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私は一般人(モブ)である。  作者: 雨空 雪乃
第一章 〜一般人に憧れた私〜
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ななつめ 〜はんにん〜

 翌日。私はギル爺と管理局へ行くことにした。「捜査課配属」の件も、答えを出さなきゃいけない。冷たい風が通り抜ける街を、私は歩く。いつもとは違う、父さんのコートを着てね。

 父さんのコートを着ていく。そう言うと、母さんとギル爺はそりゃあまぁ驚いていた。まぁまぁ、となだめながら、私は思惑を話したのだった。ギル爺は終始「ありえん…しかし…ありえん!」などとずっと言っていたけれど、母さんは私の思惑の裏も読んでくれたようで、快くコートを渡してくれた。

 コートを着た私を見て、母さんは少し目を(うる)ませながら、「あの頃のリアにそっくりよ…」なんて感動していた。さすがにぶかぶかかな、と思って袖を通してみたけれど、なんでだ…ぴったりなんだけど…。私女だぞ…少しまわりより背は高いけど…こんなに細かったの?父さん。やばくない?逆にやばくない?一応姿見で自分の姿を見ると、なるほど。母さんのあの反応も頷ける。写真で見た父さんとよく似ている。髪型は違うし私はメガネだけどね。でも、ここまで似てるなら…うまくいきそうだ。


 そういえば、昨夜は刀の方にも触ってみた。私が持つなり輝き出して、小ぶりなナイフほどの姿に変わってしまった。慌てる私に母さんは、

 「その刀はね、持つ者の心の描くままに形が変わるそうよ」

だって。確かに大きいし重いしって思ったけどさぁ…先に言ってよ母さん、心臓に悪い。今は2本とも私の腰に挿してある。拳銃もふたつとも、私の腰の両側にさげている。護身用、という訳ではない。これは昨日の影(犯人)への挑戦状…というか牽制のつもりだ。ギル爺にもどうにか納得してもらった。管理局に着くとギル爺は

 「済まぬが少々用事があるでな。しばし待っていてくれんか?」

と聞いてきた。

 「ん、いいよ。どうせ待ってても詰まらないから、私も一緒に行くよ?」

 「いやいや、わしの用事にお前さんを付き合わせるわけにはいかんわい」

 「ん…分かった…ごめんね…?やっぱりまだちょっと怖くてさ…ついてっちゃダメかな……」

なんて、上目遣いで袖を引いてみる。

 「お、おぉ…。そうだな…!わしとしたことが…済まんな気付いてやれなくて…。おぉ、おぉよし来た!存分についてくるがよいぞ」

優しいねーギル爺ー。ありがとー。

 守護神管理局での用事を済ませたギル爺と、私は管理局捜査課の会議室へと向かうのだった。

 ◆ ◆ ◆

 部屋に入ると、既にルイン課長が席に着いて窓の外を眺めていた。私はなるべくいつもどおりに。

 「ルイン課長、おはようございます」

と挨拶をする。

 「えぇ、サクラ殿…おはよう…なぁっ!?」

振り返るなり狼狽するルイン課長。普段のキリッとした表情からは想像なんてできないくらい驚いた顔で口をわなわなと震わせている。しー…っと私は人差し指を口元に当てる。驚くよね、そりゃあ。あの頃を生きた人なら誰だって。

 「ルイン課長、どうか落ち着いてください。大丈夫ですか…?」

と、私は恐る恐るルイン課長に近付く。

 「う…?うん?しかし、いや…あぁ…なるほど……………。……少し待ってください…」

と、ルイン課長は目を閉じて上を向き、深すぎるくらい大きく息を吸ったあと、メガネを外し、目頭を押さえて下を向く。そして今度はこれまた深すぎるため息を吐き…。

 「で?どういうつもりですかな?サクラ殿」

と、今度は殺すような眼光でこちらを睨みつけたのだった。こっっっわ。私はルイン課長に事情を話した。まぁめちゃくちゃ怒られたんだけども…。最後土下座までしてたもの私。けれど、事情を聞いたルイン課長は一応ちゃんと納得はして貰えたし、課長ならうまくやってくれるだろう…。って、何様だろうね?私様だよ。


 まぁ、ここまで長々と引き伸ばしたけれど。犯人は分かってるし、覚悟は決まっている。母さんがいつか言っていた「逮捕」なんてこの世界にはない。悪事の後にあるのは死か、あるいはギルガメシュ王の裁きだけ。

 さて、お待ちかね。謎解きの始まりだよ?

