第7話「剣士の記憶」
納品から数日後。
亜神国より依頼完了の一報が入り、父とウルは祝杯をあげていた。
緊張が解けたからか、母の手料理はいつもより美味しく感じられた。
食事をしながら、ウルは父にずっと気になっていた質問をぶつけた。
「父さん、聞いても良いですか?」
「どうした、ウル?」
「父さんは僕が試作した《刀》を何故すぐに理解できたのですか?」
ウルが作った日本刀はあくまで試作品。お世辞にも良いできとは言えなかった。
あのまま納品していても、おそらく打診検査はクリアできなかっただろう。
その試作品をパッと見ただけで、より高品質に仕上げていった父の技能はさすがであった。
「それはな・・・父さんのスキルが《創作》ではないからだ」
「どう言うことですか?」
「ウルの技能系スキル《創作》は生産系のスキルでも基本的なものでな。スキルは経験や鍛錬、知識を身につけることで進化していくんだ。父さんのスキル《創作》は進化して《創造》になっているんだ」。
スキル自体が進化するなんてウルは初耳だったが、なんとなく経験したことがあるようなないようなそんな気がした。
考えても仕方がない。ウルは質問を続けた。
「《創造》はどんなスキルなんですか?」
父は、スプーンでスープをかき混ぜながら、答えた。
「うーーーん。そうだな。武器を見るだけでその材質、構造、作り方の最適解が理解できるといったところだな」
「だから見ただけで、、、」とウルは納得した。
「まぁな」
誇らしげに父は笑うと、スープを一気に飲み干した。
「《創作》はLv.10で進化できるから、ウルももう少しだぞ」
と言い、グラスに酒を注いだ。
「もう一つ良いですか?」
「ん?」
「何故、ドワーフはあんなにも毛嫌いされているんでしょうか?」
これこそが本題とばかりに、ウルはこれまで生きて来た中で1番の疑問を父にぶつけた。以前も父に同じ質問をした際にはははぐらかされたから、答えてくれるかは怪しかった。
しかし、
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長い沈黙の後、父は遂に話始めた。
「昔な、我らドワーフ族がまだ人間と友好的だった頃、魔王にも引けを取らないほど強く、亜神国にその男ありと言われるほどのドワーフがいたんだ。その男のスキルは《創造》だったんだが、地道な鍛錬でスキルを極め、遂にはレジェンドスキルを会得したとも言われている。そして、その男の作る武器は一級品。魔法スキルを持たぬものでも大規模な魔法が放てる武器を生み出せた・・・」
「魔剣ですか?」
「あぁ。男が作る魔剣は特に品質が高く国宝に認定され、人間国の戦力は格段に跳ね上がったと聞く」
「ただ、新しく誕生した魔王によって、人間と亜人族の軍はあっさり敗北。人間国の貴族たちは戦争の敗因を亜神国に押し付けた。そして亜神国を焼き討ちしたんだ。その魔剣を大量に使ってな・・・」
「な、なるほど・・・」
「ちょっと、あなた!!あんまり」
母が心配そうに話を遮った。
12歳の子供に話す内容にしては過激だった。
「だから、魔剣が作れるドワーフが誕生しないか、亜神国はビクビクしているのさ」
ァガッハハァーーーーー
父はウルを心配させまいと大声で笑った。
しかし、、、父には気になることがあった。
(納品した際のあの賢者が最後に放ったあの一言・・・)
・・・・・・
・・・・
「これで依頼は完了です。ところで、あなたはもしかして魔剣が作れるのではないですか?」
「作れるわけないだろ」
賢者ロークの問いにすぐに否定はしたのだが。
「そうですか。まぁ、国王様に報告しておきます。近々また会うことになるかもしれませんが(笑)」
・・・・
・・・・・・
考えていても仕方がない。
父は、ウルを見つめると覚悟を持った面持ちで尋ねた。
「ところでウル。明日は時間あるか?」
「明日ですか?」
「あぁ」
「大丈夫ですが、何かあるんですか?」
「まぁ、出掛ける準備をしとけ」
?
父が誘うとは珍しい。何かの買い出しだろうとウルは思い、「わかりました」と返事をした。
そんな会話をした後、父は工房に行き何やら作業を開始した。
覗きに行こうとしたが、明日は早いから寝ろと言われてしまい、ウルは大人しく寝床についたのだった。
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翌朝
「ウル起きろ!! 庭に来い」
父の一言で目が覚めた。時計は午前5時を指している。外もまだ暗かった。
ウルは朝には強い方だが、さすがにまだ眠かった。
「こんな朝早くからですか?」
眠い目を擦り、ウルは急いで支度をすると玄関を出た。すると、庭の真ん中に父が刀を持って立っていた。
「どうしたんですか?」
ウルは父に尋ねる。
しかし、父は答えることなく、ウルに木の箱を手渡した。
「これは・・・、刀ですか?」
「お前のだ。俺が作った」
ウルは木箱から刀を取り出した。
「構えろ」
「えっ?」
「いいから!構えろ!!」
そう言って父は鞘に入ったままの刀でウル目掛けて殴りかかって来た。
ウルは咄嗟に避けると、父の刀を弾き飛ばす。
父は弾かれた反動を利用し、足元目掛けて刀を振るが、ウルはそれをジャンプで交わした。
「くっ!」
父の怒涛の攻撃にウルはたじろぐ。
更に、右脇腹目掛けて父の蹴りが飛んできたが、ウルは右手それをガード。
そして、刀を左手に持ち替え父の頭目掛けて刀を振り下ろした。
「ェ面〜」
思わずそう叫んでしまったが、ギリギリで父はそれを交わした。
「強くなったな、ウル」
父は鞘に入ったままの刀を地面に置いた。
「まぁ、剣術も少しは父さんに習いましたから」
(咄嗟の身のこなし。防御と反撃のレスポンスの速さ。変な掛け声はさておき、正確な一撃。亜人国選抜試験にも受かるかもしれないな・・・)
「そこまで教えたつもりはないがな」
父は笑って言う。
「何故かはわからんが、お前は剣術の才覚もある。 事前の祭典が終わってからは自分の身を守るために戦うこともあるだろう! その刀は俺からのプレゼントだ」
ウルは刀を鞘から取り出す。
なんともしっくり持ちやすい。軽すぎず重すぎず、まさにウルのために作られた刀だった。そして刀には、ヘルシンキの文字が彫られ、鍔は金色に輝いている。
自分でも何故、剣の才覚があるのか分からない。ただ、相手の剣の振り、力の入れ具合でどこを狙っているのかが分かるし、更に言えば、ピンポイントで剣を振り下ろせた。
それは、レジェンドスキル《記憶神ムラモシュネ》の効果によって、前世から継承された技能なのであるが、父はもちろん、ウル本人すらもまだ気付いていないのだった。
「よし!行くか!」
父は準備してあった大きなリュックを持ち上げた。
「どこに行くんですか?」
「鉱山の頂上にいく」
「えっ!あそこは確かモンスターがいるから近寄るなって・・・」
「あぁ。だがもう大丈夫だろう。魔鉱石を取りに行くぞ。大量にな。ついでにモンスターの倒し方も教えてやる! 修行だ!」