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私は一般人(モブ)である。  作者: 雨空 雪乃
第二章 〜一般人をやめた僕〜
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やっつめ 〜かげのつかい〜

 「…えぇい!面倒くさい相手だ…!」

ギルガメシュは影と対峙し、肩で息をしながら呟いた。ゆらゆらと揺れる影から放たれる攻撃は、彼の防御力の前では少しの傷しか付けられない。だが攻撃が当たる度に、少しずつ魔力が削られていたのだった。

 「くっ…わしも歳をとったかの…」

滴る汗を手の甲で拭いながら、しかし目線は影を睨みつけ続ける。揺れる影は魔力を吸い、徐々に大きくなっているように見えた。

 「ギル爺!」

 「おうさま!」

 「お、おぉ…!ふたりとも無事であったか!」

ザッ、とギルガメシュの前に立つサクラとノア。そのふたりの背にふと、過去の記憶が蘇る。

 「…大きくなったの、ふたりとも…まるでリアとカナタをみておるようだ…」

背が高く、白い鎧を纏うサクラ。星の散りばめられたマントを、夜風の様にひるがえすノア…。かつてギルガメシュとともに戦った、ふたりの背が重なる。

 「いや、ギル爺…そんな事言ってる場合じゃないでしょ?」

 「いやいやおうさま、それはいくらなんでも言い過ぎですよ」

と背を向けたまま、だが笑みを浮かべるように言うふたり。ギルガメシュにも自然と笑みがこぼれた。

 「おう、そうであるな…今は感傷は要らぬな。…あやつは魔力を吸う…気を付けよ。ゆくぞ!」

 「「はい!」」

神の一声で、ふたりは勢いよく駆けだした。

◆ ◆ ◆

サクラが援護、僕が前衛。サクラは左手の自動拳銃(USP)で逃げ道を塞ぎ、僕はナイフで斬りつける。しかし影は銃弾をクネクネと躱しつつ、僕のタイミングが分かっているかのように弾いていく。

 「ハァァ!」

大きく飛び上がって叩きつけられたギルガメシュ様の拳はまたも躱され、僕は地面が抉れるような衝撃に飛ばされる。

 「くっ…ハァ!」

慌てて体勢を立て直した僕は、両手のナイフで距離を詰めながら連撃を仕掛ける。しかしその攻撃は触手のような影で全て弾かれた。…魔力が抜ける。直後触手が迫る。マズイ…!

 「坊主!!」

間一髪で間に入ったおうさまを僕ごと薙ぎ払うように、影は大きく触手を振るった。

 「なっ…!?」

 「…ッ!」

吹き飛ばされ、木に激しくぶつかる。息が出来ない…必死に息を吸おうとしながら、見回す。おうさまはは、僕から離れた所で倒れている。気を失っているようだった。

 「…だめ…か」

荒く呼吸をしながら、思わずそう呟いてしまった。

 「ノア…!」

遠くなる意識に、声が響いた。

 『まだ、こんなものではない筈です。伝えたでしょう?』

システム音が、語りかけてくる。あぁ…そうだ…まだだ…!

 「ノア…!」

駆け寄ってくるサクラを見上げ、僕は大きく息を吸い込み、叫んだ。

 「サクラ…!まだだ!やろう!」

 「…!うん!分かった…!」

心配そうな、しかし安心したような顔をしたサクラは、ニッと笑みを浮かべる。

立ち上がり、ふたりで息を合わせる。

 「「起動(コール)接続(コネクト)!」」

『了解。接続開始』

途端、ふたりが光の輪に包まれた。

視覚接続(オーグコネクト)…完了。魔力接続(メイジコネクト)…完了。武器特性接続(フェイズコネクト)…完了。……■■接続…』

僕とサクラの視界と、魔力が繋がる。僕の速さをサクラに。サクラの属性を僕に共有させるような魔術らしい。僕らは互いに感覚を共有できる。

 『いくよ、サクラ』

 『うん。やろう、ノア』

頭の中で会話する。ふたり(僕ら)は今、ひとり(同じ)だ。

サクラは変化させた短機関銃(UMP)を構え、乱射する。僕はマントで透明になりながら、弾幕を縫うように斬りつける。離れているサクラの視覚が共有され、無数の触手にも対応出来るようになった。急に僕らの動きが変わったせいか、影に攻撃が当たり始めた。けど決定打にはならず、当たったそばから回復してしまう。

 「くっ……」

 『これでも…ダメなのか…?』

 『ノア!避けて!』

ガァァンッ!響き渡る銃声は、僕の不安ごと影を吹き飛ばした。

 「…閃光魔砲(リヒト・バシュト)…!…ハァッ…ハァッ…」

対物狙撃銃の様な大きさの銃を放ち、サクラは息も絶え絶えに膝から崩れ落ちた。

 「サクラ!」

 『大…丈夫…!それより…!』

形を保てなくなったのか、影はズルズルと回復しては崩れていく。それを纏っている人もまた、うめき声をあげているようだ。

 『やって…!ノア!』

 『あぁ…!』

僕は、グッと体勢を低くする。白く輝きを放つナイフを振り抜く。

 「……宵闇(ヨイヤミ)弐式(ニシキ)!」

サクラの銃の特性(神殺し)を宿したナイフは、影の胸元を斜めに切り裂いた。

 「ーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

耳障りな声で叫び、影が地面に逃れるように広がりながら、人が倒れた。

 「う……うぅ……」

うめき声をあげて立とうとしている…まだ生きているようだ。って、あれ…?

