表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は一般人(モブ)である。  作者: 雨空 雪乃
第三章 〜一般人であった私〜
22/35

ひとつめ 〜わたしがきたせかい〜

「ここ…は…?」

私はいつも通りベッドで寝ていた筈だ。しかしここは今、私の家ではない。微睡みの中にこんな声がした。

『来い』

ただそれだけ。目を開けるとそこは、夜…暗い闇に包まれた草原だった。

「夢……かな…?」

そう呟く私の声は、少し肌寒い夜風に消える。見渡しても見渡しても、見えるのは空に輝く満月と満天の星空だけ。…だと思ったら、遠くの方に小さく灯りが見える。

「…行くしかない、かな」

裸足のまま。寝間着のまま。私はその灯りを目指して歩く。幸い、というかなんというか、小石などは踏まずに済んだ。しかし…。

「しっかし遠かったなぁ…。夢にしては距離がおかしすぎるって…」

気付けば、夜の闇は朝焼けの空に変わっていた。小さな家…というか、小屋?の扉を叩く。…返事はない。

「人がいないのか、それとも寝てるのか…うーん」

もう一度、少し強めに扉を叩く。

「…鍵なんざ掛かってやしないよ。お嬢ちゃん」

突然後ろからしゃがれた声がした。

「ヒェッ…!」

驚いて振り返ると、星空の様な紺色のマントを羽織ったお婆さんが立っていた。見るからに魔女…といった風体だ。

「ヒヒヒ…後ろでずっと見てたよ。…お入りな」

と、お婆さんはドアを開け、私を促した。おずおずと中に入る。小屋のように見えた外観とは裏腹に、部屋の中は随分と広い。なるほど、やっぱり夢だ。

「いんや、夢じゃあないよ。お嬢ちゃん」

と、ソファに座りながらお婆さんは言う。…ってあれ?私声に出してた?

「まぁお座りな。ヒヒ…ほぅら、お茶だよ」

お婆さんの正面の椅子に促されるままに座る。出されたお茶は湯気がたっている。…いつの間に入れたのだろう。

「お、お婆さんは…?」

「あぁ、あたしかい…?そうじゃなぁ…ヒヒ…今はただのババァで良いかの」

そうケラケラと笑うお婆さんは…なんというか不気味だ。私の目を覗き込むように、お婆さんは続ける。

「お嬢ちゃん。あんたぁ…あれじゃな。召喚(呼び出)されおったな?」

「え、それって…どういう事ですか…?」

おずおずと聞き返す。

「なんじゃ。自分から来たとでも言うのかい?ヒヒ…だとしたら大した物好きじゃろうて」

「まぁ…そうですね。確かに『来い』って聞こえたら…」

と、私はここへ来た理由を話した。すると。

「ヒヒヒ…まぁそういう事もあるじゃろうて。…どこから話してやるべきかの…。まずは…」

と、お婆さんは話し始める。この世界は『終末の世界(アブスパン)』と呼ばれていること。もうすぐ滅びる運命を背負った世界だということ。魔術を使い剣が舞う、戦争の世界だということ。私が召喚(呼び出)されたこと。そして…ここはどうしようもなく、私にとっても現実だということを。

「まぁしかし…呼び出されたとあっては。…お嬢ちゃんにも何がしかの使命があるのじゃろうて…。しかし一体誰に…いや『何に』呼び出されたんじゃろうな…」

顎を撫でながら、思案顔で言うお婆さん。私も考えながら、話す。

「…そこは本当に分からないんです…。分かったのは声だけで…。私が何をしたら良いかもさっぱり」

「ふぅむ……まぁどちらにせよ。『ここに来た』ということは…いや、『連れてこられた』と言った方が正しいじゃろうが…。のぅ?お嬢ちゃん」

と、思案していた顔がこちらを睨むように覗き込まれる。…怒らせる様な事は言っていないはずなんだけど…。

「な、なんですか…?お婆さん…」

ビクビクしながら聞き返す。

「お嬢ちゃん…あたしに魔術を習いたくはないかの?」

「え、あっ。え?」

「まぁそうビビるでないわ…ヒヒヒ…このババァに、魔術を教えられたくはないか、と聞いておる」

確かに…。あ、いやでも私は、元の世界に帰りたい…そう思っているのだけど。…はっきり言っても大丈夫かな。

「い、いや…私は元の世界に帰りたいですね…。…なるべく早く…今すぐにでも…」

そう言うと、お婆さんの顔は一転して、大笑いをし始めた。

「カカカ!ヒヒ…ヒヒヒ。そうじゃろうなぁ!ヒヒ…」

いや、笑い事じゃあないのだけれど。

「ヒヒ…いやすまんの。…そりゃあそうじゃな。しかしなお嬢ちゃん。…戻るにはある場所に行かにゃあならん。それに、今のお嬢ちゃんにはその旅は耐えられんよ」

じゃから…とお婆さんは続ける。まぁ…そういう事情なら…。

「なら…そうですね。旅が出来るようになるまで、お世話になっても良いですか?」

そう聞くと、お婆さんは。

「ひひ…まぁ、お嬢ちゃんはそういう『運命』じゃろうからの。…あたしの教えはちと厳しいぞ?」

なんて、ケラケラと。

「あ…はい。…お手柔らかに……」

私も笑った。

「そうじゃ、お嬢ちゃん。名前はあるのかの?」

そうだった。自己紹介もまだだった。

「私はヒトトセ トウカと言います。お婆さんは?」

「ほぅ、そうか…なるほどのぅ…。あたしの名はね」

タメを作るように、ヒヒ…と笑う。


「あたしの名はナハト。この世界じゃあ『魔術の神』なんて呼ばれてはいるが…ただのしがない魔術好きのババァだよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