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私は一般人(モブ)である。  作者: 雨空 雪乃
第三章 〜一般人であった私〜
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むっつめ 〜かみがみとのであい〜

救護所のベッドで目が覚めた。…まだ魔力切れを起こすとは情けない。頭痛に頭をおさえながら身体を起こす。すると…。

「おう、起きたな」

すごく高い位置から声がした。声のする方を見上げると、筋骨隆々な男が腕を組み、仁王立ちで立っていた。

「…んん…?」

何故か後光のようなモノが見えた気がして、思わず目を擦る。

「はぁ…。この街を救った英雄がいると言うから来てみれば…なんじゃ、ただの小娘ではないか」

仁王立ちのままで、彼はため息を吐く。

「えっと……あなたは…?」

と、おずおずと聞く私に、彼はふん…と鼻をならした。

「おぬし、わしを知らんのか。珍しいこともあるものだな。わしはギルガメシュ・ウル・ギルシュタリア。神々の王である!よぉく憶えておけ!」

と、ギルガメシュなる人物(神様)は、太陽の様にニカッと笑ったのだった。

「して、おぬしの名はなんという?」

そうだった。…オーラに気圧されてた。

「あ…私はナハト・ウェルトと言います…。すみません、無知な小娘で…」

私はベッドに座ったまま、なるべく深く頭を下げた。…苦手なタイプだ、このおじ()様…。するとおじ様は、意外そうな顔をした。

「ほぅ?ナハトの名を継いだのか。さてはあのババァ…とうとう死にでもしたのかの?」

と、さも当然のように。知り合いだったのかぁ。

「え?あ、いや…。全然ピンピンしてますよ?」

もう1年は会っていないけれど。

「はは、そうか。まぁあのババァはしぶといからのぅ。そうそう死ぬタマではないわな」

カカ、と笑うおじ様。

「ははは…確かに…」

「それに、わしを知らんのも納得がいったわい。はは、おぬし召喚者であろう?」

ガハハ、盛大に笑うおじ様に、少し驚いた。召喚者はこの世界ではほとんどいないと聞いていたのに。

「えぇ…仰る通りです。それで…?」

「うん?あぁ、そうであったな。…単刀直入に聞こう」

と、おじ様は笑っていた顔を正し、膝を落としてグッと私の顔に近付く。

「おぬし…あの影の正体を知っておるな?」

あっ…本当に単刀直入だわ…。

「はい、知っています。というより…」

と言いながら、私は気まずさから目を逸らす。

「私が創っちゃった…というか…」

「なに、貴様が…?詳しく聞かせて貰うぞ…?」

と、肩を掴まれ射殺すように睨まれてしまった。慌てた私は、言い訳でもように早口で事の顛末を話した。

「ふむ…まぁおおよそは理解はできたぞ」

落ち着いたのか、おじ様はベッドの傍にあった椅子に座り。

「…しっかしまた厄介なものを創造してくれたな、おぬしは」

責めるように私を見ていた。

「はい…すみません。あの時は無我夢中で…」

と、私は再度頭を下げた。おじ様は声を低くして言う。

「だとしたらおぬしは、自分の尻ぬぐいの為に旅をしている。ということかの」

「はい…そうです。私がしたことは、自分で片付けないと」

「ふむ…まぁ、創造したのは確かにおぬしだが…そう責任を重く捉える必要もあるまいて。あの神(スカディ)はな、わしが過去に天界に追放したのだ。戻ってきてしまったのは、あの時殺しておかなかったわしの責任でもあろう…。さぁてだとすると……」

と、思案顔なおじ様。私も何を言えば良いのか分からなかった。しばらくの沈黙が続いた。と、突然おじ様は立ち上がり、

「まぁ、今は休むがよい。纏まったら、また来るからの」

と、救護所から出て行ってしまった。聞くだけ聞いて出て行くなんて、さすがはおうさま…といった所か。まぁでも、(アレ)がちゃんと神だったというのが知れたのは、まぁ…収穫と言ってもいいかもしれない。

「おねぇちゃん!起きたの〜?」

そんな事を考えていたら、ルインが入ってきた。

「あ、ルイン。おはよう」

「おはようおねぇちゃん!…からだは大丈夫?」

そう言いながら、椅子に座るルイン。

「うん、大丈夫だよ。心配かけちゃってごめんね…あと、ありがと」

頭を撫でると、照れたようにはにかんだ。…やっぱりかわいいな、うん。

「ねぇルイン。私ってどのくらい眠ってたのかな」

「え~っとねぇ…おとといからだから…みっか!」

得意げに3本の指を立てて、私に笑いかけた。3日…3日か…魔力を回復するにしても、ちょっと時間がかかり過ぎだ。一晩もあれば治っていたはずなのに。

「そっか…ありがと。お父さんは大丈夫?」

「うん!あの後お母さんが回復魔術で治してあげてたの!今はお片付けに行ってるよ!」

街の復興作業をしてるのかな。…私も手伝わなきゃね。と、立ち上がる。

「お、おねぇちゃん?大丈夫?」

ルインが心配そうに私に手を伸ばす。

「うん、大丈夫だよ。いっぱい寝たから動きたくなっちゃったの」

左側が少し痺れるけれど、動けないほどじゃない。…私も手伝わなきゃ。

「ルイン、皆の所へ連れて行ってくれる?」

と、私はルインに左手を差し出した。

「うん!こっちだよ!」

ルインは私の手を掴み、昼下がりの街へ連れ出してくれた。

◆ ◆ ◆

広場に着くまでの間、ルインはこの3日に何があったのか話をしてくれた。街全体の影が消えて、怪我をした人が目を覚ましたこと。2日前に、王都からの援軍が駆け付けて、復興を手伝ってくれたこと。それと…今朝、神様たちが来て、私を探していたこと。