なんて…ね…。震える右手を左手で痛いほど押さえつけながら、私は影の主を待つのだった。

 ◆ ◆ ◆

 守護神管理局の中は大騒ぎだった。局員の神は皆、ギルガメシュとともにかの魔王と戦った者たちばかりだ。彼らは魔王を滅ぼした人間…リアークを、また彼が今は亡き者だということももちろん知っている。

 しかし今日、ギルガメシュとともに局内に入ってきた人間を見た者は全て、その目を疑うことになった。リアークだ。リアークがいる。あの時亡くなってしまった筈のあの人間が。局内がザワつく。偽物ではないか、何者なのだ、実は死んではいなかったのか…?様々な憶測が飛び交う。しかし、そんな疑問は、彼らの王がその人間の隣を歩いている。ただそれだけで確信へと変わる。王は、人間の隣を歩く。ともに歩くことが当たり前だと言わんばかりに。普段は快活な笑顔を振りまきながら挨拶を交わす。親しみやすさを体現しているかの王が、凛々しく雄々しく。かの人間の帰還を伝えるかのように、ゆっくりと歩んでいる。実際には数分で彼らは局から出て行ったが、神たちにとっては永遠のものと感じていた。王と人間が出て行った後、局内からは大歓声があがる。抱き合って号泣しあう者。蹲り叫ぶ者。天を仰ぎ感謝を述べる者。しかし大きな喜びの中でただひとり、暗がりで爪を噛む者がいたのである。

 ◆ ◆ ◆

 管理局の会議室。晴れた日の朝だというのに、カーテンを締め切っていて、内部は暗い。光の一切差し込まない部屋にひとり、夜よりも黒いコートを着た人影が立っていた。同じく暗い廊下から、俺は音もなく会議室に忍び込む。標的はコートを着たそいつ。そいつを殺すことが、その俺の使命…宿命と言ってもいいだろう。あの時確かに死んだ筈の奴が、そこにいる。最初に狙ったのは、そいつの娘。局から後をつけ、夜を待ち、殺そうとした。しかしそいつの形見とやらで反撃されてしまい、撤退せざるを得なかった。今度はそいつが手の届く所にいる。俺は歓喜に震えながらコートを着たそいつの背中側からゆっくりと忍び寄り、影の一部を伸ばしその首を…!

 「はい!そこまで!」

 唐突に放たれた声とともに、閉じていたカーテンが一気に開け放たれた。暗い室内に一瞬にして光が入り込む。動揺したことで魔力が揺らがされ、全身を覆っていた影がみるみる消えていく。やられた…!と思った時には遅かった。既にギルガメシュとルインが2つある扉の前に立ちはだかっている。

 「やっぱり、あなたしかいないよね?」

と、コートのそいつは言う。

 「犯人はあなたよ。ヘイムダル…いいや!オベール・ハイディール!」

 ◆ ◆ ◆

 「…どうされたのでしょうか…?リアーク様?我が王よ…これは一体…」

などと居直って嘯く彼に、私は大きくため息を吐く。こんな状況でもシラを切るつもりだなんて、大きい男だな…。

 「とぼけても無駄であるぞ、オベールとやら。貴様ヘイムダルに成り代わり、その上サクまで殺そうとしおってからに」

 「い…いえいえ…!私は先程リアーク様が我が王とともに管理局にいらしたというので、ご挨拶に伺ったまででございますが…」

なんて、どこまでもアレだなこいつは。

 「あなた、さっきまでの暗い部屋ならまだしも、本当に私がリアークだって思ってるわけ?」

そう私は問い詰める。

 守護神管理局に顔を出したのには理由があった。というか、母さんの反応を見て思い付いたんだけど。コートを着ただけでも似てるなら、できる限り父さんに見た目を寄せたなら、神たちがどういう反応をするのか見たかった、という好奇心もあったけど。本命は、復活したらしい魔王に、父さん(リアーク)も復活した、と錯覚させること、私を父さんだと誤認させる事。自身が復活したのだから、宿敵もまた然り。再度殺すチャンスは逃さないだろうという考えだった。

