第5話「事前の祭典」
事前の祭典が行われる神殿に向かってウルは麓を駆け上がっていると、後ろから声を掛けられた。
「ウル!」
振り返るとそこには、金髪の髪をポニーテールした青い瞳の少女が立っていた。
「マリン。おはよう」
ウルはクールぶって返事を返す。
彼女の名は、マリン・オスロ。
エルフ族であるオスロ家の長女でウルの幼馴染だ。
息が少しだけ上がっているところをみると、走るウルを見掛けてから一瞬で追いついてきたようだった。
「今日も相変わらず・・・背が小さいわね」
金髪で青い瞳の少女はきゃっきゃと笑う。
彼女は昔からウルのことを「ちび」だと馬鹿にしてくる。
(ドワーフ族なんだから仕方ない)とウルは思うが、元気一杯の彼女を見るとつい許してしまう。
ウルが突然のdisをなんて返そうか、スルーしようか考えていると、マリンは続けた。
「遂にスキルが付与されるわ。ワクワクするわね」
そう言ってウルの腕に自分の腕を組むと、引っ張るように神殿への道を駆け出した。
・・・・・・
・・・・・
ウルとマリンが鉱山の中腹にある神殿に着くと、そこには既に5名の子供たちが集まっていた。その全員が今年12歳になる者たちだ。
「よぉ!! ウル。ドワーフのお前も来たんだな。まぁどうせ役に立たない技能系の能力だろうがな」
軽い嫌味を言う彼は、ウルとマリンのもう一人の幼馴染で、このホルン国の長を勤める戦闘に特化した一族獣人族の一人息子だ。
名をフロスト・エストリアという。
決して嫌な奴というわけではないのだが、どことなくあのガキ大将に似ていることからウルは彼のことが苦手だった。彼も彼でウルに毎度のように突っかかってくるのは、マリンのことが好きだからでもあった。
ドワーフとエルフが住むこの街の長が獣人族であるのも、今の亜人国の国王が獣人族であり、そこから派遣されているためである。もうかれこれ20年以上、この街の長は獣人族が務めているのだった。
「鎮まれ!!」
銀髪の老人がゆっくりと前に出ると、私語にイラついた面持ちで話始めた。
(どこかで見たことがあるような・・・)
ウルはその老人をどこかで見たことがあった。
「今日はお前たちに能力を付与しに来た賢者ロークである。今回の事前の祭典では、貴様らにギフトを与えることになる。本日のこの儀式は、亜人国に設定された平等制度である。特にお前のようなドワーフ族を救うためでもある。感謝するんだな」
銀髪の老人は、ウルに目線を向けるとそう言い放った。
なぜこんなにもドワーフ族は下に見られているのか・・・。
それはこの国の歴史が大きく関係している。
150年前の人間と魔族の世界戦争の際、人間に加担し多くの武器を供給してきたのはドワーフ族であった。
人間と対立してからは、亜人国で重宝されるのは「人間と戦える戦力を有する者」であり、武器や建築を作ると言う生産職を得意とするドワーフ族は、亜人国にとって大した戦力ではなかったのである。
ドワーフ族といえば、屈強な肉体を持ち、大柄なアックスを振りかざすイメージがあるかもしれないが、そんな戦士はドワーフ族では稀である。かれこれ100年以上そんな男は誕生していない。
「武器の提供以外はドワーフに期待しない」
これが現在の亜人国内の皆が持つ常識でもあった。
「まず、お前たちは一人ずつ前に出て来てもらい、わしが貴様らの額に手を当て、貴様らの潜在的能力を開花する手伝いを行う。その時貴様らは神に感謝し、自身の胸に手を当て祈るのだ」。
それが「事前の祭典」の流れの全てである。
事前の祭典とは、自身の特性に合った能力の発現を少し早めるための儀式に過ぎない。
こんなことをしなくても、経験を積めばいずれスキルは発現するし、この儀式の前に能力が開花し、スキルを会得する奴だって少なくない。
だが、事前の祭典が存在しているのは、12歳という決まった時期にギフトを与えることで今後の未来を平等にするという言わば、平和のための儀式なのである。
これが亜人国が傷付けられた歴史から学んだ民主主義だ。
しかし、そんなのは建前である。
実際はというと、亜人国の戦力を確認するためのものに他ならない。つまりは使えるやつと無能の選別なのである。
そして、銀髪の老人は大きめの咳払いをした後、目の前に子供たちを呼び始めた。
「まず右のお前!」
「はいっ!」
最初に刺されたフロストが自信満々に前に出る。
賢者ロークはフロストの額に手を当てると、
「お前は《火魔法》スキルLv.2だ」と叫んだ。
そしてすぐに、「次はお前だ!」と、まるでベルト作業のように次々に子供たちを呼ぶ。
「次はそこのエルフ!!」
「はい!!」
「じゃあ行ってくるね」
そうウルに言ってマリンは前に出る。
賢者は他の子供達と同じように、マリンの額に手を当てた。マリンは祈るように両手を胸の前で組むと、一瞬、青い光が放たれた。
「お前は、《水魔法》Lv.3だ」
「おぉすげー!」
「エルフが水魔法とは珍しい」
周りもざわつくくらいLv.3というのは珍しい。
更に、生活にも使え、攻撃魔法にもなる《水魔法》は派生するスキルも多彩でかなり優秀なのである。
しかし、これで終わらなかった。
「それと、、、身体強化Lv.3だ」
うぉぉぉーーーーーーー!
