辺境伯様とのお出かけ①
ちょっと待ってくださいまし。
私、こんな扱い受けたことありませんことよ?!
今日は、シュトラウス様と遠乗りの予定の日。
朝から、メルと二人で万全の準備をしましたわ。
それはもう、念入りに。
遠乗りということで、馬には乗れませんけれど、乗馬ができるドレス。
私としては、もう少しおとなしめのドレスでよかったのですけれど、
メルが頑としてこのドレスを譲りませんでしたわ。
今日のドレスは、普段、私が好んで着る物よりも、少しだけ可愛らしさを強調した感じです。
色は、シュトラウス様の瞳の色いに近い、薄い緑色で、シュトラウス様を意識していますと言っているようで、少しだけ恥ずかしい。
髪は軽くハーフアップにまとめられ、日焼け対策もバッチリですわ!
あとは、シュトラウス様をお待ちするだけ。
何かしら、少しそわそわ落ち着かないわ。何故かしら。
「お嬢様。少し、落ち着いてくださいませ。辺境伯様がお見えになるには、まだ少しお時間ありますから」
メルに生暖かい目で窘められてしまったわ。解せない。
コンコン
何度か、そんなやりとりをしていたら、不意に扉が叩かれました。
メルがお嬢様は少し落ち着いてください。と、言いながら対応に出てくれました。
ええ。落ち着かなければ。思わず立ち上がってしまったけれど、はしたないわね。
取り合えず、座りましょう。
「お嬢様…応接間で王弟殿下と辺境伯様がお待ちとのことです」
へ。王弟殿下?何故?!
メルが困惑気味に、王弟殿下とシュトラウス様の来訪を告げました。
でも、解せない。何故、王弟殿下が、我が家に?
「現在、旦那様が対応されているようですが、お嬢様も早く来るようにとのことです」
「と...とりあえず、すぐに向かいます」
ドレスは、このままで良いでしょう。今日は、出かける予定だったのですもの。
シュトラウス様といらしているということは、王弟殿下もご承知のはず。
コンコン
お祖父様の入室許可を受け、私は応接間に入ります。
「ミリュエラでございます」
私は、王弟殿下の姿をみとめ、社交儀礼と社交辞令を述べる。
「うむ。硬くならずとも良い。私が押しかけているのだから。座ると良い」
王弟殿下の言葉を受け、失礼いたします。と、シュトラウス様の向かい、お祖父様のお隣へ腰を落ち着けます。
「すまぬな。今日は、ユミナと遠乗りの予定だったのだろう。手短に済ますからゆるせ」
王弟殿下は、そう申されると事の次第を話し始められました。
どうもやら、第二王子の婚約打診の使者としていらっしゃったようです。
既に、シュトラウス様が婚約の打診を私にされている事もご存知の上で、使者を受けられたようです。
「テイラー嬢。王家からの婚約の打診は、強制ではない。君の好きなようにすると良い。それは、私が保証する」
王弟殿下はそうおっしゃると、長居をしても悪からと帰られていきました。
その際に、シュトラウス様へ何か耳打ちをされいたようです。
気のせいかしら?シュトラウス様が若干慌てていらっしゃったような?
お祖父様も、私とシュトラウス様に気をつけて出かけておいで。と、おっしゃって席を立たれました。
王弟殿下をお見送りするそうです。私は、シュトラウス様のお相手を仰せつかったので、免除らしいです。
お祖父様、いいんですの?それで…
「テイラー嬢。今日の装いもお似合いですね。本日はよろしくお願いいたします」
シュトラウス様は、そう仰られて、私に手を差し伸べてくださいます。
「こちらこそ、本日は宜しくお願い致します」
シュトラウス様の手に、そっと自らの手を乗せ、シュトラウス様にならい立ち上がります。
そっと、私の手をシュトラウス様の腕に添えられました。エスコートをしてくださるみたい。
私、これほどスマートにエスコートしていただいた事あったかしら。
そもそも、私デビューはしていますけれど、社交界では壁の花をしておりますし、クルツはまだぎこちないですものね。
シュトラウス様は、社交界へはあまりお出にならないとお伺いしていますが、実は慣れていらっしゃるとか?
え。シュトラウス様、遊び人?
「それは、ちょっとひどいかな」
え?
シュトラウス様の言葉に、私は戸惑いを隠すことができず、シュトラウス様を見上げてしまいました。
クスクスとシュトラウス様は笑われながら、こうおっしゃいました。
「テイラー嬢。さっきから、全部口に出されてますよ」
その言葉に、私は羞恥で俯いてしまいました。
何故。今までこんなミスしたことなかったのに。もしかして、私思ったよりもシュトラウス様に気を許している?
そんな事を考えてる私に、シュトラウス様は説明してくださいました。
遊び人ではないよと。むしろ、戦いに身を置いている事が多いから、遊ぶ暇もないと。
「さて、テイラー嬢。馬には乗れないという事だけど、馬は平気?」
いつのまにか、玄関ホールを抜け、シュトラウス様の愛馬のところまで来ていました。
「いえ。乗馬はお祖父様の許しがでないだけなので。むしろ、馬は好きです。賢いですもの」
私の言葉に、シュトラウス様は、愛馬をご紹介してくださいました。
オルドーという雄馬だそうです。芦毛の可愛らしい子でした。
でも、貴族で芦毛の馬を愛馬にされている方は珍しいですわね。
私のそんな考えがわかったのか、シュトラウス様は、こう付け足されました。
「オルドーは、勇敢で足が早いのです。戦場で幾度となく助けられました」
私は、まぁ。と、マジマジとオルドーを見つめてしまいました。
そんな私を、オルドーも見つめ返してくれているようです。
って、なぜシュトラウス様は笑われていますの。私、何かおかしな事したかしら。
私が、そんな事をつらつらと考えていると、いつのまにかシュトラウス様は馬上の人となり、手を差し伸べてくださっています。
私は、シュトラウス様の手を借り、なんとか馬の背にまたがりました。
ちょうど、シュトラウス様の前側に座る感じです。
こ...これは、思ったよりも密着度が高いわ。え。ちょっと待って。
シュトラウス様が手綱を持つとちょうど、まるで腕の中に抱えられているようで…
私の戸惑いをよそよに、では、出発しますね。と、シュトラウス様は馬を歩かせ始めました。
恥ずかしさで、ろくな受け答えができていない私に、シュトラウス様は話掛けてくださいます。
今日は、王都近くの林へ行くそうです。
今の季節は、青々とした緑が綺麗なのだそうです。
私、楽しみになってきましたわ!早く着かないかしら?
ワクワクし始めた私の耳に顔を寄せられ、こんな事をおっしゃいました。
「今日のドレスの色は、私を意識してくれたの?」
思わず、後ろを振り向くと思っていたよりも近い位置にシュトラウス様のお顔があって…
恥ずかしくって凄い勢いで下を向いてしまいました。
え。ちょっと待ってくださいまし。な、なんでそんなにお優しい顔を笑ってらっしゃいますの。
そして、何故、バレてますの。いえ。別にそんなに意識したわけではないもの。
メルが、絶対この色だって、言ったからで…
うー。
私、こんな扱い受けた事ありませんのよ。
ど、どうしたらいいのかわからないわ。だ、だれか助けて…