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私は一般人(モブ)である。  作者: 雨空 雪乃
第二章 〜一般人をやめた僕〜
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いつつめ 〜くろとしろ〜

刀とともに教えられた、術式符号。それを聞いて、僕の認識が間違っていた事に気付かされた。

 「さぁ、やってみて」

カナタさんに言われた様に、唱える。

「……契約展開(コールトラクト)宵の瞳(アベント・オーグ)

そう呟くと、左手のナイフに魔力が流れていく。

 『展開符号(コールサイン)認識。使用者を確認…特定。契約者として設定完了…属性(アトリビュート)指定(スペシフィケーション)…闇属性と確認。拡張術式展開を開始』

左眼の前が暗くなり、やがて機械的な目盛りが現れる。あの時と同じだが、右手には魔力の気配がない。

『展開完了。拡張術式宵の瞳(アベント•オーグ)

鏡を見ると、左眼に眼帯のようなディスプレイが装着されている。あたりを見渡すと、物の距離や名前などが表示されている。カナタさんを見ると…なるほど…。

 「できたわね…。じゃあ、もう1本もね」

 「…はい」

軽く息を整え、唱える。今度は。

 「……宵闇の刃(シュヴァル•クリンゲ)…」

と、右手のナイフに魔力が流れる。

 『………展開完了。宵闇の刃(シュヴァル•クリンゲ)

白銀のナイフの刀身は、暗い闇の様な黒に変わる。これが展開後のナイフ…と眺めていると、再び声が響いた。

 『(オーグ)及び(クリンゲ)の起動を確認。相互接続(リンクコネクト)を開始。……完了。敵性情報を解析、形状変化を自動化…成功。使用者情報更新開始…完了』

などなど、ずーっと喋っている。何やらこれらは色々と面倒そうな処理をしているらしい。

 「どうかしら…大丈夫そう?ノア君」

心配そうに聞くカナタさんに

 「あ、はい…今の所は…頭の中の声がちょっとうるさいですけど…。でもなんか…必要な処理らしくて…」

手を開こうとしてみても、開かない上にずっと魔力を吸われ続けている。…ちょっとくらくらしてきた…。

座るように促されて、僕はそのまま椅子にもたれかかる。…いやぁ…結構しんどいぞ…これ。かれこれ20分は魔力を吸われ続けている。

 「頑張って…もう少しの筈だから……」

…ヤバい…魔力切れ起こす……あぁ…。と意識を失いかけたその時、ピピッと機械音が鳴った。

『全工程完了…魔力吸収終了…。以降は思考での操作も可能となります。お疲れ様でした』

あ…はい…ありがとうございます…これからよろしくお願いします…。

 『はい、こちらこそ。宜しくお願い致します』

 「はぁっ……ふぅ~……終わったぁ………」

と、深く呼吸をする。……って、え?

 「喋ったぁ!?!??」

 「えっ!なに…どうしたの…?」

カナタさんに本気で心配されてしまった。

 「あ…はい…大丈夫です…すみません…。アナウンスの声が普通に喋り始めて…」

 『ひとまずは、展開を解除してお休みください。術式符号(コールサイン)はご存知ですね?』

あ…はい…もの凄く流暢なアナウンスさんだ…。

 「術式終了(コールオーバー)……」

 『確認しました。ひとまずは、また後程』

と声が聞こえると、展開されていた(オーグ)は消え、ナイフも元の白銀に戻っていった。

 「ノア君、これ飲んで。お疲れ様…」

差し出された氷水をひと息で飲み干す。ふぅ~……。

 「ありがとうございます……。それにしても…リアークさんって…凄い方だったんですね…これ、正直耐えられる気がしませんでした…」

おかわりを持ってきてくれたカナタさんに、僕はそう伝えると、彼女はきょとんとした顔で僕を見た。

 「いいえ…?リアは突然震えだして気絶してたわよ…?意識を保ててるあなたの方が余程凄いと思うわ…」

ま…マジですか…やったぁ…。と、気が抜けたのがいけなかった。

◆ ◆ ◆

誰だろう…話し声が聞こえる。ギルガメシュ様と…カナタさんだ…。お腹が少し重い…なんだろう…温かい…。左手を動かすと、何かが触れる…髪…?ぼーっとした頭で、ゆっくりと撫でてみる。柔らかく細い髪を撫で…ん?

