第10話「亜人国の思惑」
ウルが修行を開始する5日前。
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亜人国王都ギリシア王国
賢者ロークは国王が待つ王宮に行くため、アホほど長く黄色い絨毯の弾かれた廊下を足早に歩いていた。
今日はドワーフからの受領した『刀』という武器を王へ献上する日である。
賢者ロークが王宮の扉の前に着くと、そこには2人の男が門番として立っている。
「来たか。ローク」
二回り以上歳の離れた賢者に向かって声をかけて来たこの男は、亜神国選抜兵団の副隊長でもある、現亜人国王の実の息子である。
いかにも戦闘民族のような防具を見に纏っている金髪の男の腰には、長い剣が挿してある。
そして、その隣にいるのは、亜人国王のもう一人の息子。
静かにお辞儀をするマッシュルームヘアーの少年は、血気盛んな性格の兄とは違い、一見優しそうなだが、恐ろしいほどのオーラが滲み出ている。
スキル《鑑定》を発動するものなら賢者である私でさえも冷や汗を書くほどの強者である。
(おそらくドワーフの家にいた息子と同い年くらいだろうか)
見た目は子供だが、副隊長の兄より遥かに強い彼に、賢者ロークはお辞儀をし返した。
「どうぞ、父がお待ちです」
マッシュルームヘアーの少年は静かにそう言うと、王の間の扉を開けると、賢者ロークは5本の刀を持ち王宮の扉を潜った。
中に入ると、なんとも言えぬ存在感を放つ亜人国王が、深々と腰をかけていた。
その緊張感たるや、何度あっても慣れることはない。
「それが、刀という武器か?」
野太い声で賢者に尋ねる。
賢者ロークは床に刀を置くと、自身の膝を床につけ、頭を下げながら答えた。
「はい。スキル《鑑定》で見ましたが武器品質はLv.20です。そして、先ほど2万回の打診検査をクリアしました」
「なるほど。素晴らしいな」
亜人国王は、立ち上がると1つの刀を手に取った。
そして、鋭い眼光で刀を観察すると、持っていた自身の斧を振り上げ、刀に振り下ろした。
ッキッーーーーーーーーーーン
床が割れるほどの一振り。
咄嗟に耳を押さえなければ鼓膜が破れてしまうほどの衝撃だった。
だが、刀は折れなかった。
すると、亜人国王は刀を天井に掲げた。
「魔剣までとは言えないが、わずかに魔法が込められるようになっているな」
亜人王の持つ刀は赤く光だし、チリチリと音を立て始めた。
「よし、賢者ロークよ。武器製造チームの指南役としてこの刀の製作者を向かいいれることとする。案内せよ」
「国王自らホルム国へ行かれるのですか?」
「あぁ、そうだ」
力強い言葉に賢者ロークは地面に着くほど頭を下げ答えた。
「承知しました」
そう言い、王の間を出るとホッとしている自分に気づいた。そして、王に言われた命を実行するべく、再びホルム国へと向かったのだった。
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ドワーフは戦えない民族である。
しかし武器創造の能力で言えば、敵う敵はいない。だが、その武器創造の能力を習得できる他民族がいればどうなるだろうか?
亜人国王はドワーフの技術を自身の民族、つまり獣人族に教え込もうとしているのだ。そうなれば、亜人国のお荷物であるドワーフは必要なくなる。
ドワーフ族の力を借りる必要はなくなり、かつ戦力もアップする。
これが、亜人国の思惑なのであった。
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賢者ローク案内の元、亜人国王がホルム国に到着する前日、スカンジナビア山脈麓の鉱山地区のとあるボロ屋。
ウルはさまざまな種類の武器を《創造》していた。
大剣に始まり、短剣、槍、そして斧。
父の武器を参考に真似る。そして作る。
「学ぶことは真似ぶことだ」はよく言ったものだ。
見て真似る。そして実際に《創造》する。これでどれだけスキルは身につくのか。
ウルのスキル《創造》はLv.2になっていた。
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