やっつめ 〜ゆうしゃ〜
影に呑まれた廃墟を、私とおじ様は歩く。倒れている人があちこちに…。影を排除するまでもなく、息絶えていることが分かる。
「………ッ!」
悔しさと悲しみでで、目を伏せてしまう。
「ナハトよ…前を見ろ。そして、倒れた人間たちを見ろ。おぬしがそんなでは、ここで戦った者たちが報われんだろうて」
その言葉にハッとした。…そうだ、私が撒いた様なものだ。私が、やらなきゃいけない!
「そう、ですね…。おじ様、お城はこの先の…アレ、ですよね?」
「恐らくな。だがアレは…」
辛うじてお城のように見えるけれど。それはもう『お城のような影』になっている。
「でも、行ってみましょう」
そう言って、お城へと続くであろう階段を登る。しばらく登ると、中央に噴水のある広場へとたどり着いた。
「あれ…?人?」
「おぉ…生き残りかもしれん。おぉ~い!」
おじ様が叫ぶと、人影はゆっくりと振り返った。背の少し高い、少年のように見える。
「すみません…!この街の方ですか?」
そう声をかけながら、人影に近付いていく。すると…。
「…そこで止まれ」
男にしては少し高めの声で、人影は二振りの刀の切っ先をこちらに向けた。
「あの…私たちは!」
「…黙れ!」
彼は血まみれで、切っ先を向けたままこちらを睨みつけている。
「お前たち…あの影はなんだ?お前たちの仕業か…!」
すると、おじ様が叫び返す。
「そんなわけなかろう!わしらは今しがたここへ着いたばかりだ!」
「……口では何とでも言えるだろうな…おい女!」
と、私に切っ先を向けなおす。
「お前…!この影と同じ魔力を感じるぞ…!とぼけても無駄だ!」
私も必死に叫び返す。…嘘は吐けない。
「えぇ…!その影は私の魔力を奪ったの…!だから…!」
男はそれを聞き、体勢を低くした。
「……そこまで聞ければもう充分だ…!死ね!」
男がふっと消えた。え、あれ…?腰のナイフに手をのばし…防御を…!
「遅い!」
「………ッッ!」
後ろから声が、反応できない…!しかしその刃は私には届かなかった。
「やめておけ、坊主」
おじ様が男の刀を折り、守ってくれたからだった。
「くっ…刀が…!」
「いいや。ダメだな、坊主。この娘をよく見てみろ」
おじ様が低い声でそう言うと、男は私を睨み…そして目を丸くした。
「あ…?嘘だろ……?」
「いいや、嘘ではないわな。…『違う』であろう?」
そう言って、おじ様は私の隣に戻る。
「あ、あぁ…違う」
「ふん。勘違いも甚だしいとは、まさにこのことよなぁ…」
と、おじ様はまた仁王立ちで立ち、低い声で続ける。
「坊主…お前、『勇者』の祝福を与えられておるな?」
その言葉に、男はハッとしておじ様を見上げた。
「な、何故それを…?」
おじ様はふん、と鼻を鳴らす。
「お前のその解析眼だ。祝福を与えられてもいない限り、この娘ですら裸眼では使えん」
「た、確かに…俺は勇者の祝福を授かった…。だが…」
男は辺りを見回す。
「街に着いたらこんな有り様だった…。これじゃあ勇者なんて…」
「『お飾り』などと思っておるのか?だから怪しかったこの娘を襲った、と?」
おじ様は男を睨んでいる。
「いや…。あぁ…そうだ」
「……気に入らんな。あとはふたりで話せ、ナハトよ」
おじ様は離れていってしまった。男は刀を鞘に納めて、申し訳なさそうに私を見た。
「……ナハト、と言ったか」
「えぇ、ナハト・ウェルト。…あなたとは違うけど、私も祝福を授かってる」
「俺は…リアーク。リアーク・スフォルツァ…勇者だ」
「そう…。よろしく」
私は右手を差し出した。
「え、あ、あぁ…。よろしく」
少し困惑していたが、リアークは手を握り返してくれた。
「それで…勇者様は、あの影の事をどのくらい知ってるの?」
そう言うと、リアークは慌てて手を顔の前で振る。
「勇者様なんて呼ぶのはやめてくれ!…リアでいい」
「ふふ、うん。分かったよ、リア。それで…?」
「あぁ、いや…詳しくは知らん。夢で『影を倒せ』と言われただけだったからな…」
…やっぱりそうかぁ…。私は影のことを全て話すことにした。
