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私は一般人(モブ)である。  作者: 雨空 雪乃
第一章 〜一般人に憧れた私〜
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むっつめ 〜しかく〜

 子どもの頃からよく夢を見た。当時会ったことのないリアの夢。白い世界に、黒いコートと宵闇のような黒い銃、月のように輝く白銀の刀。

 「この銃を、未来のお前に託す」

 そう言って、幼い私に2つの拳銃を渡す。その見た目は、図鑑か何かで見たもの(USPとコンテンダー)によく似ていた。

 「この刀は、持つ者の心の思うままに形を変えるのさ。俺にとっては刀だが…お前が持つと何になるだろうな」

 そう言って、2本の刀を私の前に置く。

 「私は普通に生きたいよ。こんなもの使いたくない」

 私は決まって、そう彼に告げる。彼はいつも苦笑いをして。

 「使わなくて済むならその方がいいさ。だが必ず使わなければならない時が来る」

 なんて言う。

 「お前がこいつらを使う時、それはお前が覚悟を決めなければならない時さ。使いたくないのなら、触らなければいい。だが使い方だけは知っておいてくれ。お前が使わなくても、お前の未来にはきっと必要になる」

 何度も、何度も夢に見た。夢ならば、もっと優しい夢がいいと何度も思った。

 「いいか?こっちの銃はな…」

なんて、聞いてもいない説明を毎回されるこっちの身にもなって欲しい。使い方なら、もう覚えてしまったよ。

 けれど私は、彼と出会っても、彼を失ってしまった今でも、それを使うだけの覚悟を決める事はできなかった。

 ◆ ◆ ◆

 目が覚めた私に、母さんとギル爺が最初に言ったのは、「ごめんなさい」という謝罪の言葉だった。

 今まで秘密にしていた事、危険な目に合わせてしまった事、まぁそれはそれは深々と頭をさげられた。

 「いいよ、大丈夫。巻き込まれたのは不幸だなとは思うけど。ふたりのせいじゃないよ」

 そう言って私は微笑んでみせる。それよりも、と私は話題を帰る。そう、謝罪より魔王の事だ。

 「そうさなぁ……。魔王のことに関しては…うむ。20年前のあの時、確かにリアの手で倒された。という話はしたであろう?魔王はの、影の御使いであったのだ。闇の御使いと言ってもいいかもしれん。お前さんが見た影というのも、あやつが得意としておった魔術での、術者の実体を揺らがし認識を撹乱させ、しかし術者が放つ攻撃は当たるという厄介な魔術であったのだ」

と、ギル爺は話し始めた。

 魔王の名は、ハイドラグラム・スカディ。かつて影の御使いであった神。御使いとは神の中で最も強力な属性魔術の担い手に与えられる称号だ。魔王は歴代の御使いの中でも特に強力な使い手だった。影魔術の担い手は悪の道に走りやすい。本人がいくら強靭な精神の持ち主でも、必ず一度は殺しなどの悪事をはたらいた。ギル爺はその度に王として、担い手を更生させていたらしい。しかし魔王は、自らを魔王と名乗り、あろう事か神と人間へ宣戦布告し、大虐殺を行った。神と人、魔王の全面戦争の後、最後は父さんの手によって、滅ぼされた。死の間際に放った魔術によって、父さんを道連れに。

 「しかしの…道連れにしたのはリアだけではなかったのだ」

と、ギル爺は続ける。

 最後に放った魔術は、辺りにいた加護のない人間も全て滅ぼしてしまったのだった。

 「今際の際にあんな魔術を使いおって…。だからわしはの、あの戦いを終えた後、人の一族に神の加護を与え、守護するように決めたのだ。後の世に再びあやつのような者が現れても、加護があればあの時のような事態は避けれる、そう願っての」

 そうして現在には、各一族を神が守護するというシステムができたのだった。

 「魔王の事でわしが話せるのはこれで全部だ。あとのことはカナタに聞くといい。わしは少し出ておくからの。ふたりで存分に話すとよい」

そう言ってギル爺は出ていってしまった。

 「ギル…やっぱり気付いていたのね…」

そう言って母さんは私を真っ直ぐに見つめ、

 「魔王が滅びた時にね、私も一度死んでいるのよ」

と、突拍子もないことを言いだした。もう嘘なんて吐く必要もない。眉根を寄せる私に、

 「私が別の世界から来たって言うのは知ってるわよね?あの時の私にもね、魔王の大量の魔力が流れ込んで来てね。」

と続ける。

 父さんは、確かに母さんを攻撃からは守ったけれど、その魔力までは守ることができなかった。大量の魔力が流れ込んだ事で、転移者として与えられた加護も破られ、彼女もまた、死の淵へと立つことになった。しかしその魔力は、唐突に流れを変え、霧散した。その時の一部が彼女の腹…いや、これは多分、私に流れこんだようだ。母さんが死を覚悟する程の魔力は一瞬にして消えたように感じたと。

 「その時はまだね、あなたを身籠っているなんて知らなくて…。彼が助けてくれたと思っていたのよ。でもあなたが産まれてすぐ、赤ちゃんにしては…というより人にはあり得ない程の魔力を持っているのが分かったの。ギルもそれはもう慌てて、あなたを手にかけようともしたのよ」

 魔王ほどの魔力を持った私を殺さなかったのは、父さんの形見だと、魔王にはならないと、必死にギル爺を説得したからだったらしい。そこまでの魔力を持っているなんて、確かに普通じゃない。そう思えば、幼い頃から散々魔力制御を練習させられてた記憶がある。私は最初から普通じゃなかった。…そりゃそうだ、胎児の状態で魔力を吸収して自分の物にしたんだもんね、普通でいたいなんて到底無理な話だったんだ。