 「ツクヨミ様…!」

僕の神様(ツクヨミ)は荒い息をしながら、僕を見やる。返ってきた言葉は。

 「貴…様…!よくも…!」

だった。

◆ ◆ ◆

 「よくも、よくもよくもよくもよくも…!よくも俺様の邪魔をしたなノア!」

言っている意味が分からない。え?

 『いや…神じゃないよ…それ…』

サクラの声が響く。え?どういうこと?

 「貴様…!よくも魔王の遣いである俺の邪魔をしたなぁ!!!」

え、嘘…ツクヨミ様じゃない…?

 「え、嘘…だよね?だって、僕の小さい頃から…」

ツクヨミ様(影の遣い)は起き上がりながら、ゲラゲラと笑い始める。

 「そうだ!それこそが計画だったんだよぉ!貴様の家に潜り込み、家ごと遣いにする為になぁ!」

それを聞いた僕は、俯いて手を下げてしまった。え…?でも、あれ…だとしたら親父は…?

 「知ってるわけねぇだろ!そっくりに化けてやったんだからなぁ!それにあの腑抜けた奴を見ただろぉ?」

と遣いは醜悪な笑みでこちらを睨みつけている。

 「え、じゃあ…本当のツクヨミ様は…」

 「とっくの昔に殺してやったよぉ!それも知らずによくのうのうと生きられたもんだなぁ!あぁ?守護刻印もテメェにはねぇじゃねぇか!」

殺した…?でも、そうしたら…あの優しかったツクヨミ様は…。

 「あぁあぁ!毎回毎回会う度に甘えてきてよぉ!反吐が出るぜ!だが…………」

と、こちらに手を伸ばした。

 「テメェも今日で、終わりだ。死ねェ!」

飛ばされた影の触手は、僕の胸を目掛けて。

 「ノア…ッ!」

飛び出してきた、サクラの胸を貫いた。

 「さ…サクラ…!あぁ…アァ……!」

抱き抱えるように支えた僕の腕の中で、彼女は口から血を流す。

 「ノ…ア…怪我、してない…?」

 「あぁ、あぁ…大丈夫…!でも、サクラ…!」

サクラは涙を流しながら微笑んだ。

 「良かっ…た…。へへ…やっと…助けられた…」

必死に胸を押さえても、流れる血は止まらない。

 「止まれ…!止まれよぉ…!」

サクラは、血に濡れた僕の手に触れ、続ける。

 「ノア…私はね…ずっとあなたを助けた…かったんだ」

少しずつ冷たくなる手を強く握り返して、僕は彼女を見つめる。視界は涙で濡れて。

 「助けて貰ったから…返したいって…」

 「あぁ…あぁ…!」

そんなの、僕も一緒だ…。僕もサクラに、助けられていたのに。と…僕の頬を、サクラの手が触れる。

 「そんな顔…しないでよ。ノア…ね?笑って…?」

最後の最後まで……。やっぱりサクラには敵わない。

 「あぁ…そうだね…。サクラ、力を貸してくれる?」

と、僕はなるべく笑顔を作りながら頬の手を握りしめる。

 「うん…さぁ……」

と、神殺しの銃を僕に握らせた。

 「勝ってね………」

そう言って、彼女は目を閉じた。

 「………ふっ…ハハハハハ!いいザマだなぁマヌケ!守れなかったなぁ!だがこれで、勇者はひとりだ!もう終わりだよこの世界は!」

額を抑え、ゲラゲラと笑う声。僕はその声に、銃を向ける。

 「ヒヒヒヒヒ!撃てるのかぁ?腑抜けのお前にそれがぁ!それによぉ…!」

と、影の遣いはより一層醜悪な笑顔で、告げる。

 「俺程度でそんなザマじゃあなぁ!どの道世界は滅びるぜぇ?」

はぁ……と、僕はため息を吐いた。”それ”の表情は訝しむような顔に変わる。

 「僕はね、こんな世界に興味なんかないんだ」

そうだ。彼女(サクラ)がいない世界なんて、興味なんか無い。

 「ハァ?テメェそれでも勇者かよ!クソッタレだなぁお前!」

なんと言われようと、どうでもいい。僕は。

 「僕は、彼女の為の勇者だよ…じゃあ、さよなら」 

閃光魔弾(リヒト・クーゲル)』…サクラの最後の魔力がこもったその銃声は、その耳障りな声をかき消した。

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