第2話「記憶神ムラモシュネ」
先程まで自由に空を飛んでいた一羽の鳥は、もはや鳩ではない。
精神のみとなり、緑一色に包まれた空間を浮遊するように漂っている。
暖かい大海原に浮かんでるような、何もない宇宙に浮かんでるような不思議な感覚を覚える。
《・・・ピピ・・・》
そんな中、かすかに聞こえるシステム音。
元鳩は、やっとそのシステム音に耳を澄ませてみようという気になっていた。
《・・・・・ユニークスキル『記憶を司どる者』の効果により、前世の記憶の引き継ぎを行います・・・・・》
《・・・・・成功しました・・・・・》
《・・・・・前世の記憶にて見たもの、経験したもの、体験したものを経験値に置き換えます・・・・・》
《・・・・・成功しました・・・・・》
止めどなく流れるシステム音に、元鳩は抵抗することも考察する時間を取ることも出来ずにいた。
《・・・・・経験値8954を新生に付与します・・・・・》
《・・・・・身体生成が未確定のため、取得経験値はスキルに還元されます・・・・・スキルに経験値を割り当てますか?・・・・・》
突然の質疑に元鳩は許可することくらいしか出来なかった。
(う、、、うん・・・)
《・・・ピピ・・・》
システム音も元鳩に応える。
(ピピっが返事とは変わってるね・・・)
《・・・・・現在、取得済みスキルがユニークスキル『記憶を司どる者』のみとなります・・・・・・全ての経験値をユニークスキル『記憶を司どる者』に割り当てます・・・・・・》
《・・・・・成功しました・・・・・》
(ちょ、、、ちょっと、まっ)
《・・・ピピ・・・》
《・・・・・ユニークスキル『記憶を司どる者』のスキルレベルが10となりました・・・・・ユニークスキル『記憶を司どる者』はエクストラスキル『完全記憶を持つ者』に進化します・・・・・》
(無視ですか・・・?)
すると、緑一色に包まれた空間に一筋の眩い光が疾る。
《・・・・・成功しました・・・・・》
これで終わることなく、システム音は更に続ける。
《・・・・・エクストラスキル『完全記憶を持つ者』の効果により、可能な限りの前世まで遡り、過去の記憶の引き継ぎを行います・・・・・》
《・・・・・成功しました・・・・・》
《・・・・・前世の記憶にて見たもの、経験したもの、体験したものを経験値に置き換えます・・・・・成功しました・・・・・》
(なんかさっきも聞いたけど、、)
と思ったが、全ての前世から得られる経験値はとんでもない量だった。
《・・・・・経験値729万5937を新生に付与します・・・・・》
(え?729万って言った?え?そんな・・・に?)
《・・・・・身体生成が未確定のため、取得経験値はスキルポイントに還元されます・・・・・スキルに経験値を割り当てますか?・・・・・》
そして再びの質疑が飛んでくる。
(は、はい。)
そう答えるしか出来ない。そんな気がした。
《・・・ピピ・・・》
《・・・・・現在、取得済みスキルがエクストラスキル『完全記憶を持つ者』のみとなります・・・・・・全ての経験値をエクストラスキル『完全記憶を持つ者』に割り当てます・・・・・・》
音のないビックバンが起こったような激しい爆発を身体の奥底で感じる。
そして先ほどとは比にならない、眩い光が、数万本、身体から360°全方位に発せられた。
《・・・・・成功しました・・・・・》
そして、止まることを知らないかのようなシステム音。
《・・・・・エクストラスキル『完全記憶を持つ者』のスキルレベルが10となりました・・・・・エクストラスキル『完全記憶を持つ者』はエンペラースキル『完全記憶を持つ者-神格者』に進化します・・・・・成功しました・・・・・エンペラースキル『完全記憶を持つ者-神格者』のスキルレベルが30となりました・・・・・エンペラースキル『完全記憶を持つ者-神格者』はレジェンドスキル『記憶神ムラモシュネ』に進化します・・・・・成功しました・・・・・》
(なんかよくわかんないけど、凄そうなことだけはわかる)
もう理解が追いついていない。
そして、脳内に最後のシステム音が鳴り響いた。
《・・・・・残りスキルポイントをレジェンドスキル『記憶神ムラモシュネ』に割り当てました・・・・・》
《・・・・・以上にてスキル付与を完了しました・・・・・・引き続き身体生成に移行します・・・・・》
(これはよくマンションのバルコニーの手摺の上で休憩していた時に、人間が観ていた異世界転生なのか?)
(だとしたら、私は何かに転生するってことか?)
うーん。もし転生するなら人間以外が良いな。ただ鳩はもういいや。出来れば人間に負けない強い種族。そうだなドラゴンなんかになれたら最高だろうな。
そうして鳩は転生する前に、記憶神となった。
(強くなりたい・・・)
そう呟きながら、元鳩は深い眠りについた。
そうこれは、元鳩が前々前世の記憶を持つことで無双する物語である。記憶神