 「こ、これは…!…サクラ殿…はは、いやはや人が悪い。リアーク様に化けるなど、なんとも……。それに私はオベールではありませんよ。ヘイムダルでございます」

なんてさ、まだシラを切るのか。

 「じゃあ、さ?ヘイムダルさんだったら、この銃のこと、知ってるよね?」

 そう言って私は銃を取り出し、ヘイムダルに向ける。あの時影を撃った、銃。引き金に指をかけ、少しだけ魔力を流す。

 「も、もちろんでございますよ、サクラ殿!…しかしなぜ、私に向けるのですか?」

 微笑みを崩さずそう嘯いてみせるヘイムダル…本当に知っているならもう少し焦ろうよ。殺されちゃうよ?

 「そっか、そりゃあ知っているよね?こいつの威力をさ」

そんな事を言いながら、私は引き金を引いた。ガァンッ!という轟音とともに放たれた弾丸は、この前のモノよりもいくらか小さい。それは、ヘイムダルの左肩にぶつかると、はじけて消えてしまった。

 「おや?おやおや、サクラ殿?お父上程使いこなせていないようでございますね…砕けてしまうなどとても…」

 「ふ…ふははは、ははははははは!!!」

と、不意に扉の前のギル爺が大声で笑い出した。つられて私も、そしてルイン課長も笑い出す。

 「わ、我が王よ…?一体何がおかしいのでしょうか…?」

一人取り残されたヘイムダル…もといオベールは困惑しているようだ。

 「ヘイムダル…いや、オベールとやら。今のではっきりと分かったぞ!」

 「…はい?」

なおも困惑する。

 「お主は神ではない、ただの人間である!人の身でありながら神を名乗る愚か者が恥を知れぃ!」

いやいや、ちょっと怒りすぎ…とは、今は思わない。そりゃあそうだ。

 「オベールさん。この銃はね、『神殺しの銃』つまり、『神と魔力を討つ為の銃』なの。ただの人間に当たっても、発動した魔術が消えるだけで、何の効果も出ないんだよ。私が銃を向けても、少しも動揺しないから確信は出来たし、当たっても何の効果も出なかったから、ギル爺もさすがに確信したでしょう?あなたが本物の神様だったら、今頃死んでたよ?」

すると、オベールはしばらく俯き、髪をかきあげながら肩を震わせた。

 「……なぜ俺が神ではないと知っていた…?」

先程までの口調とは打って変わって、ドスの利いた声声音で凄んでみせる。

 「気付いたのは、最初にあなたを撃った時だよ。影が当たった所に、()()()()があったよ。データにあった通りの位置にね」

そうなんだよ。あの時当たったのは左肩、オベールの刻印がある位置だったんだ。

 「つまりあなたは人間。亡くなったのは、あなたの守護神ってことになるよね?顔も背格好も、髪色までそっくりなヘイムダルなら、あなたと間違えるのも無理ないよ。守護神を殺したのは、あなただよね?力をギリギリまで分け与えさせたのも…全ては偽装工作って所じゃない?」

そう問い詰める私をオベールはキッと睨み返して

 「ち、違う…!殺したのはお前だろ!」

と、唐突にそんなことを言ってきた。…どういうこと?私は何もしていない被害者だよ?

 「お…お前が!俺の守護神を殺ったんだ!…あのお方は俺に復讐の機会と影の魔術を与えてくれたんだ!お前が神を殺せるのは知ってる!その銃が証拠だろ!」

どういうこと?あのお方って誰…いや、本当に銃の存在を知ってる…?

