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私は一般人(モブ)である。  作者: 雨空 雪乃
最終章 〜私は一般人である〜
33/35

ひとつめ 〜なつかしさ〜

私とノアは、ともに10年…様々な場所に旅をした。

影が現れては、世界を巡り。

その影は、人の営みを『奪って』いた。

その内に気が付いた。この世界の異常さに。

「行きたい場所があるんだ」

そう言ってきたノアは、多分同じ様に気が付いていたのだろう。

ノアが使う(クリンゲ)には、『世界の創造主(ナハト)』の意識体が入っていたらしい。その声が、場所を示してくれた。ノアはそう言っていた。

◆ ◆ ◆

僕とサクラは、ともに10年…様々な場所で戦った。

影が現れては、世界を巡り。

その影は、街そのものを『奪って』いた。

その内に気が付いた。この世界の在り方に。

「行きたい場所があるんだ」

そう言ったのは、サクラと一緒に『真実』を知りたかったからだ。

僕が使う『(クリンゲ)』の中の、アナウンス(ナハト)さんが教えてくれた。

『あの場所で、私の全てが分かる』と。


◆ ◆ ◆

この世界から、『ヒトトセトウカ』の記録(記憶)が消えた夜。私は死ぬか、元の世界に帰れると思っていた。

これでまた、一般人として戻れる(死ねる)と。

しかし『世界(ウェルト)』は、それを許さなかった。

ヒトトセトウカ(影魔術)を失ったのは、まぁ良いとして…。あろうことか、私を世界(ウェルト)に接続し、同化したのだ。

それからは、リアが王都に戻った後…ばぁ(シジマ)さんが息を引き取る直前に。この夜の草原に、ひとりの女が召喚(呼び出)された。

彼女の名は『シジマカナタ』…まさか本当にばぁさんの孫を召喚(呼び出)していたとは思わなかった。

ばぁさんは満足そうな顔をして、旅立って行ったっけ…。

私はカナタに、『創造魔術(ゾラーク)』の全てを教えた。かつてのばぁさんのように。影魔術(ノクターン)の適性が無かったのは、魔王(スカディ)が既にこの世界にいたからだ。

