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私は一般人(モブ)である。  作者: 雨空 雪乃
第二章 〜一般人をやめた僕〜
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ここのつめ 〜僕のいる世界〜

幾度かの季節は巡り、春。僕はスフォルツァ家のお墓の前に来ていた。

 「お久しぶりです、ノアです。お父さんもお元気ですか?」

言いながら、お花をそなえる。手を合わせて…祈る。

 「おう、おぬしも来ておったか」

振り返ると、ギルガメシュ様がいた。

 「はい。なんだかお久しぶりですね、おうさま」

僕が笑いかけると、おうさまは不思議そうにしていた。

 「いや、おぬしと会うのは1週間ぶりだろう?そこまで久しぶり…と言うほどでもないであろう」

言いながらも、手を合わせて祈るおうさま。

 「ふふ、確かに」

 「はは、だが…そうだな。かなり時が経ったのも事実であろうな。おぬしの勇姿も耳にしておるぞ?勇者らしくしておるようだな」

そう言って肩を叩くおうさまに、少し照れながらも否定する。

 「いやいや、やっぱり勇者ってガラじゃあないですよ。出来ることをしてるだけです」

 「そうかぁ?ふむ…まぁ、そういいたくなる時もあるわな」

 「はい、そういう時もあります」

そう言ってふたりは、しゃがんだまま遠くの景色を眺める。夕暮れに風が流れ、満開の桜が空を舞う。

と、突然背中にドンッと誰かがもたれ掛かってきた。

 「なぁ〜に黄昏てんのさ、ノア。ってうわっ」

バランスを取りながらも背負い、立ち上がる。耳元にかかる息が少しくすぐったい。

 「びっくりさせたお返し!」

 「きゃっ!ノア〜!」

僕は、そのまま少し走り回った。

しがみつきながら笑う、サクラを背にしたまま。

◆ ◆ ◆

時は、影の遣いを倒した直後に遡る。

 『なにを泣いているのですか?ノア』

影の遣いを殺し…その消滅を見届けた後、ぐったりとしたサクラを抱きしめて泣き崩れていた時、そんな声がした。

サクラが…死んで……。

 『だから、なにを泣く必要があるのですか?ノア。あなたは生きているではないですか』

僕が生きていても…サクラが死んだら意味がないんだ…!

 『あぁ、そういう…。ですがノア、ならばより理解できません』

なんだって…?人の心が無いのか?

 『あなたが今生きている(・・・・・)のなら、サクラもまた生きている(・・・・・)のですが…』

え、何…どういう事?

 『はぁ……では回復術式(エルトラング)を使用しますか?安心は出来ると思いますけど』

あ、はい…。

 『では、回復術式(エルトラング)…起動』

と、ナイフが柔らかな光を放ち、たちまちサクラの傷が塞がり、元の綺麗な肌になった。

 『まぁ、これならサクラもあなたも大丈夫でしょう。魔力も動ける程度には残してあります。』

あ、ありがとうございます…。と、ここまで自然に話していたけど…あなた結局何なのですか?

 『え?あぁ、私ですか?ただのシステムですが?…というか…接続(コネクト)の事を忘れてるのですかあなたは』

あ、そうか…いやそれは…。って、いやいや…流石にもうシステムと言い張るには苦しいです…無理ですって…!

 『……まぁ、それは確かに…。…教えるのは、まぁ別に構いませんが……サクラ以外の誰にも知られないと…約束できます?まぁでももし口外したら、あなたもサクラも命を落として貰いますけど』

冗談交じりに、しかししっかりと凄むその声に、若干の恐怖を感じながらも静かに頷く。

 『ならば…まぁ…良いでしょう…。私の名はーーーーー』

…え……?と、聞き返した頃には、声はもう聞こえなくなっていた。

 「う、んん………?」

腕の中で、サクラがもぞもぞと動き、目を開けた。

 「あ…………へへ…。おはよ、ノア」

微笑みながら言う彼女に、僕はまた涙をこぼす。

 「サクラ…良かった…よかったよぉ…………」

ぎゅうと強く抱き締める…生きてる…!

