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私は一般人(モブ)である。  作者: 雨空 雪乃
第三章 〜一般人であった私〜
30/35

ここのつめ 〜わたしがいたせかい〜

私に撃たれ倒れた魔王は、

「…くっそ…またかよ…またお前に邪魔されんのか…トウカ!」

苦しそうに呻きながら、私を睨んでいる。

「また、というかあなたが勝手に来たんでしょう?」

私は銃を向けながら、魔王に近付いた。

「クク…言ってくれんなぁ…!」

「…でも、これであなたはおしまい。でしょ?」

カチャ…と、私は銃を頭に向けた。

「ククク、ククククク…!だがオレを殺しても無駄だぜ?」

「…なんだって?」

魔王が笑いながら続ける。

「トウカ…テメェよぉ…!気が付いてねぇのか?分割(あの)魔術を使った時、オレはテメェの中にいたんだぜ?」

その言葉に、私はハッとする。

「それって…まさか…!」

「ククク…あぁそうだよ!『分割魔術』は、オレにも使えるんだよ!バカが!」

でもそれは、半身創造(ハルバゾラーク)より…。

「呆けるな、ナハトよ」

おじ様が肩を強く叩く。

「おぬしの想像が正しかったとしても、それは今、コヤツ(スカディ)を仕留めぬ理由にはならん」

それに、と続ける。

「スカディよ。貴様の使った魔術は、対価がある。そうであろう?」

魔王はまた、不気味なくらい笑っている。

「あぁ…!やっぱバレてんなぁ!さすがは王様ってなぁ!ククク…クククク…」

見下す様に魔王を睨みつけて、おじ様は続ける。

「貴様はまだ、『この娘(トウカ)の魂』と繫がっておるな」

…は?

「…私の魂!?」

思わず叫んでしまった。

「ククク…キャハハハ!そうだ!その通りだとも!だからなぁ!」

魔王は、私の心を抉るように。

「『テメェ』が消えりゃあ、オレも分割出来なくなるぜ?けどなぁ!テメェが消えたところで、分割されたオレは消えねぇ!」

私が…死ねば…。

「ナハトよ…今はコヤツにトドメをさせ。『死ねば消える』というわけではない。分かるな?」

そう言っておじ様は、銃を持つ私の手に、手を添えた。

まぁ…そうか。勝手に『死ねば』なんて考えてた。

「…ありがと、おじ様」

私はもう一度、魔王(スカディ)に銃口を向け直した。

「クク、ククククク!バカだなぁ…!全部無駄に終わるぜぇ?」

「いいよ、それでも。…閃光魔弾(リヒトクーゲル)

