ふたつめ 〜それはすいせいのような〜
小屋に戻った僕らは、お茶を淹れてくれるナハトさんを待つ。
「サクラ、ナハトさんさぁ…」
小声で話しかける。
「うん…。多分、いや絶対ナハトさん手加減してくれてたね…。凄い強かった…」
サクラは悔しそうにそう言う。
「そうだね…。でもあんな魔術の使い方するなんて…杖なんて使ってる人見たことないよね…」
僕らは顔を寄せながら話し続ける。
「う〜ん…。持ってる人は見たことあるけど、大体格好つけてるだけだよね…。使う必要ないし」
「杖から魔術を放つって…属性を纏わせるより大変だろうなぁ…。あとあれ。ナハトさんって、全属性持ちだったんだね…」
と…。
「いやいや、全属性なんて持っていないよ。私は」
そう言ってナハトさんは、僕らの前にカップを置いた。
「え…?違うんですか?」
サクラは意外そうに言う。
「えぇ、そうよ。それどころか今持ってる適性はひとつしかないよ。…まぁ、前は2つあったんだけどね…」
そう言って座った彼女は、お茶を飲む。さすがに僕も口を挟む。
「でも、風属性を使っていたじゃないですか…。それに、杖の使い方も…」
「はは、まぁ…。そこ突っ込むよね…そりゃあ。うん、よく見てて」
そう言って、ナハトさんは右手をテーブルにかざす。
「……展開。…創造」
聞いたことのない魔術…。そう思った僕の前に、コトン…と、テーブルナイフが現れた。
「え…………」
僕もサクラも絶句する。それを見たナハトさんは大笑いし始めた。
「はは…はぁ~。珍しいよね。創造って魔術だよ。私が異世界人だって証拠でもあるかな。これのせいで、あんな異名まで付いちゃってさ」
ケラケラと笑う彼女をみながら、思い出す。
「「……創造主」」
「そうそう!ほんと、嫌になるよ。…ただこの魔術の適性があったってだけなのにさぁ…。んで、この魔術で他属性の適性も創造ったってこと」
そこから、ナハトさんは過去の話を聞かせてくれた。
◆ ◆ ◆
「私が世界に干渉しなかったのは、こういう事情なの」
そう話し終えたナハトさんに、私たちは少し呆けてしまった。
「あれ、もしかして理解できなかった…?」
心配そうに、そんな的外れな事を言われてしまった。
「「いやぁ…理解はできましたけど…」」
と、ふたりして頬を掻いてしまった。
「正直…信じられませんよ。神の上がいるなんて」
私がそう言うと、ナハトさんはキョトンとした顔をした。
「え?上なんかじゃないよ?同化なんだから。というかむしろ下でしょ。そんな事言うなんてどうかしてるって」
と、彼女は地面を指をさした。いや…そういう話をしているんじゃないんですけど?って、ノアも笑ってんじゃないよ…。
「クク…ふふ、確かに。でも、ナハトさんの話って、言い伝えとはかなり違うんですね」
ノアの言葉に、ナハトさんは言う。
「そうなのよね…全ては世界の神ってのが横着をした結果だし、私の見通しが甘かった結果、なんだよね…」
でも…。と、ナハトさんは私たちを見つめる。
「あなたたちには、ちゃんと覚悟が決まったんだって確かめられて良かったよ」
「いやぁ…私は最初、成り行きでしたけどね…」
「僕なんて未だに『勇者』なんて呼ばれるのは心苦しい限りですよ…」
「いやいや、何にせよ『覚悟ができていること』、それ自体が重要なのよ。私なんてこの30年…何もできなかったんだし」
そう言って、ナハトさんも頬を掻く。
「あ、そうだ。それであなたたちはどうしてここまで来たんだっけ?」
そう聞かれて、私も少し考えてしまった。
「いや、サクラ、忘れてないよね…?刃のアナウンスさんが教えてくれたんですよ、ここを」
