすぅっと白い世界が広がり、夜のようなコートを着た男がこちらに歩いてきた。

 「サクラ、私が誰だか分かるかな?」

その姿は、写真で見た父さん…リアーク・ナ・スフォルツァに他ならなかった。

 「うん、分かるよ。父さん。助けてくれてありがとね」

そう告げると、父さんははにかんだ。

 「はじめまして、だな…サクラ。俺は銃の中にある、記憶の残滓だ。あまり長くは話せないかもしれない」

真面目な顔をして、父さんは続ける。

 「まずは、だ。カナタではなくお前がこの銃の所有者になった。それはわかるな?」

うん、分かってるよ。

 「あれは俺が残した。まぁ、死んだ時に母さんに託したんだ。ふたつの拳銃と2本の刀…それは俺が戦士になった時に、この世界の創造主から与えられたモノだ。『世界を救うのはお前だ』…なんて言われてな」

 「当時はギルガメシュ王と、魔王と戦った俺だが、あいつは俺と契約するのを拒んでな。『創造主だか誰だか知らんが、そんな物騒なモノを持ってるお前なぞ』…なんて、酷い話だよな全く…」

…そんな過去があったんだね…。

 「俺はその時な、『この銃は貴様とともにある。魔力をよこせ』なんて高飛車でさ。なんだかんだ契約した後も、まぁよく大喧嘩したもんさ」

 「そうそう、お前は所有者だから聞こえただろう?銃の声…俺は『管理者』と呼んでるが…アレは創造主の力の一部なんだ。それにな」

父はサラリと、割と重大な事をこともなげに続ける。

 「俺の元の名前は『リアーク・スフォルツァ』これに『ナ』の名前を贈ったのも創造主だ。名前には魔力が宿る。創造主の名は『ナハト』…夜の魔法使いだ」

…魔法使い?この世界には魔術師と神しかいない筈だ…。

 「お前の疑問も分かるぞ。この世界の歴史には、『魔法使い』という言葉自体がない。そりゃそうだ。『この世界にたったひとりしか存在しない』しかもそいつは『世界に干渉しない』からな。誰も存在自体知らないだろうよ。俺たち以外はな」

父さんは更に続ける。

 「それにカナタ…母さんもな、この世界を救うためにナハトに召喚されたんだ。俺を助けられるように。もし俺が死んでも、未来を創れるように、ってな」

 「お前が生まれたのも偶然じゃない。それもナハトの意思がはたらいているだろう。未来に生きる所有者…世界を救う者…まぁこんなところだな」

 「待って、待ってよ父さん」

私は我慢できずに、言う。こんな…覚悟はしたけれど…それじゃ私は最初から…?涙をこらえられずに、言ってしまう。

 「…私は…私は普通に生きたかった…!…『一般人』で良かった…!物語の主人公に憧れる…普通の人でいたかったよ!でもこんな…こんなことってないよ…!なんで私なの…?私じゃなきゃダメだったの…!?」

…父さんは少し、悲しそうな顔で

 「……いや、サクラ…俺もな…いや、母さんも…そう願っていたんだよ。俺が死ぬ時に、ナハトが現れて言ったんだ。『カナタは失敗だった。お前の子どもを次の…』ってな。自分が召喚しておいて、失敗って何だよって怒鳴ったさ。でも愛する女を遺して死んじまった俺には、どうすることもできなかった…。済まない…本当に…済まないサクラ…」

 キラキラと、父さんが光を放ち始める。姿も少しずつ透けていくようだった。

 「いいよ…!もういい……分かったよ…!銃を持った時覚悟を決めたんだ…。父さんの遺志も、母さんも、未来も、全部守るって…」

でもね、父さん。せっかく会えたんだからさ…。私は手をのばす。

 「だから、さ。父さん…。全部いいから…やるからさ…」

父さんは私にゆっくりと近付く。

 「あぁ…そうだな…。済まない……いや…」

お互いの存在を確かめるように、私たちは抱きしめあった。

 「ありがとう…頑張れよ…サクラ…」

白い世界の中、私はまどろむ。決意を胸に抱きながら。

 ◆ ◆ ◆

 翌日の話。

捜査課の会議室の中。私とギル爺、ルイン課長とガリス局長が向かい合って座る。

ガリル局長は、席に着くなり私に深々と頭をさげた。

「済まない!…あんな事が起きると知っていたならば…局を空ける事などしなかった…。君を守れず、申し訳ない」

私は慌てて手を振りながら

 「い、いえいえ!頭をあげてください局長!見ての通り私は無事ですから!それよりも、今回の被害者は、やっぱり…」

すると、ルイン課長が口を開き

 「サクラ殿…ヘイムダル様とオベールさんは…『あのお方』という何者かに殺害された…。犯人については現状…手がかりもない状態です。…この世界にリアークの銃以外に、神を殺せる武器なぞないと思っていましたが…。どうやら『あのお方』というのは相当な力を持っているようですね…」

 「そのようであるな…ルインよ。オベールもヘイムダルも同様に頭が弾けておった。魔術については…」

ギル爺に続けるように。

 「影の魔術…一種の契約魔術だったようです。私の銃には、解析能力もあるらしく…そのような痕跡があったようです」

 ガリス局長は目を丸くした。

 「なんと!あの銃を使った…いや!使えたのか?サクラ。アレはリアークのみが使えるものとばかり…」

 「そうですね…。私は父さんの『次の所有者』に選ばれたようです。アレが使えたのも、父さんのお陰なのかもしれません」

 「そうか…サクラが…なるほど…。分かりました」

ガリルは悩ましげに呟いている。

 「それで、サクラ殿。この前お話した、『捜査課配属』の件はいかがでしょう…?私としては、この一連の事件だけでも…ご協力いただければ、と」

ルイン課長はおずおずと聞いてくる。

 「サクよ…ルインはこう言っておるが…お前さんはどうするよ?」

ギル爺は私に問う。いつしか3人とも、私の顔を食い入るように見つめている。

 …父さん。私は頑張るよ…。

 「えぇ…。そうですね。この事件は、ギル爺にも、それに皆さんに因縁があります。私にも…もちろんありますよ」

 私は出来る限りの笑顔を向ける。

 「やりますよ。捜査員」

ただ、その為には1つだけ…。と、私は条件を出させてもらうのだった。

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