みっつめ 〜さいかい〜
管理局は騒然としていた。突如として空に現れた青白く光る放物線、しかも予測地点は管理局だという。慌てるなと言う方が無理があるだろう。しかしひとりだけ、慌てることも驚くこともなく、眺めていた。
「はは、ついに動いたか…!待たせおって」
そう、笑いながら言う男は、神々の王であった。
「おぉい!皆のもの!大丈夫だ!アレは攻撃ではない!」
割れるほどの大声で、群衆は少し平静を取り戻したようだ。
「ギルガメシュ様、あの光は…」
王の隣に立つ男は、どこか懐かしいものを見るように、光にメガネの奥の目を細める。
「おぉ、そう言えばルインよ。おぬしも見ていたな。はは、アヤツが来るぞ」
「あぁ、やはりそうでしたか……。…皆様!事故防止のため、この広場には立ち入らないようにお願いします!」
ルインもまた、群衆を誘導して、広場を広くあけさせた。
「30年ぶり…ですからね、シャキッとしなければ」
そう言ってルインは、両手で自分の頬を叩く。
「そろそろだな。よし」
太陽のような笑みを浮かべる王に、群衆は困惑の色を隠せなかった。
「まもなくです…!」
「おう!」
カァァン!という高い音とともに、管理局前の広場に青白い光が落ちる。カチッという音がした途端、その光が強くなり、それを見ていた群衆は目を覆った。光が弱まるにつれ、その中の人影があらわになる。
「よし、着いた。…大丈夫?ふたりとも」
その声の主は、彗星のような紺色のワンピースをはためかせている。
「うっ…ぐるぐるする…おぇ…」
その声の主は、星空のようなマントを羽織り蹲っている。
「うゎぁ…新体験だこれ………」
その声の主は、夜のようなコートの胸を抑え、項垂れていた。
「はは、はははは!」
ギルガメシュはその光景に思わず笑う。
ようやく立ち上がったふたりは、ギルガメシュに歩み寄る。
「ただいま、ギル爺」
「戻りました、おうさま」
ふたりの勇者は、ともにギルガメシュに笑いかける。
「おう、よくぞ戻った!サク、そしてノアよ!そして…」
ギルガメシュはもうひとりに目を向けた。
「久しいな、ナハトよ」
懐かしさを含んだ声に、歩み寄る。
「えぇ、お久しぶりです。おじ様。それに…」
ナハトはギルガメシュの隣に立つ、ルインに右手を差し出した。
「ルインも久しぶり、大きくなったね」
その言葉に、ルインは手を握り返し笑顔で涙を流した。
「えぇ…えぇ!本当にお久しぶりです…ナハトさん…!」
こうして、ふたりの勇者と創造主は、久しぶりの再会を果たしたのだった。
◆ ◆ ◆
「さて、それじゃあ始めましょうか」
私たちは、管理局の地下の部屋に来ていた。ディスプレイの前に座るナハトさんは術式を起動する。
「術式起動。探知…影魔術…魔王」
ディスプレイに表示されたマップに、赤い点が表示された。
「3か所…?あれ、でも移動してる…?」
赤い点はある場所に集まるように移動をしているようだった。
「世界全体で見てもあと3つ…。ふたりとも、もしかしてかなりの数を倒してくれた…?」
「え、えぇ…。実際かなりいましたよ、影の御使い」
ノアがそう答えると、
「御使い…?あぁ、なるほど…。そういうことか…」
何かを納得したようにナハトさんが悩むように呟く。
「…私との繋がりが消えたから…依代って奴か…ふぅん…?考えたねぇ…。あ、おじ様。ちょっと…」
ナハトさんは顔を上げ、ギル爺へ手招きをした。
「おう、どうした?」
ナハトさんの側に寄り、顔を近付けたギル爺とコソコソと何かを話している。
「ねぇ、サクラ…」
ノアが顔を寄せてきたので、私も耳を近付ける。
「あの…おうさまとナハトさんって…かなりの付き合い、なんだよね?」
「いや…どうなんだろ…。今は知らないフリでもしてたのかなって思うけど…。簡易召喚見ても平然としてたみたいだし…」
「だよね…。ナハトさんの魔術も見たことあるのかな…?」
そんな事を話していると、
「サクラ、ノアよ。こいつはちと厳しくなるかもしれん」
ギル爺がそんな事を言ってきた。
「ん?どういうこと?」
「恐らくだがな…この影の反応を見る限り、3人の御使いが同時にここへ来ることになるであろう?」
確かに…ひとりだけでもやっとなのに、3人同時は厳しいかもしれない。
「他の人たちに頼る…は無理だよね…」
「そうさなぁ…。わしら神ならともかく、一般人には太刀打ちできんだろうの…」
うーん、とふたりで頭を傾げる。
「ひとりずつなら…なぁ」
呟くようにそう言うと、
「…それだ!」
ナハトさんがバッと立ち上がった。
「え、えぇ?どういうことですか、ナハトさん?」
ノアも困惑しているようだ。
「だから、ね?3人同時が無理なら、ひとりずつ相手にすれば良いのよ!」
いや、だからどうやって……。
「ねぇおじ様、結界魔術は使えたわよね?」
「お、おぅ。確かに使えるが…?」
「うん、それで私も使えると。あとは……」
と、ナハトさんが私を見つめた。
「え、え?私…!?結界魔術なんて使えませんよ!?」
慌ててそう返す。けれど、続いたのは意外な言葉だった。
「サクラ、カナタを呼んできて」
カナタ…カナタ…?って、え?
「母さん!?」
そう叫んだ私に、ナハトさんは得意気に微笑を浮かべたのだった。