 「痛い…痛いよノア…大丈夫?」

そう言って僕の頭を撫でる彼女の手を握り、僕は言う。

 「やっぱり、僕。サクラの事が好きだ。大好きだ…。ずっと…ずっと一緒にいたい…」

唐突にそう言われた彼女は、キョトンとした顔をして…そして今度はにやにやとし始めた。

 「……な、なぁにぃ〜?私が死にかけたからってそんなこと言って〜」

と、冗談めかしてうやむやにしようとしている。だけど僕は、真面目な顔で続ける。

 「いや、ごめん…。ホントに好き…ずっと…」

顔が熱くなるのを感じて、俯いてしまった。ちらと目をやると、サクラも顔が真っ赤になっていた。

 「え…ほんと…?そういう好き…?」

俯いたまま、頷く僕。

 「でも…私たち…」

 「うん、そうだね…でも…」

 「…そか…うん…そうだね」

 「さ…サク…」

言いかけると、サクラは俯いたままの僕の頬を両手で挟んで持ち上げる。視線が重なった。

 「……私も好き。大好きだよ、ノア!」

そう言うと、抱きついてきた。僕もそれに応える。…強く強く、決して離れないように。もう二度と…と、心に誓うように。


◆ ◆ ◆

背負ったままのサクラと、その横を歩くおうさまの前に、1台の車が停まる。

 「ふ…お前たちは本当に…」

降りてきたのは親父とカナタさんだった。ふたりはあの後、なんたらの巡り合わせというやつなのか、再婚していた。

 「ふふ、ふたりとも仲良しさんねぇ。ちょっと妬けちゃうわね、あなた」

なんて、微笑みながら言うふたりに少し気恥ずかしさを覚え、僕はサクラを降ろす。サクラはズボンのシワをなおしながら、僕は左目のレンズをなおす。

 「しかし、ノア。いつまでも慣れんな、その姿は」

僕は今、ずっと隠していた左目をモノクル(オーグ)で覆い、腰ほどの髪を三つ編みに束ねて後ろに流している。

 「もう、いい加減慣れてよね、親父」

 「いや、済まないな…。はは、なんだかカナタの若い頃を見ているようでな」

なんて、目を逸らしながら頬を掻く。その癖もまだ治る気配はない。

 「まぁ、良いじゃないの、美人さんってことでしょう?あなた」

 「いや…そういうわけじゃ…」

と言いかけた親父に顔を向けたお母さん(カナタ)、途端に親父の顔が強張った。…あぁ、やってしまったね、親父…。 

 「ところで母さん、もう終わったの?」

サクラも雰囲気を察したのか、苦笑しつつ話題を変える。本題はこれだった。

 「えぇ…。これであなたたちは正式に、勇者の名を継ぐことになるわ…」

親父も口を開く。

 「お前たちふたりが勇者になる、ということは決まったが…しかし改めてもう一度だけ、お前たちの口から聞かせてくれ。……大丈夫か?」

少し心配そうなふたりの顔に、僕とサクラは顔を見合わせる。

 『大丈夫か?だってさ』

 『まぁ、そうだろうね。お父さんも心配だと思うよ?ノアのこと』

 『えぇ?サクラのことを心配してるんじゃないの?』

 『はは。まぁ、どっちもだろうね』

くすくすと笑う僕らに。

 「サクラ?」

 「ノア?」

怪訝そうな顔をするふたり。それがまた面白くなって笑い合う。

 「大丈夫か?だって…?」

 「今さらそんな事聞くの?」

最上級の笑顔で。

 「私はもう、いつでも覚悟は決まってる」

 「僕はもう、サクラを守ると決めている」

そう、僕たちは。

 「「もう勇者だよ!」」


ふたりは嬉しそうに微笑むのだった。


◆ ◆ ◆

この世界は、平和だった。


 僕は常々思っていた。平和…なんて退屈な日常なんだ、と。

 僕の守護神は言った。過去に大いなる戦いがあった、と。その時代に生きたかったと、何度思った事だろう。『刃の一族』である僕は、戦いの中でこそ生きていると実感できる筈だ。だというのに、この世界は平和に満ちている。一族の者は皆、証である刃を捨て、のうのうとこの平和を享受している。


 クソくらえだ、こんな世界。


 でも僕は今、新たに"平和な世界"を創ろうとしている。サクラのとなりで、勇者となる道を選んだ。未知を選んだ…と言ってもいいかもしれない。この世界の平和の先に、あの言葉の先に何があるのかを知りたくなったから。


『私の名は、ナハト・ウェルト。…この世界の創造主…とされているだけ(・・)の、ただの…人間の意識体です』


これは、この言葉(世界)の真実を探す、物語だ。


ーーーーーーーー

夜の闇の中、混沌とした世界の中に、ふたつの人影があった。


 「今回も、楽勝だよね?ノワール」

ひとりは2丁の銃を腰に提げ、白く輝く装甲と、黒いコートに身を包む、スラリと背の高い淑女。

 「大丈夫だよ、必ず僕が守るよ。チェリー」

その隣には、2振りのナイフを腰に提げ、星の輝く紺色のマントを纏う、風体に似合わない眼帯をつけた、幼さの残る麗しい少女。


ノワールとチェリー…このふたりは、2代目となる伝説の勇者として、語られる事になる。 

しかし今はまだ、彼女らの旅は始まったばかりである。


なんてね…。


さぁ…今日も、一緒に生きよう。

僕らは今日も、一緒に踏み出す。


「「術式展開(コール)!」」

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