ここのつめ 〜わたしがいたせかい〜
私に撃たれ倒れた魔王は、
「…くっそ…またかよ…またお前に邪魔されんのか…トウカ!」
苦しそうに呻きながら、私を睨んでいる。
「また、というかあなたが勝手に来たんでしょう?」
私は銃を向けながら、魔王に近付いた。
「クク…言ってくれんなぁ…!」
「…でも、これであなたはおしまい。でしょ?」
カチャ…と、私は銃を頭に向けた。
「ククク、ククククク…!だがオレを殺しても無駄だぜ?」
「…なんだって?」
魔王が笑いながら続ける。
「トウカ…テメェよぉ…!気が付いてねぇのか?分割魔術を使った時、オレはテメェの中にいたんだぜ?」
その言葉に、私はハッとする。
「それって…まさか…!」
「ククク…あぁそうだよ!『分割魔術』は、オレにも使えるんだよ!バカが!」
でもそれは、半身創造より…。
「呆けるな、ナハトよ」
おじ様が肩を強く叩く。
「おぬしの想像が正しかったとしても、それは今、コヤツを仕留めぬ理由にはならん」
それに、と続ける。
「スカディよ。貴様の使った魔術は、対価がある。そうであろう?」
魔王はまた、不気味なくらい笑っている。
「あぁ…!やっぱバレてんなぁ!さすがは王様ってなぁ!ククク…クククク…」
見下す様に魔王を睨みつけて、おじ様は続ける。
「貴様はまだ、『この娘の魂』と繫がっておるな」
…は?
「…私の魂!?」
思わず叫んでしまった。
「ククク…キャハハハ!そうだ!その通りだとも!だからなぁ!」
魔王は、私の心を抉るように。
「『テメェ』が消えりゃあ、オレも分割出来なくなるぜ?けどなぁ!テメェが消えたところで、分割されたオレは消えねぇ!」
私が…死ねば…。
「ナハトよ…今はコヤツにトドメをさせ。『死ねば消える』というわけではない。分かるな?」
そう言っておじ様は、銃を持つ私の手に、手を添えた。
まぁ…そうか。勝手に『死ねば』なんて考えてた。
「…ありがと、おじ様」
私はもう一度、魔王に銃口を向け直した。
「クク、ククククク!バカだなぁ…!全部無駄に終わるぜぇ?」
「いいよ、それでも。…閃光魔弾」
放たれた弾丸は魔王の頭を貫き、影は今度こそ…消えた。
◆ ◆ ◆
私は、未来へと希望を託すことにした。
私がこの世界にいる限り、あの魔王は増え続ける…。王都での戦いの後、おじ様とふたりで旅をして、狂ってしまいそうになる程…見せ付けられた。
久々に訪れた王都では、廃墟に紛れ生き残ったらしい人々によって、少しずつではあるけれど…人の営みが戻ってきているようだった。
「ナハトよ。こっちだ」
おじ様に連れられて、私はある遺跡に来ていた。それは、ばぁさんが昔創ったらしい地下の秘密基地。
「へぇ…。なんか凄い…私がいたの世界の部屋みたい」
そう言うと、おじ様は笑った。
「ではな、後でまた会おうぞ」
「うん、ありがとう。おじ様」
大理石みたいな机が4つほど置かれている部屋の、1番大きな机の前に、私は椅子に座る。
「起動…ナハト」
私がそう告げると、部屋には青白い灯りがつき、机からディスプレイが出てきた。声が響く。
『ナハト…確認。全権限が移譲されました』
ここから…また。
「よし……。ここを創り直そう」
あの魔王との闘いは…覚悟ができた人だけが、継いでくれたら良い。…申し訳ないけれど、どうか私の半身を…宜しくお願いします。
◆ ◆ ◆
「ただいま、ばぁさん」
7年ぶりくらいに、私は家の扉を開ける。
「おぉ、トウカ…いや、ナハト。おかえり」
そう言ったばぁさんは、家を出た時と同じ…全然老けてはいなかった。
「ヒヒ…若さとは、滾ること。じゃよ」
などと、よく分からないことを言っていた。私からの手紙はどうやら無事、リアが届けてくれていたらしい。
「まったく…あの若造と来たら…『俺は勇者だ!よろしく頼む!』なんて言って、ノックもせずに扉を開けてきてのぅ…」
と、笑っているばぁさんに、私は紺色のマントをかけながら。
「それで…なんとかなりそう?」
「あぁ…じゃが、いくら技術が高くとも、あの影は容易には倒せまいて」
私は、鞄から武器を取り出した。
「…この武器だったら、倒せるかな」
ばぁさんの持ち込んだ銃と、私が創った銃…。あとは、ナイフを2本。
