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私は一般人(モブ)である。  作者: 雨空 雪乃
第二章 〜一般人をやめた僕〜
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よっつめ 〜かくご〜

 「やっと帰ったな、ノア」

家に帰り玄関を開けると、親父と出くわした。

 「ふん、余程の事があったと見える。とりあえずはご苦労…と言っておいてやろう」

 「親父…ただいま…遅くなってごめん…」

昔から堅苦しい話し方の親父は、正直苦手だ…。僕は気まずくなり目を逸らした。

 「いや、良い。それよりも話がある。しかしまずは風呂にでも入って来い。修練場で待つ」

そう言うと親父は、廊下の奥に消えていった。

◆ ◆ ◆

風呂から上がり、軽く身なりを整えてから、修練場に入ると、親父は神棚に向かい正座をしていた。隣には座布団が置いてある。自然と僕は隣に座る。

しばらくの沈黙が続いた後、親父は唐突に口を開いた。

 「お前は、この世界をどう思う」

世界?また唐突にスケールが大きい話をする。

 「……正直、質問の意味が分からない」

 「ふん、そうだろうな。つまらないお前には、このつまらない質問にも答えられまい」

グサッと来る言い方だなぁ…。

 「いや『思ってた』だからね…?さっきも…」

 「知っている。お前のことだ、また誰かの為に力を使ったのだろう」

えぇ…見透かされてるのか…?

 「ふむ…そうだな。何故知っていたか伝えるべきか…」

顔は神棚を向いたまま、顎に手をあて思案をしているようだ。

 「実は昼間にな、カナタ様がいらっしゃったのだ。曰く、魔王が復活をしたらしい…とな。我が流派に護衛を依頼したい…とのことだった」

依頼…そうか、もうそこまでの事態になっているのか…。なら親父は、これからサクラのお母さん(カナタ様)の護衛をすることになる。

 「いや、私は丁重にお断りさせて貰った」

 「え…!?どうして?」

てっきり受けると思っていた。何故だ?

 「私は…いや、俺はな…この平和な世界が好きなのだ。過去の事件を忘れたいとすら思うのだ」

そんな事を…。

 「え、でも…ならなんで僕に鍛錬を積ませてたの?平和に生きたいなら、僕には何も教えない方が良かったじゃないか…」

 「いいや……ふむ、まぁ…それとこれとは話が違うのだ。…そうだな……」

いつになく歯切れが悪い。

 「お前にはな、俺の技を伝えた上で…今のこの世界がどう映るのか、ということを問いたかったのだ。俺が願ったこの世界をどう思うか…と、いうことかもしれん」

あまり褒められた話じゃあないが、とも言っていたが…。ここまでストレートに自分の気持ちを言ってくる親父は、何故か少し小さく見えた。

 「…正直、とてもつまらなかったんだ…。教えて貰った技を使う機会すら限られてて、なんの面白みも無いなって思ってた…」

僕も素直に言葉にする。

 「でも、うん。今は少し楽しくなりそうな予感があるんだ。サクラとも久しぶりに会って、今日から一緒に仕事をすることになったんだ。でも……」

魔王を倒す覚悟は、まだ決まらないままだ。

 「ふん、その話も聞いている。あれはギルガメシュ様の指示らしい。あのお方も剛毅ながら、中々の事をやる」

そうだったのか…。

 「だがな、今の軟弱なお前が魔王を倒せるとは到底思えん。『覚悟』と言えば聞こえは良いが、それを貫く事は簡単なものではない」

しかし…と続ける。

 「魔王を倒す覚悟は、本当に必要なのか?」

ハッとして親父の顔を見る。親父もまた、僕の顔を見ている。

 「俺はカナタ様とリアークの、最期を見ていた。俺も左腕を失ったが…。リアークはカナタ様を死んでも守り抜いた。だがその後の彼女は正直見ていられなかったのだ。確かに魔王はあの時倒されたが…その後残された者の痛みは計り知れない」

魔王を倒すことと、死んでも守ることは違う…ということかな…。

 「『覚悟』の先にあるものは、自分だけのものではない、ということでもある。覚悟を決めた所で、それが分からない様であれば、待つのは多くの悲しみだけだ」

なるほど…そうか。

 「…僕には、魔王を倒す覚悟はないよ。死んでも倒す、なんて事も思えない。でも…」

思い浮かぶのは、サクラの笑顔。あの笑顔を守りたいとは、思える。

 「ふん、覚悟の形などどうでも良い。だが確かめねばなるまい。…立て、ノア」

親父は立ち上がると、壁にかかった短い木刀をこちらに投げ渡す。親父もまた、それを構える。

 「え、親父…?」

 「問答無用…刀で示せ…」

言うが速いか一息に首を狙う木刀を紙一重で躱し、後ろに大きくさがる。

 「ま、待ってくれよ親父!」

 「うるさい!」

カァン!と音が響き、激しく打ち付けられる木刀を、必死でさばく。本気だ…!

