ひとつめ 〜なつかしさ〜
私とノアは、ともに10年…様々な場所に旅をした。
影が現れては、世界を巡り。
その影は、人の営みを『奪って』いた。
その内に気が付いた。この世界の異常さに。
「行きたい場所があるんだ」
そう言ってきたノアは、多分同じ様に気が付いていたのだろう。
ノアが使う刃には、『世界の創造主』の意識体が入っていたらしい。その声が、場所を示してくれた。ノアはそう言っていた。
◆ ◆ ◆
僕とサクラは、ともに10年…様々な場所で戦った。
影が現れては、世界を巡り。
その影は、街そのものを『奪って』いた。
その内に気が付いた。この世界の在り方に。
「行きたい場所があるんだ」
そう言ったのは、サクラと一緒に『真実』を知りたかったからだ。
僕が使う『刃』の中の、アナウンスさんが教えてくれた。
『あの場所で、私の全てが分かる』と。
◆ ◆ ◆
この世界から、『ヒトトセトウカ』の記録が消えた夜。私は死ぬか、元の世界に帰れると思っていた。
これでまた、一般人として戻れると。
しかし『世界』は、それを許さなかった。
ヒトトセトウカを失ったのは、まぁ良いとして…。あろうことか、私を世界に接続し、同化したのだ。
それからは、リアが王都に戻った後…ばぁさんが息を引き取る直前に。この夜の草原に、ひとりの女が召喚された。
彼女の名は『シジマカナタ』…まさか本当にばぁさんの孫を召喚していたとは思わなかった。
ばぁさんは満足そうな顔をして、旅立って行ったっけ…。
私はカナタに、『創造魔術』の全てを教えた。かつてのばぁさんのように。影魔術の適性が無かったのは、魔王が既にこの世界にいたからだ。
でも、カナタは…次のナハトにはなれなかった。
私が…残ってしまっていたからだ。
カナタは王都へと旅に出た。リア…勇者の力となるように。
リアが亡くなったと知ったのは、そこから10年が経った頃…。
そうして私は、この草原と小屋でひとり。この世界に干渉しない、ただの老婆になっていった。
でも、ただ老いるのは嫌だったから…魔術と体術の修練だけは欠かさなかった。
今思えばその修練も、私の家の扉を叩いた彼女らと…歩んでいくためだったのかもしれない。
◆ ◆ ◆
私が小屋の扉を叩くと、お婆さんが扉を開いた。ちょうどノアと私の中間くらいの身長。雰囲気はどこかノアに似ている。その見た目にしては、やけに背筋が伸びていた。
「………」
彼女は私たちを見て、驚いているようだった。
「こんばんは…。突然来てしまって申し訳ありません」
私は彼女に頭をさげた。
「……いらっしゃい」
そう言って彼女は、中へと案内してくれた。外観にしては、中はかなり広い。
「…お邪魔します」
そう言って、私たちは家の中へと入り、促されるままソファに座った。
「…あなた、リアークの娘だよね?」
彼女はお茶を出してくれ、机を挟んだ正面の椅子に座り、そう言った。
「あ、はい。サクラ・ナ・スフォルツァと言います。って、父と会ったことが…?」
そう言うと、彼女はふふ…と笑う。
「会ったことか…そうだね。リアが勇者になったのを、見届けたよ」
そう言って彼女はお茶を口に含んだ。
「あの…僕は、ノア・シュヴァル・クリンゲと言います。あ、あなたは……」
ノアがそう言うと、彼女はまたふふ…と、どこか懐かしそうに。
「私、か…。…私はナハト・ウェルト。この世界じゃあ『創造主』なんて呼ばれてはいるけど、ただの魔術好きのババァだよ」
そう言って、ナハトさんは微笑んだ。
なんとなくそんな気はしたけれど、まさか生きている人だったなんて…。
「伝説じゃ…なかったんだ」
ノアも驚いているようだ。ナハトさんは、
「私はね、あの魔王…スカディを生み出してしまった、張本人なの。言うなれば、だけどね」
悔しそうな顔でそう言った。
「ナハトさん、詳しく聞かせていただけますね?」
私の問いかけに、彼女は少しだけ悩んでいるような顔をした。
「ナハトさん、僕たちはそのために来たんです。お願いします…!」
ノアもそう言って頭をさげる。すると、ナハトさんは慌てたように。
「いえ、勘違いさせたならごめんね。話すのは良いのよ?でもその前に…」
ナハトさんは立ち上がり、置いてあった杖を取った。
「あなたたちの、実力を見せて貰ってからね」
そう言ったナハトさんと私たちは、外へ出る。
◆ ◆ ◆
確かめなければ。そう思った時には、私は杖を握っていた。私の名を継いだサクラは、勇者足り得るのか。ノアという少女は、刃足り得るのか。
私の使命を継がせてしまった彼女らは、リアとカナタとはどう違うのか、と。
草原に出た私は、彼女らに、私の身長程の杖を構える。サクラは銃を、ノアは刃をナイフと小太刀にして構える。…刃術使い、かな。
「…年寄りだからって手加減すると、怪我するからね?」
そう言って私は、杖に風の魔力を籠める。魔力を感じたのか、彼女らもまた構えて、術式展開する。
「…閃光装甲」
「宵闇の刃…宵の瞳」
なるほど…光と闇か。相性は良さそうだね。あとはちゃんと使いこなしてくれているかどうか、かな。
「じゃあ、行くよ?……旋風魔槍」
私は構えた杖を勢いよく前に突き出す。放たれた風の槍は、一直線にサクラへと飛んだ。
「……ッ!!」
「サクラ!」
ガギンッ!という音とともに、ノアがサクラの前で魔術を弾いた。
「おぉ!やるねぇ…じゃあこれはっ?」
私は次々に魔術の槍を放つ。火焔、水龍…と、ノアはその刀で斬り払っていく。
「サクラ!守られてばかりでいいの?…こうなるよ?」
と、私は凍氷魔槍を放った。ノアが斬り払うけれど…。
「なっ…!?」
槍がナイフに当たった瞬間に、ノアの右腕ごと凍らせていく。罠だと思うよね、普通。水龍を受けた直後は、特に。
「ノア、あなたも守ってばかりじゃダメよ!」
「……ッ!はい!」
ノアは左手で腕の氷を斬り払う。器用な子だなぁ…。
「サクラ…お願い!」
そう言ってノアは、サクラに目配せする。サクラは強く頷いて、私に右手の銃を向けた。
「閃光魔弾!」
「…ッ!」
私が使っていた時より、威力も速さも桁違いだ。…才能って奴なのかしら。紙一重で躱す。そこに。
「まだです!」
左手の拳銃で乱射する。はは、いいね。
「…ハァッ!」
私は杖の風圧でそれを弾く。サクラに杖を向けて…。
「おや?」
ノアがいない。気配は…下!杖を支えにして空中に跳ぶ。カァンッ!という音とともに打たれる杖。
「……チィ」
と、透明化したノアの舌打ちが聞こえた。途端。
「うわぁっ!」
目の前を魔弾が通過した。
「くっ…外した…!」
サクラは拳銃を構え、その前には透明化を解いたノアが、腰を低くして構えている。
「良い連携だね。うん、さっきよりも全然良いね」
ふぅ~…と息を吐き、杖を納める。
「お疲れ様、ふたりとも」
私はそう言って、ふたりに笑いかけたのだった。