 「あのお方って誰のこと?私は殺してない!」

 「…とぼけたって無駄だぜ…?テメェをブッ殺すために…俺はなぁ…!」

もはや丁寧だった物腰が夢だったかのような口調とともにどす黒い影がオベールを包み込む。

 「待って!あのお方って誰のこと!?落ち着いてよ!」

 「うるせぇよ…ヘイムダル様の……(カタキ)ぃ!」

私の言葉も聞かず、漆黒に包まれたオベールは影を伸ばし襲ってくる。

 「サク!危ない!…白き壁の門(リヒト・マドゥーク)!」

ギル爺が咄嗟に私の前に出て、防御魔術を使う。しかし影は壁を貫き、ギル爺の肩をも貫いた。

 「ぐぅっ……!」

私の目の前が真っ赤に染まる。肩を貫いた影はもう私の目前に……!

 「無駄だなぁ!ギルガメシュ!!貴様もろとも殺してやるよぉ!!!」

 ギュッと目を閉じて、両手を眼前に出す。こんなもの簡単に破られてしまうのに、やってしまわずにはいられない。もうダメだ…!やられる…!死ぬのなんて…嫌だ…嫌だよ…。

 しかし、影は私を貫くことはなかった。涙で濡れた目を、恐る恐る開ける。右手に握られた銃と影との間、光の壁のようなもので影を防いでいる。これは…?私は影を押しのけるように、グッと力を込める。ガキンッ!という衝撃音とともに影が弾かれた。反動と衝撃波でギル爺とルイン課長は壁まで飛んでいってしまう。

 「グッ…う………。サク…逃げ…」

そのまま気を失ってしまうギル爺。と、頭の中に誰かの声が聞こえてきた。

 『さぁ、サクラ。今こそ、こいつを解放する時だ』

…そうだね、そう。とりあえず声に驚くのは後にしよう。私は銃を握りしめ、あの時の言葉を告げる。

 「展開(コール)…!閃光装甲(リヒト・ラスタング)!」

 声に反応した銃から、さっきの声とはまた違う声が頭に響いた。

展開符号(コールサイン)認識。使用者を確認…特定。属性(アトリビュート・)指定(スペシフィケーション)…光属性と確認。術式装甲展開を開始。』

光の壁は私の右肩辺りまで広がり、包み込む。

 『…展開完了。閃光装甲(リヒト・ラスタング)

光が弾ける。鎧のような装甲のそれは、白き月のような鈍い銀色で輝く。

 「クソっ!何をしても無駄だぁ!」

オベールは影を伸ばし、私を貫こうとする。しかし装甲に阻まれ、私には届かない。どころか装甲に当たった瞬間にかき消えていく。

 「クソ!クソが!何故貫けない!クソクソクソ!」

と何度も叩きつけるように攻撃を放つが、その度に影は消えていく。

 「……無駄なのは、そっちだよ。オベール…。その影じゃ、私は倒せない」

なおも攻撃を繰り返す彼に少し同情しながら、私は告げる。

 『もう一つの銃は持っているかい?』

なんて、頭の中でまた声がする。

 『もう一つの銃は、『人を裁くもの』だ。実弾銃だから、殺すこともできる。使い方はお前次第だ』

私は左腰のもう一つの銃を取り出し、オベールに向ける。……殺すこともできる…か。殺してしまったら、私はきっと…。…断罪するのは…私じゃなくていいよね。私はスッとオベールの瞳を見つめる。

 「オベール・ハイディール。もう、いいよ」

…苦しまなくて、いいんだ。

 右手の銃に魔力を込める。神殺しの銃…人は死なない。けれど、その魔力は、壊せる。

 「術式展開(コール)閃光魔弾(リヒト・クーゲル)

 引き金を引く。ガァンッ!という轟音とともに、影に放たれた弾丸は、みるみる影を侵食し、オベールだけを残し消えた。

 「ひっ!なっ…何度も何度も…!無駄なことを…!」

といい、また魔術を発動しようとする。だから、無駄なのは…。

 「なっ…!?何故だ!なぜ発動しない!?」

オベール、あなただよ。

 左手の銃をしっかりと握り直す。照準はもちろん。

 「大人しくしててね、オベール」

 私は、引き金を引いた。

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