 「くっ……」

一撃一撃が重い…これが親父の覚悟…?

 「ほら!打ち返してこい!お前の力はこんなものか…!!」

あぁ待ってそれは流石にカチンときたわ、クッソこの…!

 「ハァッッッ…!!!」

怒りに任せて打ち払う。上にかち上げたその隙を、逃す僕じゃない。体勢を低く、そのまま胴薙ぎに…!


 「ッ…ハァッ…ハァッ………」

息を絶え絶えに体勢を整える僕を、親父は木刀をさげ、深くため息を吐いた。

 「……自覚を持て、ノア。…お前は強い。もう既に今の俺より強いのだ。技術は全てお前の中にある」

あとは…。と続ける。

 「お前はサクラ殿(彼女)を、幸せにしたいと思わないのか?」

ハッとして顔を見ると、親父は少し寂しそうな笑顔で、僕を見ていた。

 「それは………」

 「お前は、リアークと同じ運命を望むのか?残されたカナタ様の様に、お前もサクラ殿を…?」

いや、違う。違う。そうじゃない。

 「覚悟って…それでも良いのかな…」

 「良い悪い、の話ではない。どの様な形であれ、覚悟は覚悟だ。」

そう、か。なら、僕は…。

まっすぐに親父を見据える。

 「僕は…僕は、ーーーーーーーーー!」

僕が叫ぶように言うと、ふっ…と親父の顔が綻んだ様に見えた。

 「…ならばその覚悟…示してこい!」

 「うん!ありがとう親父!」

宵闇の空に、僕の『覚悟』はこうして決まったのだった。

◆ ◆ ◆

翌日、休日だった僕は、サクラの家の戸を叩く。

静かに開いた玄関には、サクラのお母さん(カナタさん)がいた。

 「いらっしゃい。来ると思っていたわ」

 「…はい!」

今、家にはカナタさんしかいないらしい。リビングに通されて、テーブルを挟んで、カナタさんの正面のに座る。

しばしの沈黙…気まずい…けれど。

 「あの…昨日は申し訳ありませんでした…」

僕は深く頭を下げて謝罪した。

 「い、いいのよそんな…。私の方こそ、辛いことを言ってごめんなさいね…」

と、少し慌てたように彼女も頭を下げる。

 「いや、そんな…不躾な言い方をしてしまいました…」

いやいやそんな…と、堂々巡りになりそうだったので、僕は顔をあげて言う。

 「今日は、僕の覚悟を伝えに来ました。サクラがいなくて…ほんの少しだけ良かったと思います」

彼女も顔をあげて、僕の目を見る。

 「えぇ、聞くわ。聞かせてちょうだい?」

少しだけ深呼吸をして、心を落ち着かせる。

 「僕は、魔王を倒す事は出来ないと思います。でも…」

そうだ、僕は。

 「サクラには笑顔を…幸せになって欲しいと、そう思います」

黙ったまま僕を見ている彼女に、続ける。

 「そのために、僕は力を使います。必ず生きて、彼女を守ります。彼女の隣にいることが、僕の望みで…彼女と生きることが、僕の願う未来です」

 「ふふ、あははっ」

笑われてしまった…。

 「いえ…ふふ…ごめんなさいね。それじゃあなんだかプロポーズみたいで…はは…ふふふ」

涙が出るほどに笑っている彼女とは裏腹に、僕の顔が赤くなっていくのが分かった。

 「い、いやいやいや!そんな、あぁっ…!恥ずかしい………」

ひとしきり笑った彼女は、小さくなった僕に

 「ねぇ、もっとよく顔をみせて」

と、優しく微笑むように言う。向き直ると、少し悪戯っぽい顔で真っ直ぐに見つめられていた。

 「………いい顔になったわね…。そう…魔王は倒せないけどサクラは笑顔にできる、と」

問うような声色に、僕は

 「はい、サクラがどう思うかは分からないけれど…これが僕の覚悟です!」

 「ふふ、そうね。それなら…ついてきてちょうだい」

ついていくと、リアークさんの仏壇の前に止まる。そこには2振りの刀も一緒に納められていた。

 「リア……今のこの子になら、渡しても大丈夫よね…」

と、彼に語りかける様にしながら、刀を持ち僕を向く。

 「さぁ、受け取ってちょうだい」

差し出されたその刀を受け取ると、またナイフへと変化した。前の時よりも手に馴染む感覚に少し戸惑う。


ー心に決めたようだなー


そう言われた気がした。


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