◆ ◆ ◆
私たちは、噴水の縁に腰掛けて、話している。
「なる、ほど……。だとしたら魔力が似ていたのも納得がいった。…大変だったな」
「いやぁ、分かってくれてよかったよ」
私たちは街を眺めながら笑い合う。すると。
「……くっ…!」
突然リアが頭を抱え始めた。
「え、リア!?」
リアは、私の声に左手を出して制した。
「問題ない…。少し待ってくれ…。…くっ」
頭を抱えたリアが、ぶつぶつと呟く。
「…草原…星…小屋………婆さん……?」
え、それって…。
「……ふぅ…。済まなかったナハト。たまに流れ込む…お告げ、というやつだ」
荒い息をしながら、リアはそう言った。
「あぁ…リアも大変だね…。でも、その場所…知ってるよ」
というか、あそこしかない。
「…?どういうことだ?」
困惑したようにそう聞かれ、私は言う。
「私の師匠…シジマさんの居場所だよ、そこ」
「なるほど…ナハトの師匠、か…。ということは…」
と、リアは立ち上がった。
「どうやら俺は、そこで修行をしなければならんらしい」
あー…ばぁさんの修行かぁ…。と、私はつい目を逸らしてしまった。
「そっか…。ばぁさんには、会ったことある?」
「いや、ないな。行ったこともない」
「そうだよね…ちょっと待ってて」
と、私は紙とペンを創造する。
「お、おい!今それどこから?」
「…今は良いでしょ?えっと…」
カリカリとペンを走らせる。…ここからの簡易的な地図を描いた。あとはばぁさんへの紹介状と手紙。
「ほら、これを持って行って」
と、リアに渡す。
「おぉ、地図か…。見やすいな、うん。ありがとう。それで、この手紙は…?」
「うん。それはばぁさんへの紹介状と手紙。全然連絡取ってないからさ…届けてくれる?」
そう言うと、リアの顔がパッと明るくなる。
「助かる!ありがとう。…必ず届けよう」
そう言って、懐の鞄に丁寧にしまい込んだ。
「では、行ってくる!また会えることを祈っている」
「うん!行ってらっしゃい!…頑張ってね」
背中越しに手を振るリアは、確かに勇者に見えた。
と…。
「おぉ、坊主は行ったか」
おじ様が戻ってきた。
「うん、お告げがあったみたい。…ばぁさんの所で修行、だってさ」
そう私が言うと。
「はは、ははは!そうか!一度痛い目に遭ってくるといい!」
…かつてないほどの笑顔だった。さて、私も私の仕事を果たさないと。
「おじ様…魔力、貸してくれる?」
そう私が聞くと。
「おう、そうさなぁ。この街の規模を考えると、その方が良いだろうの」
と、おじ様は私の背に手を置いた。この街は、噴水が結界の起点になっていた。私は魔力を注ぐ。
結界で、次第に街は覆われていった。そして。
「…影排除」
街全体に星のような光が降り、影は消えていった。
「危ない!」
突然、私は弾き飛ばされた。
「…えっ!?おじ様!」
おじ様と私の間の空間に、影が貫いていた。
◆ ◆ ◆
「クク、ククク…。…またしても…貴様はァ!!!」
そう叫んだのは、影の魔王だった。
「大事ないか!ナハトよ!」
私の隣に、おじ様が移動してきた。
「えぇ、大丈夫ですおじ様!それより…」
ゆらゆらと揺れる影を纏った魔王は、私の見た目とそっくりだった。
「…やっとまた、会えたね。スカディ」
私が睨みながらそう言うと。魔王はまた、ククク…と笑った。
「…貴様!まさかクソ王と一緒だったとはなぁ!お陰で殺し損ねたぜ!」
「おう、スカディよ!久しぶりなのに随分な言い方だの!」
おじ様は構えたまま、そう言い返す。
「ククク、ククククク。…あぁ、テメェを殺す日を夢に見たぜぇ!クソ王!」
そう言って、影を伸ばす。私は左手に持ったナイフを小太刀に変えて、その影を斬り払う。
「クク…キャハハハ!イイもん持ってんなぁ!創ったのかぁ?」
…気味の悪い笑い声に、反吐が出る。
「うるさい!アンタを倒す為に、私は旅をしてきたんだ!」
私は右手で、銃を抜いた。
「…術式展開!閃光魔弾!」
「なっ…なにィ!」
放たれた弾丸は、影の身体を貫いた。