賢者の言葉をかき消すように観衆が声援をあげる。
マリンは、2つの能力がギフトとして与えられた。これは滅多になく、10年ぶりの出来事でもあった。
拍手と歓声が湧き上がる。
恥ずかしそうに頭をかきながら、マリンは一瞥するとウルのところに近づいて来た。
「なんかびっくりしちゃったけど、これで父様に認めてもらえるかしら」
彼女の父は亜人王国の元兵編団だった。
しかし、人族との小競り合いの中で右腕を失い、追放された。
ウルも会ったことはあるが、単純に怖い父親だった。
「最後はお前だ。そこのドワーフ!!」
ウルは呼ばれ、前に出る。
そして、、遂に、、
「お前は・・・・・・・」
今までテキパキと作業をこなしてきた賢者の長い沈黙。
周りがどうしたのかと首を傾げた、その時。
「創作Lv.・・・5だ」
《Lv.5》これだけ聞けば驚くべきことである。
しかし賢者は続けた。
「《創作》は技能系でも戦闘には向かない生産職。役立たずだな」
沈黙していた観衆からは笑いが起こった。
「ドワーフは生産職がお似合いだ。足を引っ張るなよ」
それが子供にかける言葉かと疑問に思うが、おそらくこの賢者は何年もドワーフに暴言を吐いて来たのだろう。きっと悪気はない、というよりドワーフのことをなんとも思っていないのだ。
(父の遺伝を考えれば当然か・・・)
ウルはガックリと肩を落としお礼をすると、歩き出す。
しかし、、賢者ロークだけは違った。
賢者はこのドワーフの少年に与えられるべきもう一つのギフトを隠したのだった。
(あいつ・・・ドワーフの癖に亜人王と同じ雷魔法の持ち主とは、しかももう一つスキルを既に持っている。ただ、??????とはなんだ?私の鑑定スキルですら、知らないスキルということか・・・?)
賢者はウルに2つの能力の付与が可能だったのだが、それをしなかった。
(まぁドワーフがいくら魔法系の能力を取得したところでなんの意味もないがな・・・もうすぐドワーフは用済みになる・・・)
不敵な笑みを浮かべた賢者に、ウルも周りの観衆も誰も気づかなかった。
・・・・・・
・・・・
ウルは帰宅すると、一部始終を父に打ち明けた。
できれば魔法系の能力を取得したかったことも・・・。
しかし父はウルを褒めてくれた。
「Lv.5なんて聞いたこともない。立派だぞ。まぁ、お前なら当然だがな」
ウルは小さい頃、父の仕事の依頼の品の作成を良く手伝っていた。
初めは、父の仕事を眺めるだけだったが、あまりにもやらせて欲しいとせがむウルを見かねて依頼品の作成が終わった後、父は武器を打たせてくれた。
あの頃はそれが凄く楽しくて、母に怒られるまでひたすらに鉄を打っていた。
始めて作った包丁を母は今でもずっと大切に使ってくれている。
何かを自分の手で生み出すことの感動は、鳩だった頃には決して得れなかった感情である。
「お前は鍛冶の才能がある」
そう父に言われた時は嬉しくて泣いたっけ・・・。
「父さんよりお前は才能があるかもしれないな。自信を持て!!」
笑顔でそう口に出す父であったが、一瞬申し訳なさそうにした父の顔をウルはみ逃さなかった
(自分のようになるのかもしれない)
父はショックを隠せない様子だった。
・・・・・・
・・・・
ーーーコンコン
その時、先ほどまでウルたちにギフトを付与していた賢者が家を尋ねて来たのだった。
第一章までは出来ているのでブックマークしてもらえると嬉しいです。
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