 「それにね…憶えてるかしら?『普通に生きたい』って、最初に言った時のことを」

 私の思考を読むかのように、母さんが続ける。憶えてる…あの時はまだ、母さんのお屋敷に住んでた頃のことだ。毎日毎日ちやほやちやほやされるのにうんざりして言ったんだ。

 「あの時あなたが言った事はね、母さんが子どもの頃に私の父さんと母さんに言ったのと、同じだったのよ。それにこっちに召喚された時、リアにも言ったわ。その時の私とあなたが重なっちゃって…。やっぱり私の娘だなって、そう思っちゃった」

 私が「普通がいい」そう言ったから、母さんはできる限りの事をしてくれていた。母さんなりの普通…それが電車とか車とか母さんがいた世界の普通。娘のためにするにしては度を超えている。結果として魔王に破壊された国の復興にもなったから、結果オーライだったらしい。…だいぶやりすぎだよね、母さん…普通じゃない…。私ができうる限り普通になれるように。学校に行って…うん、いじめられてたけど。就職もして…。大切な愛娘が育っていくのを嬉しく思っていたらしい。そんな時に、魔王の魔力を感じた。普段から私とギル爺が一緒に行動していたから、心配はしていたけれど一度屋敷に調べに行った…その矢先にこの事件が起こったのだった。

 ◆ ◆ ◆

 倒れた娘に握られていた、リアの銃。覚悟を決めたのは娘だった。私はその時そう思い知らされた。壊された室内には、影の魔力の残滓が未だ残っている。何が現れたのかは明白だった。サクラをベッドに運ぶようギルに頼んで、私は彼女が握っている銃をとる。ゾクリと背筋が凍る。怖い。やっぱり私には無理だ…そう実感せざるを得ない。近くにあったもう一つの銃とともに、銃に敷いていた布で(くる)む。

 「寝かせて来たぞ、カナタよ」

 いつの間にか戻ってきたギルが、私の後ろから言う。

 「ありがとう、ギル」

私はギルに振り返った。

 「はは、さすがお前さんとリアの娘であるな。見たところ怪我をした様子もない。大丈夫であろう…。しかしアレだな、お前さんやはり、それを持つのは辛いか」

 「えぇ…。サクラは覚悟が決まったみたいなのに、私はダメ…どうしても持てないわ…」

甘い、私はダメだ…。戦う覚悟も、秘密を貫き通す覚悟も、娘を守り通す覚悟も私には足りない。でも…。私はもう1つのリアの形見…2本の刀を手に娘の眠るベッドへと向かったのだった。

 全て話す覚悟くらいは、決めないと。

 ◆ ◆ ◆

 「この銃の名前はわからないわ。リアは一度も呼ばなかったから…さ、持ってみて」

母さんに言われてベッド脇に置かれた2つの拳銃の内、1つを持ってみる。

 「この銃はね、私のいた世界では『自動拳銃』って呼ばれていたの。ボタンを押してみて」

言われて、引き金のそばにあるボタンを押す。握っている所の下から、スッと四角い棒状の物が落ちてくる。左手で受け止めて、眺めてみる。先の丸い円筒状の何かが棒の中に規則正しく並んでいるのが分かった。これが弾丸か。子どもの頃読んだ図鑑の中に、こんなのあったな、たしか。銃本体も眺めてみる。たしか…と記憶を辿りながら銃の上部分をスライドさせた。と、スライドした部分になにか彫ってある。私の知らない言語で。見た感じ文章の様だけど…。

 「母さん、これ。なんて書いてあるかわかる?」

私は母さんに見せながら聞いてみる。

 「え、んー……あら、英語かしら…前見た時はなかったのに…」

母さんは銃に顔を近付けてぼそぼそと呟く。

 「えぇと…『Qualified persons have appeared. I entrust you with my destiny.』…そうね…『資格者は現れた。汝に私の運命を託す』かしら…?」

どうやら母さんの世界の言語だったらしい。資格者…私の事だろうか。運命を託す…?いや、託されても困るな…誰の運命だか知らんし。なんて考えていると。

 「あら。サクラ、文字消えちゃったわよ?」

なんて母さんが驚いている。まっさかー!なんて呑気に思いながら銃を見る。え、嘘!?思わず二度見してしまった。驚き。消えてるよほんとに。と、今度は別の文章がスッと表れた。なんだこれミステリー。……とりあえず母さんにもう一度見せてみる。

 「えぇと…今度は…『Be prepared. Another power is here.』覚悟を決めろ。もう一つの力はここに…かしらね?」

と言われてはっと気づく。そうだ。影を撃ったのはこの銃じゃない。もう一つの力…そうか。

私はもうひとつの銃を持つ。今見ていた銃とは違って、何だか無骨なデザインのそれには…やっぱり。私が持つなり文字が表れた。

 「『Thou shalt be here. The power of god killing is here.Awaken me."Call…"』…誓い…んん、覚悟…?をここに。神殺しの力をここに。呼び覚ませ…」

そうか、そういうことか。言葉が足りなかったんだ。あの時撃てたのは、無理矢理魔力を流し込んだからか。壊れるかってくらいぶち込んだもんね…ごめんね。今度は引き金に指はかけない、いざというの時のために取っておこう。グッと右手の銃にを握りしめて、私は唱えた。

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