とおつめ 〜夜の世界の創造主〜
草原に、満天の星空。夜風に揺れる草…私はひとり、ここに立つ。
「…術式展開…分割思考。…影魔術」
左手を地面にかざす。改変した影は広がらずに、地面の中へ。…この世界の魔力を…数年分奪った。
「…探知。…モニュメント…起動」
星から奪った魔力で、各地にあるモニュメント同士を繋いでいく。空は私の魔力で覆われて、オーロラの様な景色に変わる。
「……できた…この世界を覆う…結界」
ふぅ…と息を吐く。すると。
『ついに、この時が来たか』
頭の中で、そんな声が響いた。
「この声…像の…?」
『そうだ。久しぶりだな、トウカ』
「えぇ…お久しぶりです。お元気そうで」
『元気…ではないな。お前が私の魔力を奪ったからな』
…やっぱり、そういうことだよね。
「ねぇ、ウェルトさん?」
私はそう、この世界に問いかける。
「私と一緒に、この世界を塗り替えてくれない?」
『……ほぅ?』
「私……ヒトトセトウカの影は、魔王だった。アレは私が消えるまで、増え続ける」
私は続ける。
「だから…この世界から…ヒトトセトウカを消して」
『ふむ…ナハト・ウェルトという名は残し、それを名乗っていたお前の存在を消せ、と?』
私は頷く。
「この世界での私を消しても…影は消えない。だから…」
すると、ウェルトさんは笑う。
『はは、なるほどな。よく考えた。…では』
と、ウェルトさんは続ける。
『お前には…"創造主"として語られる伝説を残そう。そして…新たなナハトとなれるものを呼び出しておこう』
夜の世界の次は…創造主かぁ…。
「…分かりました。やりましょう…」
でも、もしできることなら…。
「…先代のナハトの、親族の方を…お願いします」
『ふむ…確か孫がいたな……いいだろう。……では始めるぞ。…影魔術は解除して良い。我が注いでやる』
そう言われて影魔術をとくと、足の下から魔力が身体に流れ込んできた。
ふぅ〜……。意識を集中させるように、深く息を吐く。
それはもう、魔術ではなかった。
世界の記録を『塗り替える』…祈りを捧げる『魔法』…。
「…………術式展開…」
みんな…さようなら…。
◆ ◆ ◆
私は一般人だった。でも、その日々は唐突に失われた。
取り柄と言えば…少し特殊な魔術の才と、祝福があったことくらい。とは言うものの、その祝福は同時に呪いでもあった。
後に語られる『世界を創った夜の魔法使い』などという幻想は、きっと私への戒めなのだろう。
『創造して』なんていない。元々世界はあったのだ。私は私を消すためだけに、この世界を『塗り替えた』。
あの夜を思い出しながら…私は座り、お茶を飲む。この世界にはもう…。年老いた私の居場所なんて、ないのだから。
コンコンコン…と、扉が鳴る。
扉を開けると、ふたつの人影が立っていた。
ひとりは、あの頃のリアとそっくりな。
もうひとりは、かつての私のように、モノクルを。
「…いらっしゃい」
ふたりを招き、中へ入れた。
「あの…あなたは…?」
ふたりの問いに、私は答えるのだ。
「私はナハト・ウェルト」
『創造主』なんて呼ばれているけど、ただの魔術好きのババァだよ…と。




