ここのつめ 〜私のいる世界〜
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母さんがもたらしたという電車に乗って、今日もまた私は職場へと向かう。今日はまたどんな事が起きるのかな、そんなどんよりとした心とは裏腹に、憎たらしいくらいの青空を見て、またため息を吐く。
駅に着く。電車を降りると色んな格好の魔術師が歩いている。魔女っぽい格好から派手な髪色の派手な格好をした人、普通にスーツの人もいる。主要都市とは名ばかりの、格好だけ見れば無法地帯。目が痛くなるよまったく。
「はは、この前も聞いたな。そんな台詞を」
今日も隣を歩く、私の守護神。ギル爺。
「そうだっけ?でもさ、いつになっても慣れないよ?こんな景色」
隣の私は、夜のようなコートを身にまとい、歩いている。
「ははは、そうだな。お前さん今日の昼はどうする?」
「えー?朝なのにもうお昼の話?」
そう言って笑い合う、私の日常。普通だ…うん。実にいい。
「あれがいいのぅ…お前さんの作る生姜焼きがな…あれは美味いぞ!実に美味い」
「なーいしょ!お昼のお楽しみだね!」
なんてね、作ってあるよ。ギル爺の大好物の生姜焼きをさ。
「な!それはないではないか!サクよ!サク!」
笑いながら走り出す。後からギル爺も笑いながら追ってくる。本当にいい日常だ。コートがはためいて、腰にあるふたつの拳銃が、太陽を反射してキラリと光る。
管理局に着く。
「では、また昼飯時にな!」
「うん、いってらっしゃい」
いつもどおりのやり取りをすると、ギル爺は守護神管理局へと向かって行った。さて、私も行くか。
管理局に入ると、ちょうど出勤してきたであろうルイン課長とガリル局長にすれ違う。
「これはサクラ殿、おはようございます。今日も宜しくお願いします」
「おぉ、サクラ。おはよう。今日も頼むよ」
「おはようございます。おふたりとも。今日も宜しくお願いします」
笑顔で軽くお辞儀をし、私はある部屋へと向かう。この部屋は、かつて父さんも座っていた、限られた者しか知らない、秘密の場所。母さんの持つ技術を詰め込み、作り上げた、そんな場所。私が出した条件とは、魔王が絡むすべての事件の捜査。局長も課長も、それを聞いてニヤリと笑い。
「「おあつらえ向きの場所がある」」
なんて言われたよ。あの時の顔は、むしろふたりが魔王なんじゃないかって思えるくらい。いつだか見せられた女児向けヒロインズじゃないんだからさ。勘弁して欲しい。
私はデスクの椅子に座る。支給されたパソコン…は無く、デスクにはボタンが1つだけ。私は迷うこともなく、それを押す。室内は暗くなり、私のデスクからモニターが5つほどせり上がり、キーボードが1つ、私の目の前にせり出してくる。
『所有者』のみに使用を許された、明らかに母さんだけじゃなく『創造主』も手を加えたであろうそれに、私は告げる。
「起動」
さぁ、今日も魔王の捜査を頑張ろう。
◆ ◆ ◆
私は一般人だ。それ以上でもそれ以下でもない。少し卑屈かもしれないが、私はそう。いわゆるモブなのだ。
小学生時代も中学時代も、少々偏屈ではあると思うけれど、特にこれといった特技もなく。音楽と本が好きな、いじめられっ子のメガネな陰キャ。
引きこもれるようなことも、自分で自分を終わらせるような度胸もなく。学生を卒業しても刺激もなく退屈な毎日を過ごしている。事故って転生とか、通り魔に刺されて転生とか、異世界転生主人公になれるとか、夢のまた夢。それこそ3回くらい死なないと叶いそうにない。
そんな風に、どうしようもなく『普通』に憧れた…けれどどうしようもないくらいに『普通』に見放された。焦がれるように『一般人』を夢見た…けれどどうしようもなく『一般人』にはなれなかった。
これは、そんな私のいる世界の物語だーー。




