ななつめ 〜おうとへ〜
1週間程が経ち、復興を手伝っていたある日。
「おう、来たぞ。ナハトよ」
ギルガメシュさんは、また唐突に現れた。
「あっ、お久しぶりです。おじ様」
と、汗を拭ってお辞儀をする。
「はは、魔術師が肉体労働とはな」
おじ様は笑いながら、私の肩を叩いた。
「えぇ。魔術師ですが、結構動けるんですよ?私」
と、私も笑いかける。
「おぉ、体術も行けそうだな。よい筋肉だ!」
……それはちょっと女には失礼だよ。
「それで、おじ様がいらしたのなら…例の話ですよね?」
「おう、そうだとも。少し話せるか?」
と、おじ様は辺りを見渡している。
「えぇ、どうぞこちらへ」
私はおじ様と、近くにあったテントへと入っていった。
「さて、ナハトよ。この前ヘルメスには会ったな?」
テントに置いてある椅子に座り、おじ様は話しだす。
「あ、はい。お会いしましたよ。どうぞ…」
私はお茶を出しながら答えた。
「うむ、済まんな。…ならば、『守護刻印』の話は?」
そう言っておじ様は、お茶を口に含んだ。
「えぇ、聞いています。神々はこの世界に居着くことになる…と」
私も、一口飲む。…うん、美味しい。
「そうだ。しかもそれは、影を倒した後も続くことになる。…その覚悟が決まらんかった神は、わしが天界に置き去りにしてきたわい」
と、おじ様は上目にこちらを見ている。ふぅむ…なるほど。
「もしかして…天界の神も説得して欲しい…とか?」
私がそう言うと、おじ様は盛大にお茶を吹き出した。
「ゲホッゴホッ…そんなわけなかろう…!王たるわしが言ってダメで、なぜおぬしに説得させようと考えるのだ!」
「あ、あはは…冗談ですよ…」
私は苦笑いで目を逸らした。
「それなら、どういった話でしょうか…」
口を拭ったおじ様が答える。
「おぬし、これからわしと王都へ行くぞ。おぬしには『人間側の』説得をしてもらう」
…そっちか。
「おじ様も、一緒に?」
不安そうにそう聞く私に、おじ様は、
「当然であろう?人間と神との融和も含めておるのだからな」
な、るほど。まぁ確かに、それもそうか。
「それで、だ。ナハトよ」
「あっ、はい」
神妙な面持ちでこちらに頭を寄せるおじ様につられて、私も小声で頭を寄せる。
「おぬし…飛べたりはしないかの?」
「え、えぇ!?飛ぶぅ!?」
しまった、大声を出してしまった。
「は、ははは…冗談だ、冗談!」
というおじ様は、苦笑いで目を逸らす。
「どうして、そんなことを?」
「い、いや、ははは…。遠いのだ…お前だけならまだしも、わしとともに、となるとちと道のりが面倒での」
はぁ…ものぐさな王様だこと。…あ、でも。
「さすがに飛ぶのは無理ですけど…何とか早く行く方法は、ありますよ?」
「お、おぉ!それはどんな方法だ?」
と、勢いよく顔を近付けてくるおじ様を避けながら、私は言う。
「でも、この方法は…なるべく矢を遠くに飛ばせる物が必要なのですよ」
そう告げたおじ様は、それはもう困惑した顔をしていた。
◆ ◆ ◆
3日後、街の広場には巨大なバリスタが設置されていた。持ち込んだおじ様は得意気に。
「おうナハトよ!これならば何とかなるか!」
と、それはそれは太陽のような笑顔をしていたっけ…。その周りには見物人がたくさん集まってきていた。
よし、やるだけやってみよう。私はまず、おじ様と私に魔術を展開させた。魔術の名は次元保護。今から使う魔術には、これが必ず必要になる。
「…創造、転移の矢…」
創造したのは、バリスタに合うように大きさを調整した1本の矢。これに…。
「おじ様、魔力を」
「おぉ、これにか?ふん…」
バリスタに装填された矢に、おじ様と一緒に私も魔力を注ぐ。すごい…私の魔力の比じゃない。さすが神々の王様だ。魔力がすぐに充填された矢は、青白い光を放っている。
「して、これはどういった魔術なのだ?」
「これは…言うなれば『簡易召喚』を行う魔術です。魔力を充填した者を登録して、矢が命中した場所に強制的に転移します。」
「ほぅ!なるほどなぁ…よく考えられておる。しかし…」
「えぇ…これは『召喚者』が『矢』になってしまうので…どうしても安定はしません。だから…」
「この『保護魔術』とやらが必要になる、ということだな?」
「えぇ、その通りです。さすがおじ様」
そう言うと、おじ様は照れたように頭を掻いた。
「はは、そう褒めるでないわ。…よし、では照準は…」
そう言っておじ様は、バリスタの角度を調整する。
「術式展開…宵の瞳…透視」
私は闇属性で瞳を展開する。モノクルだった見た目は、左眼全体を覆う眼帯の様に変わる。やがて建物、人などの障害物が消え遥か先に見える王都を視界に捉えた。
「照準接続…バリスタ」
術式を起動すると、視界に丸いマークが浮かぶ。これが矢の到達予測地点だ。
「おじ様…角度を上へ」
「おう」
ギギギギ…と嫌な音を立てて、バリスタは角度を変えていく。
「止め、次はやや右…そこ」
照準は、王都の正門らしき場所の手前に。
「おじ様、あとは」
「おうさ分かった!」
と、おじ様が拳を振り上げる。
「おねぇちゃ~ん!」
と駆け寄ってきたのはルインだった。そのまま私に飛びついてくる。
「おっ、と。ルイン…?」
「おねぇちゃん!がんばってね!」
ニコニコと笑うルインの頭を撫でる。
「うん、ありがと。行ってくるね」
「へへへ…。あのね、僕…大きくなったらおねぇちゃんみたいになるんだ!だから、帰ってきたら先生になってね!」
そう言って笑うルインに、少し涙腺が緩んでしまう。
「うん…そうだね。今度会えたら、私の魔術を教えるよ」
「ほんと?やった~!」
はしゃぐルイン。
「ほら、じゃあ。危ないからね」
「うん、分かった!またね!おねぇちゃん!」
手を振りながら走っていくルインに、私は右手を振り返した。
「…では行くぞ、ナハトよ」
「…はい!お願いします!」
強く振り下ろされた拳は、バリスタの安全装置を外す。矢は勢いよく、空の彼方へ飛んでいった。
「これで、後は待つだけかの?」
おじ様は腕を組み、仁王立ちで私に問う。
「えぇ…間もなく。………3,2,1…転移します!」
目の前が白くなり、私たちは眩しさに目を閉じる。やがて光が収まり、ゆっくりと目を開けた。
「な、なんだこれは…!!」
目の前に広がっていたのは、既に影に埋め尽くされ、そのほとんどが廃墟と化した王都だった。