そう言ってノアはナイフをナハトさんに渡す。
「あぁ…なるほど。その子たちが…ふぅん?」
ナハトさんはナイフを受け取って眺めている。
「あぁ…なるほど…。あの部屋の機能も使ったんだ…。うん…契約者は確かに…。あぁ…確かに入れてたなぁ…」
ぶつぶつと呟くナハトさんは、軽く。
「ノア。この人格モジュール、まだ必要?」
そうノアに聞いたのだった。
「え?あ、はい。…え?」
戸惑うノアに、ナハトさんは続ける。
「このモジュールはねぇ…リアの為に入れたものなのよ。『私がついて行かない代わりに』ってだけだったから…必要ないかなって。そうしたら空いた容量に別の術式組めるからさぁ?」
「え…別の…?というか」
私も思わず口を開いた。
「ついて来るんですか!?」
キョトンとした顔をするナハトさん。
「え?ダメ?戦力にはなるよ?私」
私は慌てて言う。
「い、いやいや!戦力的な意味では本っ当にありがたいですけど…。あの、ナハトさんはそれで良いのですか…?」
ナハトさんは言葉を選ぶように答えた。
「うーん…良いというか。もうそろそろ私も…覚悟決めなきゃなって、そう思ったの。リアの為にも、あなたたちの為にも、それに…」
と言って、首を振る。
「とにかく、私も動かないといけないから、ね?」
その言葉に私たちは頷く。
「「一緒に行きましょう。ナハトさん!」」
私たちは互いを見やり、笑顔を交わす。
「よ〜っし!そうと決まれば行きましょー!」
と言って鞄を持ったナハトさんは、スキップでもしそうな足取りで外へ出た。
「「えっ…えぇ!?今からですかぁ!」」
私たちは慌てて荷物を抱えて、彼女の後を追い、外へと出るのだった。って、え…なにこれ……?
「ほらふたりとも!急いで!」
見たことのない何かが、草原の真ん中に現れていた。
「な、なんですかこれ…?」
ノアも困惑しているようだった。
「前いた世界の…46cm砲って。んー、大砲って奴、かな!」
と、ナハトさんはその大砲?を、パンっと叩く。
「いや、いやいや…こんな物まで作れるなんて…」
ノアがそう言うと、
「いやぁ、大切なのは見た目とイメージだからね。構造知らなくても何とかなるものよ。こっち来て」
言われるがままに近くに行くと、ナハトさんが術式を唱える。
「術式展開…次元保護」
私たちの体が膜のような魔力で覆われていく。
「これは…?」
「ただの保護術式だよ。ノア、瞳で管理局は見える?術式符号は…」
と続けるナハトさんに、ノアは瞳を起動させる。
「…!はい!見えました!」
「お、良いねぇ!ちゃんと使いこなせてる!そしたら…ふたりとも、私の手に触れててね」
そう言って差し出された左手に、私たちは手をのせる。ふぅ~…と深い息を吐いたナハトさんは、集中しているようだ。
「魔力接続…ふたりとも、魔力を」
「「はい!」」
私たちはナハトさんの手に魔力を流した。
「うん、ありがとう…記録できた。後は…」
魔力が砲身に満たされて、青白く光りはじめた。私はたまらず聞いてしまった。
「あの、これ…今から一体何をするんですか?」
ナハトさんは一瞬キョトンとしたが…
「あー…言ってなかったね…まぁでもすぐに分かるよ。…発射!」
すると耳を壊すような轟音とともに、青白く光る砲弾が飛んでいった。ふぅ~…と、ナハトさんはまた深く息を吐く。
「ノア、弾着観測よろしくね」
「あ、はい…。それで…?」
ナハトさんは
「これから、私たちも跳ぶからね。酔ったらごめんね」
と、ニヤリと笑ったのだった。
「え、どういう…」
と言いかけた私の視界は、一瞬で真っ白になったのだった。




