よっつめ 〜わかい〜
「…………………………………………………」
呼び出しておいてなんなのだけれど、私はカナタが苦手だった。魔術の才がどうとか、そういう話ではなく。笑顔で圧をかけてくるのが苦手なのだ。今もそうだ。サクラに連れられて地下室へ来たカナタは、私の顔を見るなり。
「あら?あらあらあら?これはこれは師匠。あの草原でひとり残ることを選んだあなたが、何故こんな所にいるのですか?」
と、満面の笑みでそう言ったのだ。苦手になるなと言う奴には、是非この笑顔の前に立ってみてもらいたいものだ。
「……久しぶりだね、カナタ。元気だった…?」
絞り出すような声と苦笑いで返すと。
「えぇ、元気でしたよ。この30年でそれはもう、暮らしやすくしてやりましたとも」
は、はは……怒ってるよ。ごめんて…。
「それで?やっとここへ来たということは、ようやくですか?」
「あ、うん。決まったよ。ごめん…。待たせたね」
カナタは深いため息を吐いた。
「…遅いとは言いませんよ。よくぞ帰ってきましたね、師匠。おかえりなさい。…さすがに老けましたね」
そう言って微笑むカナタには、さっきまでの殺気は感じなかった。……サッキだけにな、つってね。
「老け……はは、うん。ただいま、カナタ。ババァになっても元気だよ、私は」
私も微笑みを返す。
「それで、師匠?私をここへ呼んだのは…」
「うん。カナタ、あなたにも手伝って欲しいの」
そう言いながら、私はカナタの手を掴んで続ける。
「魔王を分断する結界創造をね」
そう言われたカナタの顔は……心底嫌そうな顔だった。…なぜ?
◆ ◆ ◆
「はぁ………」
師匠が組んだ術式の構造を解析しながら、私は深くため息を吐いた。
非効率が過ぎる。分断しようだなんて考えが、そもそも無意味なのよねぇ…。
「師匠、話は大体聞かせてもらいましたけど、各個撃破…という戦術そのものに『否』と言うしかないですよ」
私の言葉に、師匠もギルも、娘も、ノアちゃんでさえ疑問の表情を浮かべる。…まぁ当然でしょうね。
「ふたりは何度も影と戦ったから分かるでしょう?どの影にも『依代』があるというのは、ね?」
娘たちは頷く。
「んーと…だからね、いくらその『依代に憑依した影』を倒しても、実際には意味がないの。…これも分かるわね?」
師匠とギルが驚いたような気がした。…まぁ、実際に倒していないと分からない事…なのかなぁ…。
「それでね。分断する結界魔術、というのは『分割』の祝福がある師匠にしか創れないのよ。つまり私にも創れない。やれることと言えば魔力補助…『接続』くらいなものなの。いいわね?」
「え、あ…そっかぁ…そうだった…」
師匠が額に手を当てた。……はぁ…。
「ちなみに師匠?戦いながら魔術の維持はできるのかしら?…この複雑な術式で」
私は笑顔で師匠を見る。…ついでにもう少しやり返したくなっちゃった。
「アッ…ウッ…。無理…です…すいません…」
ぺこぺこと頭を揺らす師匠。…ふふん。
「あなたたちも、これで非効率で非現実的って、分かってくれたかしら?」
同じ表情のまま、みんなを見渡した。納得しているような、していないような、そんな雰囲気を感じる。
「ギル、ちなみにあなた。前に影と戦ったけど倒せなかったって、言ってなかったかしら?」
言うとギルは、バツの悪そうな顔で目を逸らした。
「お、おう…。確かにあやつは倒せなんだ。如何せんワシの魔力を奪いながら回復するのだ…。面倒ったらありゃあせん」
「なら、どうして勇者と呼ばれた者だけ…あとは師匠に倒せたか、分かる?」
「……これのお陰…?」
サクラが銃を見ながら口を開いた。…分かってきたじゃない。
「そう、師匠が創った『刃』と『銃』の性能に寄る所が大きいわ。…それに私たちの魔術適性も、ね」
ノアちゃんがブツブツと呟く。
「そっか…。創造魔術…影は光魔術系統でしか…あ、いやでも…異世界人の…異物…?ってことは…そっか…!」
「え…あ、でもそしたら…母さん…?もしかして…」
聞こえていたらしいサクラもどうやら理解できたらしい。…こうなることは、正直望まなかった結果…なんだけどね。
「そうよ、サクラ。子どもの頃からのお話、覚えてるわね?」
全員が私の顔を見る。…期待の視線なんて、いつぶりかしらね。
「…もう準備はできているわ。30年前に、全部ね」
…正直、あんな苦労をするのはもうたくさんなのだけれど、ね。
「あ、アレをやるのね…?カナタ。…まぁそれしかないのかぁ…。ふふふ」
少し楽しそうな師匠の声を無視をするように、私はギルに目を向ける。
「ギル、向こうの世界の神様の力、見せてあげるわね」
なんて、少し格好つけながら。……何故あなたまでしたり顔してるのよ、師匠…。