「そっかぁ…私、なんかしちゃったかなぁ…」

広場のベンチにふたりで座り、ボヤくようにそう言うと。

「ううん!違うよ!『こんな大魔術…人間に使えるとは思えん!』とか言ってた!」

と、ルインは答えた。うーん…目を付けられたとしか思えないなぁ…。

「でね!神様がね!こんなの描いてくれたの!」

と、左脚の(すそ)をまくって、太ももを見せてきた。

「これは…?」

何かの紋章の様に見える。何かの術式かな…。

「えっとねぇ…。たしか、『まもりのしるし』って言ってた気がする…。よく分かんなかった!」

と、元気よく返事をしてくれた。…よくできました。

「はぇ〜…。ごめんね、ちょっとよく見せて?」

と、私は太ももに指を触れ、解析魔術(アナライズ)を起動する。うーん…紋章はルインの魔力に直結してる…?いや、むしろこれは増幅装置みたいだ…『まもりのしるし』…?

「それはあなたには解析出来ませんよ」

声のした方向に、私たちは目線を向ける。燕尾服のような灰色のスーツに、細い出で立ちの男がいた。

「えっと…あなたは…?」

「あっ!この人だよ、描いてくれたの!」

ルインが男を指指すと、

「人、ではなく神です。お間違えのないように」

男はこれまた細い指でクイッとメガネをなおす。

「神様…ですか。はじめまして。さっきギルガメシュさんとお会いしましたよ」

私がそう言うと、

「ふん、我が王がお会いになられたのなら、あなたが?」

「あ、はい。ナハト・ウェルトと申します」

軽く頭をさげると、彼は少し表情を和らげた。

「私はヘルメスと言います。以後お見知りおきを」

と、ヘルメスさんもうやうやしくお辞儀をしてくれた。

「ルイン、私はナハト殿と大切な話があるのです。お母さんの所へ行って待っていてください」

「えぇー…。うん…分かったよ…。おねぇちゃん、後でね」

と、ルインは歩いていった。

「それで、話とは?」

私が聞くと、ヘルメスさんは少し悩むように目を逸らしながら、

「えぇ…。お隣失礼します」

私の隣に腰掛ける。

「ナハト殿、影魔術(ノクターン)をお使いになられていますか?」

「え?いや…使っていませんけど…」

と、私は左手を見ながら答える。

「なるほど…。それは、使うこと自体は可能、ということでしょうか」

「そう言えば試したことなかったな…。使ってみましょうか?」

「えぇ、そうですね。もしも暴走するようであれば、私が」

と、ヘルメスさんは立ち上がって、私に右手をかざした。

「じゃあいきますね。…影魔術(ノクターン)

黒い影が、掌に広がる。あ、出来るんだ…。

「ふむ…やはり」

と、ヘルメスさんもどこか納得したようだった。私は影魔術を止める。

「今できるのは、このくらいですね」

「ありがとうございます。なるほど…」

と、ヘルメスさんはまた私の隣に座った。

「ナハト殿、ひとつお伝えしておきます」

と、彼は私の目を見つめる。

「あ、はい。なんでしょう…?」

影魔術(ノクターン)を使用できるのは…いや、創造魔術(ゾラーク)も含めてですが。使える人間は、ナハト殿と、先代のナハト殿だけなのですよ」

…へ?ヘルメスさんは続ける。

「えぇ、もちろん神にはいます。創造神と影の魔王(スカディ)が。ですが現在は、どちらともこの世界から追放をされております」

さらに。

「ナハト殿は召喚(呼び出)された身、先代様も同様…この世界の人間ではありません」

「え、えぇ…確かにそうですね」

「しかしあなたは、ウェルト(世界)を名乗っている。…これは、何か運命的なものを感じずにはいられません」

運命…私が1番大っ嫌いな言葉だ。その雰囲気を察したのか、少し慌てた様子のヘルメスさん。

「あ、いや…大丈夫です。運命って言われるのが嫌なだけで…」

「失礼を…。ですが…」

「えぇ、もしも『運命』なんてものがあるのなら、それをどうにかするのが、私の」

運命…と言いかけたから、やめた。

「はは、では改めまして…。私たち、神はこの世界の人間に『守護刻印』を入れる事を決めました。この世界(人間界)と天界、ふたつの世界は互いにバランスを取っています。人間が減ってしまうと、神もまた力を失うのです」

「あぁ…なるほど。ルインの脚の印って、そういう意味だったんですね」

「えぇ、守護刻印(アレ)があれば…神がこの世界に縛られる代わりに、人間を守ることにもなります」

それが私たちの覚悟…。そう言っていたヘルメスさんは、どこか寂しそうに見えた。

「分かりました。では、私はあの影を必ず」

私はそう言って立ち上がり、ヘルメスさんに右手を差し出す。

「えぇ、よろしくお願いします。ナハト殿」

握り返された右手は、力強く振られるのだった。

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