いつつめ 〜かくせい〜
「わしとしたことが………」
未だベッドで目覚めることのないサクラを見つめながら、ギルガメッシュは苦々しく呟いた。早く帰ると約束をしながら、帰宅が遅くなった事を悔やんでいる。不安であろう事は分かりきっていた。気丈に振る舞う彼女を案じながら、しかし事態を収める為には自身が動くしかないと、平和な時を生きる者を危険な目に合わせてはならない。この件に、こんなことに関わらせてはいけないと、嘘を吐いた。影の事を否定したのも、あり得ないと断じたのも、全ては彼自身が、あの戦いに関わった者たちが対処する問題だと言い聞かせてきた。あの娘には関係ない。噂を知っているかと尋ねたのも、知っていたら手を出すな、と警告しようとしての事。しかし……。
◆ ◆ ◆
カナタもまた、ギルガメッシュの隣で、横たわった自身の娘を心配そうに見つめている。
数日前から噂になっている魔王の復活…カナタはそのことを誰より早く気が付くことになる。噂になり始める少し前、彼女は魔力を感じたのだ。小さい、しかし確かに過去に感じた負の魔力。どこにいるかは分からなかった。分かったとしても、彼女には対処のしようがなかった。戦う力は元々ない。それでも過去を生き残れたのは、持ち前の回復力や魔力量、それに恋人だったリアーク・ナ・スフォルツァ…サクラの父親が守っていたからだった。
ギルガメッシュには気が付いたその日に相談していた。誰の仕業か、娘には話しておいた方が良いか…管理局には…。結局、誰にも言わずに隠すことにした。魔力は小さい。放っておいてもすぐに消えてしまうと思える程に。しかし……。
◆ ◆ ◆
「「甘かった……」」
私を見つめながら、ギル爺と母さんはほぼ同時に呟く。目は覚めてたけど、部屋の明かりが眩しくてしばらく目を瞑っていた。薄目を開けてふたりを見ると、どちらも見たことないくらいの神妙な面持ちでこちらを見ている…しかし上の空のようだ。私が起きたのに気付いてない。
「カナタよ…済まなかった…。わしがあの時サクに話すと決めておけば、こんな事態にはならなかったかもしれん」
「いいえ、そんなことないわ。話さない事を決めたのも、あの魔力を過小評価したのも…私の責任だわ。ギルは何も悪くないわ」
「いや、だがな…だがもしも…」
「今は、この子が起きるのを待ちましょう?この銃の事も、ちゃんと教えなきゃいけないでしょうから」
「あぁ、そうさな…リアの形見が無かったら、本当にサクが逝っちまってたかもしれんしの。リアめさては向こうで何かしおったな…?」
なんて笑いあっている。確かに、私はあの銃に救われた。右手に落ちてきたのも、まぁ仏壇が、壊れたからだって言われたらそれまでなんだけど。
「しかし、リア以外にこいつが使えたとはな。お前さんもわしも、リア以外には誰もそいつを使える奴はいなかった。サクも幼い時に触ってはいたが、動く気配は毛頭なかったしの?」
「えぇ、そうね…。でももしかしたら…これも運命なのかもしれないわ」
あんな事をされても、生き残れている私。あの影。そして魔王の復活。形見の銃に、あの魔力の流れ、あの力。確かに運命、とか思わなくもないけど。
「私はそれでも、一般人であり続けたいよ」
と、思わず声に出した。目を開き、微笑む。
「おはよ、ふたりとも」
なーんて、できるだけいつもどおりに言ってみる。ここからは、少しだけ、普通に執着するのは諦めなくちゃ。
覚悟は、もう決まっている。
さ、教えて?この銃のこと。魔王のことをさ。