第4話「ドワーフ族」
ーーーーーー12年後ーーーーーー
亜人国王都ギリシア王国内の西岸地域。スカンジナビア山脈麓の鉱山地区の集落。
ドワーフ族と一部のエルフ族が暮らす街がある。
西岸地区ホルム国。
それがこの街の名称であった。
街のどこからでも見ることの出来る鉱山には無数の穴が空いている。
穴の出入り口を繋ぐように崖があり、崖の上を線路がトグロを巻くように連結している。この鉱山からは、加工して武器になる「鉄鉱石」が取れることから、亜人国からドワーフ族に与えられた領地なのである。
スカンジナビア山脈は南北数千キロある世界一大きな山脈であり、亜人族と人族、魔族とを隔てる重要な砦でもあった。
ドワーフ族が暮らすこの街の頂上には、巨大なクレーターがあり、そこから斜め下に山脈内部に向かって一段と大きな穴が空いている。
しかし滅多なことがない限り誰も近寄らない。
なぜならそこには危険な魔獣が出るからだった。
ここは西岸地区ホルム国の中でも比較的平地な場所に立つ一軒家。
目の前には鉱山がそびえ立っているが、周りには緑は多い。
「おーい!! ウル!! 庭から薪を取ってきてくれ」
「はーい。父さん」
父は鍛冶を生業にしている。
小さい頃から毎日こうやって手伝いをしており、時々武器の作り方を教えてくれる優しい父だ。
父は、包丁や鎌などの生活必需品から剣や槍などの武器を高品質で製作できる。
僕が生まれた頃はまだ駆け出しという感じだったが、今や亜人王国に納品するほど腕が立つ鍛冶職人になっていた。
しかし、なぜか貧乏で、ボロボロの母家の隣に工房があるだけのシンプルな家だった。
僕が7歳になった時に2階を改築し、とても小さいが僕の部屋だってあるんだから、それなりの暮らしが出来ている。
僕が目を覚ましてから12年。わかったことがある。
まず、僕の名前は「ウルアート・ヘルシンキ」。
ヘルシンキ家の長男である。
母からはかなり不思議がられたが、生まれてからの記憶がある。5歳の時、母に僕の名前の由来を説明されたとき、思わず「知ってる」と呟いてしまった。
なぜって知ってるって?
それはもちろん、父と母の会話を聞いていたからだ。
僕には、鳩だった頃、つまりは前世の記憶が鮮明にある。
物心ついた時に、僕が体育座りで窓の枠で寝ていることを不思議に思った母に一度尋ねられ、前世の記憶があること、前世では空を飛び、ガキ大将に殺されたこと、走馬灯の中でシステム音を聞いたことを話したが、全く信じてもらえなかった。
一度父が連れてきた有名な治療士に見てもらったが、特におかしな点は見当たらず、父の鑑定スキルでも何もわからなかった。
「不思議な子」判定をされて、以来、僕は自分の前世の記憶ついて話すのをやめた。
まぁそれ以外は別に普通なので、特に語るようなことはないのだが、まぁ、遊びといえば、父の工房の奥の脇に積み上げられた武器書を眺めることくらいだろうか。
貧乏だったから、やることがなかったというのはあるが、8歳の頃には読み終えてしまった。
それからは、父を真似してあらゆる生活必需品や武器を作ってみることに熱中した。熱いことを除けば、意外と楽しいものだ。時間がかかるというのも暇つぶしにはもってこいだった。
わかったことは、それだけではない。
初め、僕は身なりから憎き《人間》(この世界でいう《人族》)に転生したと思っていた。
だが、違った。
一度父を訪ねて亜人王国から派遣されてきた偉そうな男。
年は父の方が上なようだったが、身長は父の方がかなり低かった。
「大柄な方でしたね」と父に尋ねた時、初めて僕たちが《ドワーフ族》だということを知ったのだった。
《ドワーフ族》は、大きな鼻と岩に例えられるようなゴツゴツした筋肉、髭こそ男の象徴だと言わんばかりの風貌を持つが、身長はかなり低いという、鍛冶などの製作が得意な亜人国の一民族である。
「もっと強い種族が良かった!!!!」
自分のものづくりの才に納得しつつも、そう思わずにはいられなかった。
人間に負けない強い種族。鳩だった頃の弱者にもうなりたくなかったからだ。
それがドワーフ族と告げられた僕の感想だったのだが、それを聞いた父はかなり申し訳なさそうな顔をしたのを覚えている。
「ウル!! もうすぐ神殿に行く時間じゃないの? 遅刻したちゃうわよ」。
家の窓から顔を出した母は、ウルに言う。
「やべっ!!」
ウルは急いで、薪を父に渡し、出かけるために髪を整えた。
12歳となる今日は麓の中腹にある神殿にて、亜人王国から派遣された賢者様に魔法系や技能系の潜在能力を開花してもらえる《事前の祭典》の日だった。
魔法系であれば、火魔法、水魔法、雷魔法、土魔法、風魔法、光魔法、闇魔法の7種あり、火魔法が開花すれば、火魔法から派生するスキルが得られるといった形である。
スキルは鍛錬や経験を積むことで、身につけて行くのが基本ではあるが、最初の潜在能力は個人の特性に合わせてギフトとして付与されることになっている。これがこの世界の精一杯の種族間の平等策なのである。
しかし実際には、遺伝も大きいと言われている。
ウルで言えば、親の影響で鉄を打ち続けてきたから、そういった技能系の能力が付与される可能性は高い。
それでも、「魔法系の能力が開花したら良いな」そう声に出して、ウルはわくわくを持って家をでた。
すでに第一章までは出来ているので、ブックマーク、評価してもらえると嬉しいです。初めての転生系!!頑張って仕上げていこうと思っています。