ゆっくりと目を開けて、左手に触れる髪の主を見る…。

 「すぅ………すぅ………」

すやすやと寝息を立てているサクラがいた。

 「ーーッ!」

声にならない悲鳴をあげると、彼女はビクッと身体を震わせて目を開けた。

 「ん……んん…?あ…ノアっ!」

 「うわっ!え…サクラ…?」

彼女が急に抱きついてきた。

 「良かった…良かったよぉ…魔力切れで死んじゃうかと……ッ」

なんてちょっと大げさ過ぎるくらいに泣きながらぎゅっと抱きしめてくる。あぁ……ここが天国か…。などと幸せに浸っていると、物音が聞こえたのか扉が開き、隣の部屋からカナタさんとギルガメシュ様が入ってくる。

 「おう、目覚めたか。坊主」

 「大丈夫?ノアくん…」

 「あ…はい…。ありがとうございます。ご心配おかけしました…」

サクラを抱きとめたまま答える。

 「サクラ…大丈夫だから、ね?」

と、彼女に離れるように促す。ベッドから立ち上がろうとして、ふらついた。

 「…っと…坊主、無理をするでない。魔力切れを起こしておったからな。座っておけ」

と僕を支えながら、ギルガメシュ様はそう言った。

 「うん……?おい坊主…お前…」

 「あっ!いや、大丈夫です…!ありがとうございます…!ちゃんと立てますから…」

ハッと我に返り、慌ててギルガメシュ様を押し返して立ち上がる。うん…なんとかなりそうだ。ぎゅるる…とお腹が鳴ってしまった…えぇ…もう少しだけで良いからカッコつけさせてよ…。部屋の中が笑いで満たされ、僕は恥ずかしさで小さくなる。

 「ふふふ…。まぁまぁ、とりあえず皆で夕ご飯にしましょう?話はまだあるでしょうから、ね?ノアくん」

 「あぁ………はいぃ…いただきます………」

顔が赤くなるのを感じながらも、部屋に流れてくる美味しそうな香りに、僕は抗えないのであった。

ご飯を済ませた後、4人で今後の話をした後、帰ろうとした僕をカナタさんが呼び止めた。

 「ノアくん、これ着てみてくれる?」

差し出されたそれは、紺色のマントのようだった。ところどころに星のような模様が入っている。

 「これは…?」

 「私がリアと旅をしていた時に着ていた物よ。綺麗にしてあるから…それに、ノアくんなら似合うと思うの」

 受け取って、羽織ってみる。ぴったりだ。

 「ふふ…大丈夫だろうなぁとは思っていたけど、まさか本当にぴったりなんて…ふふ」

なんて笑っている。

 「僕とカナタさん……体型似てますもんね…僕が小さ過ぎるのか…」

 「あら、それは私が大きいってことかしら、ノアくん?」

笑顔のまま声が低くなる。

 「いやいやいや、違いますから…!」

少し怯えながら慌てて否定する。ほんと怖いよこのお方は…。

 「ふふふ、分かっているわ…それに、そうよね…。ふふ、そんなことより着心地はどうかしら」

と聞かれ、改めて確認する。袖は七分で、腕を振るのに邪魔にはならない…裾は長く…膝くらいの丈、軽く腰を回し、膝を曲げしゃがんでみると、裾で足先まで隠れる。

 「そのマントは物理も魔術も、ほとんどの攻撃から守ってくれるけれど…衝撃までは逃さないわ。それと…ほら、ここ。」

カナタさんが近付いてきて教えてくれたマントの内側には、何か術式が刻まれている。これは…?

 「そこに魔力を流すと…。いえ、今は良いわ。ちゃんと休んでから試してみてね」

はぐらかされてしまった。…まぁ全部聞いちゃったら試したくなると思ったのだろう。そのとおりだ。

 「ありがとうございます…でも、良いんですか?」

僕の問いに、彼女はゆったりと微笑んだ。

 「えぇ、あなたに…あなただからこそ着て欲しいの。ずっとサクラと仲良くしてくれたあなたに」

それに…と。

「サクラの事、これからもお願いね。私のかわりに、なんて言うつもりはないけど…サクラを幸せにしてあげて」

 「……はい!精一杯頑張ります!」


駆け出した夜の宵闇は、僕の心のように星空で満たされていた。



………帰宅後、2日連続で深夜帰宅した僕をこっぴどく叱りつけた親父は、ぜったいにゆるさない……。



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