放たれた弾丸は魔王の頭を貫き、影は今度こそ…消えた。

◆ ◆ ◆

私は、未来へと希望を託すことにした。

私がこの世界にいる限り、あの魔王(スカディ)は増え続ける…。王都での戦いの後、おじ様とふたりで旅をして、狂ってしまいそうになる程…見せ付けられた。

久々に訪れた王都では、廃墟に紛れ生き残ったらしい人々によって、少しずつではあるけれど…人の営みが戻ってきているようだった。

「ナハトよ。こっちだ」

おじ様に連れられて、私はある遺跡に来ていた。それは、ばぁ(シジマ)さんが昔創ったらしい地下の秘密基地。

「へぇ…。なんか凄い…私がいたの世界の部屋みたい」

そう言うと、おじ様は笑った。

「ではな、後でまた会おうぞ」

「うん、ありがとう。おじ様」

大理石みたいな机が4つほど置かれている部屋の、1番大きな机の前に、私は椅子に座る。

起動(コール)…ナハト」

私がそう告げると、部屋には青白い灯りがつき、机からディスプレイが出てきた。声が響く。

『ナハト…確認。全権限が移譲されました』

ここから…また。

「よし……。ここを創り直そう」

あの魔王(スカディ)との闘いは…覚悟ができた人だけが、継いでくれたら良い。…申し訳ないけれど、どうか私の半身(過ち)を…宜しくお願いします。

◆ ◆ ◆

「ただいま、ばぁさん」

7年ぶりくらいに、私は家の扉を開ける。

「おぉ、トウカ…いや、ナハト。おかえり」

そう言ったばぁ(シジマ)さんは、家を出た時と同じ…全然老けてはいなかった。

「ヒヒ…若さとは、滾ること。じゃよ」

などと、よく分からないことを言っていた。私からの手紙はどうやら無事、リアが届けてくれていたらしい。

「まったく…あの若造と来たら…『俺は勇者だ!よろしく頼む!』なんて言って、ノックもせずに扉を開けてきてのぅ…」

と、笑っているばぁさんに、私は紺色のマントをかけながら。

「それで…なんとかなりそう?」

「あぁ…じゃが、いくら技術が高くとも、あの影は容易には倒せまいて」

私は、鞄から武器を取り出した。

「…この武器だったら、倒せるかな」

ばぁさんの持ち込んだ銃と、私が創った銃…。あとは、ナイフを2本。

「おや?確かあの時は、1本しか創っとらんかったじゃろ?」

「うん。でもリアは、二刀流だったから…」

そう言って、ばぁさんへと渡す。ナイフを抜いて…どうやら解析をしているようだ。

「ほぅ…これは…。分割の魔術が仕込まれておるな…?しかしこっちは…?」

「これだよ、ばぁさん」

私は左眼のモノクル(オーグ)を示す。

「はぁん?なるほどのぉ…。それは拡張術式、じゃな?」

「そ。これを通して影を見たら、弱点も分かるようにしてる。…宵の瞳(アベントオーグ)

術式を起動して、眼帯に変える。ばぁさんは少し驚いていた。

「ヒヒ…。サポートは万全…というところかの」

「うん…。ちょっと心配だったからね…」

そう言うとばぁさんも、確かに…と笑った。それで…と、私は銃を差し出す。

「…私が創った銃には、属性魔力を弾丸に変える術式を組んであるよ。あと、ばぁさんの銃には威力向上の術式を」

術式を見て、ばぁさんも納得したようだった。

「この銃…最後に使ったのは光属性、じゃな」

「え?分かるの?」

「ヒヒ…あたしを舐めるんじゃないよまったく…」

そうやって談笑しながら、全ての機能の説明をしたのだった。


「さて、と」

そう言って私が立ち上がると、ばぁさんは。

「もう…やるのかい?」

少し寂しそうに、そう聞いてきた。

「うん…やるよ、私は」

そう言って、扉を開いた。この草原は、召喚されたあの日と同じ。満天の星空に照らされて、夜風に草が揺れている。

「ばぁさんだけは…どうか覚えていて」

私はばぁさんに背を向けたまま、そう言った。

「あぁ、あたしは決して忘れなどやらんよ。…トウカ」

私は少し、笑ってしまった。でも…。

「ううん、ばぁさん。私はナハト・ウェルト。…この世界で生きた…ただの魔術師だよ」

草原に立ち、星空に祈る。どうか…。

「…ナハト」

私の目の前には、いつの間にか人が立っていた。

「……リア?どうして…」

思わずそう聞くと、リアは頭を掻いた。

「お告げがあってな…ここで、この時間なら会える、と」

振り返ると、ばぁさんはヒヒ、と笑っていた。

「ナハトよ、こりゃあお前が大っ嫌いな『運命』というやつじゃな」

笑いながら、さっき預けた武器を入れた鞄を私に押し付けた。

「お前が、渡してやるとよい」

あー、これは本当に『運命』というやつなのか…。と、つい空を見上げてしまう。

「ナハト…それは?」

不思議そうな顔をしているリアの目を見つめて。

「リア…これをあなたに託すわ」

鞄を開けて差し出す。それを見たリアは、驚いた。

「これは…!ナハト、あなたの…」

「そう、これは私が使ってた武器たち。あなたに扱えるように調整したの」

受け取ろうとしたリアに、私は鞄を避けた。

「でも…これを受け取ってしまったら、あなたは私の代わりに、あの魔王と戦うことになる。…その覚悟はある?」

すると、リアは意表を突かれたようにキョトン…としてしまった。

「……?何を言っている?俺は勇者である前に、やっと一人前の戦士になったんだ。アイツ(あの影)は必ず倒す。…そう言っただろう?」

あぁ…どこまでもまっすぐな人だよ、君は。

「ふふ、そうだったね。じゃあ…受け取って。世界を救うのは…あなた(リア)だ」

「あぁ…必ず。…じゃあ」

と言って家に入ろうとするリアを、私は引き留める。

「リア…私の名前の意味、知ってる?」

「あぁ、シジマさんから聞いた。ナハトは夜、という意味だそうだな」

リアは振り返って、そう言った。リアの隣に立つばぁさんは、私のしようとしていることを理解したようだ。

「そう。それでね、…この世界の勇者になるあなたに…。私の名前を継いで欲しいの」

「いや、だがそれは…!」

慌てるリアの声を遮る。

()の世界から来た魔術師じゃないと、ナハト()の名は継げない。けれどその一部…『ナ』だけはせめて…私からの祝福として」

私は魔術を使って、私の一部を分割した。手のひらから放たれた魔力は、リアの身体に吸い込まれていった。

「…………あぁ…ありがとう。俺はこの()、子孫にまで継がせよう。…ナハト、いってこい!」

そう言ってリアは、精いっぱいの笑顔をくれた。

「ありがとう…!いってきます!」

そう言って私も、精いっぱいの笑顔で。

扉が閉じて、景色に紛れる。…これで、やることはあとふたつ。

私は星空に祈りを捧げる。

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