いつつめ 〜ほしのふったひ〜
泣き止んで落ち着いた少年に連れられて、私は生き残った人たちのいるキャンプへと向かった。…途中で遭遇した影を銃で片付けながら。少年の名前は、『ルイン』と言うらしい。少年らしい良い名前だ、なんて言ったら照れていた。かわいい。
キャンプに着くと、そこかしこに怪我をした人々が倒れている。
「ルイン!」
「あ…!母さん!」
駆け寄って来た女の人に、ルインは飛びついた。
「無事で良かった…怪我はない?…ごめんね、ひとりにして」
と涙を流す彼女に、ルインは首を振った。
「大丈夫!おねぇちゃんが助けてくれたんだ!凄いんだよ!」
と私を指差したルインに。
「まぁ、これは…。息子を助けていただき…ありがとうございました」
と、深々と頭を下げられてしまった。
「いやいや、大丈夫です。…ルイン、お母さんに会えてよかったねぇ」
「うん!ありがとうおねぇちゃん!」
と、笑顔で手を振った。…めちゃくちゃかわいい。い、いやいや。そんなことはいい。
「お母さん!お父さんは?」
少年がそう聞くと、彼女は困ったような、悲しい顔をした。
「お父さんは…ちょっと怪我をしちゃって…」
と、言葉を選ぶように言った。
「え!?会わせて!僕行きたいよ!」
ルインは彼女の手を引く。
「あ、私も一緒に行かせてください!」
慌てて私もついていく。そこは、仮の救護所…テントのようになっていた。ベッドに寝かされていたルインの父は、傷だらけで所々に影の魔力が見える。
「これは…魔術をかけましたか?」
「えぇ…回復魔術を。…でも全然効かなくて…」
と、困り顔をしている。魔力も何もかも奪う影、か…。ならここは、私の出番ってことだね。
「ちょっと、診せてください」
そう言って、彼の上に手をかざす。…分割思考。さぁ、始めよう…。私は『解析魔術』を使いながら、魔術創造を展開する。頭の中で陣を描くように、術式を構築していく。影を排除して…身体に影響が残らないように。…頭の中で陣が出来て、術式符号が読めるようになる。…『影排除』。完成した魔術を彼に使うと、身体が白い光に包まれて、影が消えていった。ふぅ…どうやらか成功したらしい。
「……んん…。ん……?」
と、ルインの父が目を覚ましたようだ。
「父さん…!」
「あなた…!」
近寄ろうと身を乗り出す彼らに、私は席を譲る。目を開けた彼は、状況が分かっていないようだ。
「ここ…は…?いや、あの影は…」
「大丈夫、ここは救護所よ。あなたは怪我をして…そう、彼女が治してくれたのよ」
と、私の方へ向く。
「あぁ…これは。なんとお礼を言っていいか…」
ルインのお父さんが頭を下げる。
「いやぁ…そんな。ごめんなさい…」
私はつい、罪悪感から謝ってしまう。3人には不思議な顔をされてしまった。…そりゃあそうか。
「…魔力の影響はなんとかなりましたけど、傷は治せないので…」
と、やんわりと話題を逸らした。…目も逸らした。
「ところで…他の人も同じような影響を?」
と、辺りを見回しながら聞いてみる。
「えぇ…影に襲われた人はみんな…。全身を呑まれた人は、影になってしまったわ…」
そう、だよね…。それなら…。
「ルインのお母さん。ちょっとお願いしたいことが…」
「え、えぇ…。何でも言ってちょうだい。私にできることなら」
「この街の人を、なるべく全員…この広場に集めて欲しいんです。襲われた人も、そうじゃない人も」
「分かったわ。声をかけて回れば良いのね」
「はい。動ける人にも出来る限り手伝って貰ってください」
そう話していると、突然ルインが勢いよく手を挙げた。
「やる!僕にもやらせておねぇちゃん!」
まぁ…危なくはないと思う。お母さんに目配せすると、頷いてくれた。
「そうだね、ルインにもお願いするよ。でも、無理しちゃダメだよ?約束ね」
「分かった!行ってきまーす!」
と、ルインは元気よく飛び出して行った。その無邪気さに笑顔になる。
「元気なお子さんですね」
「えぇ、あの子がいると。周りが明るくなるんですよ」
ふふ、とお母さんも笑っていた。さて、と。
「お母さん、出来れば街の中央に行きたいのですが…何か目印はありませんか?」
「それなら…モニュメントがあるわ。アレはほぼ街の中央だったはずよ」
モニュメント、か。行ってみよう。
「ありがとうございます。私は少し準備をしますので…人の方、よろしくお願いします」
「えぇ、任せてちょうだい。あなた、良いわね?」
「あぁ、行ってきなさい。私は大丈夫だ」
そう笑いかけあっていたふたりを見ると、余計に罪悪感に苛まれる。けど、今は良い。
そうして私たちは、救護所を後にした。
◆ ◆ ◆
モニュメントに着いた。辺りを見渡すと、既に人が集まり始めている。ふたりには感謝しなくては。モニュメントを見ながら、私は考える。
「なるべく、単純に…なるべく、広く…広範囲に…拡張術式を…」
ぶつぶつと呟きながら、術式を整理する。『影排除』は、ひとりを指定して発動する魔術だった。術式効果を拡張しても、人間のみにしか効果は得られない。…うーん。と、分割思考をオンにする。
『人のみにしか対象にしない…。それに、建物にも影はいる…。なら…このモニュメントを起点にして魔術を起動できないか。…なんだかイケそうじゃない?
私はモニュメントに手を触れる。…『解析魔術』。あ、やっぱりこれ、魔力を流せる材質だ。多分、結界用か何かだったのだろう。魔力を流してみると、モニュメントからあちこちに光が伸びた。見てみるとその光は、壁の上の突起のような物に向かっているのが分かる。…なるほど。なら、使えそうだ。
「…思考伝達。…影排除…対象をこの街全体に変更…待機」
元々は思考を魔力にのせて、離れた相手に意思を伝達する魔術だけど。私は少し『改変』を加えていた。『魔力』にのせる、ということは『魔術』ものせられるようになる、ということだ。
モニュメントから拡散した魔力に向かって問う。
『準備はどう?私たち』
少し待つ。
『『『『『『『『『『行けるよ〜!』』』』』』』』』』
…返事が返ってきた。しかも30人くらいの私から一斉に。
『じゃあ行くよ!…せー、のっ』
私たちは魔力に魔術をのせる。
「発動!」
魔術を纏った結界が張られ、影排除の光が降る。その景色はまるで、キラキラと輝く星が降るようだった。光を浴びた街に纏わりついた影は、浄化されるように消えていった。私はそのまま、解析ものせる。街全体に散らばった影は、全て消えているようだ。
「はは、やった…。成功…だ…」
魔力が尽きた私は、そのまま倒れ込むように、眠ってしまったのだった。