でも、カナタは…次のナハトにはなれなかった。

私が…残ってしまっていたからだ。

カナタは王都へと旅に出た。リア…勇者の力となるように。

リアが亡くなったと知ったのは、そこから10年が経った頃…。

そうして私は、この草原と小屋でひとり。この世界に干渉しない、ただの老婆になっていった。

でも、ただ老いるのは嫌だったから…魔術と体術の修練だけは欠かさなかった。

今思えばその修練も、私の家の扉を叩いた彼女らと…歩んでいくためだったのかもしれない。


◆ ◆ ◆

私が小屋の扉を叩くと、お婆さんが扉を開いた。ちょうどノアと私の中間くらいの身長。雰囲気はどこかノアに似ている。その見た目にしては、やけに背筋が伸びていた。

「………」

彼女は私たちを見て、驚いているようだった。

「こんばんは…。突然来てしまって申し訳ありません」

私は彼女に頭をさげた。

「……いらっしゃい」

そう言って彼女は、中へと案内してくれた。外観(小屋)にしては、中はかなり広い。

「…お邪魔します」

そう言って、私たちは家の中へと入り、促されるままソファに座った。

「…あなた、リアークの娘だよね?」

彼女はお茶を出してくれ、机を挟んだ正面の椅子に座り、そう言った。

「あ、はい。サクラ・ナ・スフォルツァと言います。って、父と会ったことが…?」

そう言うと、彼女はふふ…と笑う。

「会ったことか…そうだね。リアが勇者(戦士)になったのを、見届けたよ」

そう言って彼女はお茶を口に含んだ。

「あの…僕は、ノア・シュヴァル・クリンゲと言います。あ、あなたは……」

ノアがそう言うと、彼女はまたふふ…と、どこか懐かしそうに。

「私、か…。…私はナハト・ウェルト。この世界じゃあ『創造主』なんて呼ばれてはいるけど、ただの魔術好きのババァだよ」

そう言って、ナハトさんは微笑んだ。

なんとなくそんな気はしたけれど、まさか生きている人だったなんて…。

「伝説じゃ…なかったんだ」

ノアも驚いているようだ。ナハトさんは、

「私はね、あの魔王()…スカディを生み出してしまった、張本人なの。言うなれば、だけどね」

悔しそうな顔でそう言った。

「ナハトさん、詳しく聞かせていただけますね?」

私の問いかけに、彼女は少しだけ悩んでいるような顔をした。

「ナハトさん、僕たちはそのために来たんです。お願いします…!」

ノアもそう言って頭をさげる。すると、ナハトさんは慌てたように。

「いえ、勘違いさせたならごめんね。話すのは良いのよ?でもその前に…」

ナハトさんは立ち上がり、置いてあった杖を取った。

「あなたたちの、実力を見せて貰ってからね」

そう言ったナハトさんと私たちは、外へ出る。


◆ ◆ ◆


確かめなければ。そう思った時には、私は杖を握っていた。(ナハト)の名を継いだサクラは、勇者足り得るのか。ノアという少女は、刃足り得るのか。

私の使命(仕事)を継がせてしまった彼女らは、リアとカナタとはどう違うのか、と。

草原に出た私は、彼女らに、私の身長程の杖を構える。サクラは銃を、ノアは(クリンゲ)をナイフと小太刀にして構える。…刃術使い、かな。

「…年寄りだからって手加減すると、怪我するからね?」

そう言って私は、杖に風の魔力を籠める。魔力を感じたのか、彼女らもまた構えて、術式展開(コール)する。

「…閃光装甲(リヒトストラング)

宵闇の刃(シュヴァルクリンゲ)宵の瞳(アベントオーグ)

なるほど…光と闇か。相性は良さそうだね。あとはちゃんと使いこなしてくれているかどうか、かな。

「じゃあ、行くよ?……旋風魔槍(ドゥリンスピア)

私は構えた杖を勢いよく前に突き出す。放たれた風の槍は、一直線にサクラへと飛んだ。

「……ッ!!」

「サクラ!」

ガギンッ!という音とともに、ノアがサクラの前で魔術を弾いた。

「おぉ!やるねぇ…じゃあこれはっ?」

私は次々に魔術の槍を放つ。火焔(フラム)水龍(ワルケン)…と、ノアはその刀で斬り払っていく。

「サクラ!守られてばかりでいいの?…こうなるよ?」

と、私は凍氷魔槍(フログレススピア)を放った。ノアが斬り払うけれど…。

「なっ…!?」

槍がナイフに当たった瞬間に、ノアの右腕ごと凍らせていく。罠だと思うよね、普通。水龍(ワルケン)を受けた直後は、特に。

「ノア、あなたも守ってばかりじゃダメよ!」

「……ッ!はい!」

ノアは左手で腕の氷を斬り払う。器用な子だなぁ…。

「サクラ…お願い!」

そう言ってノアは、サクラに目配せする。サクラは強く頷いて、私に右手の銃を向けた。

閃光魔弾(リヒトクーゲル)!」

「…ッ!」

私が使っていた時より、威力も速さも桁違いだ。…才能って奴なのかしら。紙一重で躱す。そこに。

「まだです!」

左手の拳銃で乱射する。はは、いいね。

「…ハァッ!」

私は杖の風圧でそれを弾く。サクラに杖を向けて…。

「おや?」

ノアがいない。気配は…下!杖を支えにして空中に跳ぶ。カァンッ!という音とともに打たれる杖。

「……チィ」

と、透明化したノアの舌打ちが聞こえた。途端。

「うわぁっ!」

目の前を魔弾(クーゲル)が通過した。

「くっ…外した…!」

サクラは拳銃を構え、その前には透明化を解いたノアが、腰を低くして構えている。

「良い連携だね。うん、さっきよりも全然良いね」

ふぅ~…と息を吐き、杖を納める。

「お疲れ様、ふたりとも」

私はそう言って、ふたりに笑いかけたのだった。

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