「おや?確かあの時は、1本しか創っとらんかったじゃろ?」
「うん。でもリアは、二刀流だったから…」
そう言って、ばぁさんへと渡す。ナイフを抜いて…どうやら解析をしているようだ。
「ほぅ…これは…。分割の魔術が仕込まれておるな…?しかしこっちは…?」
「これだよ、ばぁさん」
私は左眼のモノクルを示す。
「はぁん?なるほどのぉ…。それは拡張術式、じゃな?」
「そ。これを通して影を見たら、弱点も分かるようにしてる。…宵の瞳」
術式を起動して、眼帯に変える。ばぁさんは少し驚いていた。
「ヒヒ…。サポートは万全…というところかの」
「うん…。ちょっと心配だったからね…」
そう言うとばぁさんも、確かに…と笑った。それで…と、私は銃を差し出す。
「…私が創った銃には、属性魔力を弾丸に変える術式を組んであるよ。あと、ばぁさんの銃には威力向上の術式を」
術式を見て、ばぁさんも納得したようだった。
「この銃…最後に使ったのは光属性、じゃな」
「え?分かるの?」
「ヒヒ…あたしを舐めるんじゃないよまったく…」
そうやって談笑しながら、全ての機能の説明をしたのだった。
「さて、と」
そう言って私が立ち上がると、ばぁさんは。
「もう…やるのかい?」
少し寂しそうに、そう聞いてきた。
「うん…やるよ、私は」
そう言って、扉を開いた。この草原は、召喚されたあの日と同じ。満天の星空に照らされて、夜風に草が揺れている。
「ばぁさんだけは…どうか覚えていて」
私はばぁさんに背を向けたまま、そう言った。
「あぁ、あたしは決して忘れなどやらんよ。…トウカ」
私は少し、笑ってしまった。でも…。
「ううん、ばぁさん。私はナハト・ウェルト。…この世界で生きた…ただの魔術師だよ」
草原に立ち、星空に祈る。どうか…。
「…ナハト」
私の目の前には、いつの間にか人が立っていた。
「……リア?どうして…」
思わずそう聞くと、リアは頭を掻いた。
「お告げがあってな…ここで、この時間なら会える、と」
振り返ると、ばぁさんはヒヒ、と笑っていた。
「ナハトよ、こりゃあお前が大っ嫌いな『運命』というやつじゃな」
笑いながら、さっき預けた武器を入れた鞄を私に押し付けた。
「お前が、渡してやるとよい」
あー、これは本当に『運命』というやつなのか…。と、つい空を見上げてしまう。
「ナハト…それは?」
不思議そうな顔をしているリアの目を見つめて。
「リア…これをあなたに託すわ」
鞄を開けて差し出す。それを見たリアは、驚いた。
「これは…!ナハト、あなたの…」
「そう、これは私が使ってた武器たち。あなたに扱えるように調整したの」
受け取ろうとしたリアに、私は鞄を避けた。
「でも…これを受け取ってしまったら、あなたは私の代わりに、あの魔王と戦うことになる。…その覚悟はある?」
すると、リアは意表を突かれたようにキョトン…としてしまった。
「……?何を言っている?俺は勇者である前に、やっと一人前の戦士になったんだ。アイツは必ず倒す。…そう言っただろう?」
あぁ…どこまでもまっすぐな人だよ、君は。
「ふふ、そうだったね。じゃあ…受け取って。世界を救うのは…あなただ」
「あぁ…必ず。…じゃあ」
と言って家に入ろうとするリアを、私は引き留める。
「リア…私の名前の意味、知ってる?」
「あぁ、シジマさんから聞いた。ナハトは夜、という意味だそうだな」
リアは振り返って、そう言った。リアの隣に立つばぁさんは、私のしようとしていることを理解したようだ。
「そう。それでね、…この世界の勇者になるあなたに…。私の名前を継いで欲しいの」
「いや、だがそれは…!」
慌てるリアの声を遮る。
「外の世界から来た魔術師じゃないと、ナハトの名は継げない。けれどその一部…『ナ』だけはせめて…私からの祝福として」
私は魔術を使って、私の一部を分割した。手のひらから放たれた魔力は、リアの身体に吸い込まれていった。
「…………あぁ…ありがとう。俺はこの名、子孫にまで継がせよう。…ナハト、いってこい!」
そう言ってリアは、精いっぱいの笑顔をくれた。
「ありがとう…!いってきます!」
そう言って私も、精いっぱいの笑顔で。
扉が閉じて、景色に紛れる。…これで、やることはあとふたつ。
私は星空に祈りを捧げる。




