暗殺者の行き着いた先(ヘーゼル視点)
彼女がそう決めるなら自分はあれの傍に・・・
自分の名はヘーゼル。暗殺者の家系に生まれ、一族を根絶やしにした。
古の血を引く暗殺者の家系。この国唯一の一族だった。
別に国のために動いていたわけじゃない。
ただ、そういう裏の仕事を受けて、生計を立てていた。ただそれだけ。
家名は、アーサイシン。自分が一族を根絶やしにしたことで、既にその名を名乗るものはいない。
最後の一人が自分であり、自分もその名を捨てたのだから。
きっかけは彼女だった。
アーサイシン家に彼女の暗殺依頼があった。
自分がまだアーサイシンと名乗り、その手を血に染めていた頃。
恐らく、彼女も覚えていなかったただろう。まだ、ほんの4歳ぐらいの時の話だ。
自分もまだ幼かった。10に満たない程だっただろう。
珍しく自分は、対象に近づき取り入る手段をとった。
当時の自分からすれば、悪手であった。だから、自分は救われた。
故に、アーサイシンの一族は滅ぶこととなる。
何があったかを詳しく語るつもりはない。宝を見せびらかす趣味はないのだから。
自分は、アーサイシンの一族を根絶やしにし、テイラー侯爵に頭を垂れた。
遠くない未来に、彼女に仕えるために。
結果として、敵わぬ未来となったが。
自分が少し離れた隙に、彼女の灯が消えてしまったのだから。
自分の元に戻ったのは、彼女によく似た、けれど笑わなくなった少女だった。
でも、自分の不甲斐なさや無力さに嘆いている間に、その少女も失うところだった。
少女を守り自分の剣を受けた青年もよく成長した。
また、二人の人生が交わったのは予想外だったが。
過去に思いをはせていれば、慣れ親しんだ者の気配を背後で感じる。
「マルクス。帰ったのか」
「ヘーゼルの背後は中々とらせてもらえねぇ・・・」
苦々しく言いながらも、帰ったと返事をよこし、自分の傍へと腰を下ろす。
そして、黒いペンダントを差し出してくる。
「これは、ヘーゼルに。あと、お嬢からの伝言と報告がある」
マルクスは、小声で報告を始めた。
ふむ。他には漏らしたくない話しか。
そばに居るのが私だから理解できるほどの小声。
唇を読まさないために、口元を隠して離しているのもある。
そして、報告される内容も渡されたペンダントの存在も全てに驚かされる。
魔王が密かに動いたか。
他の魔王の管轄で、他の魔王を心酔する者のが問題を起こすか。
面倒なことこの上ないな。
「なぁ。あの時、お嬢はああ言ってたけど、ヘーゼルは既に認めてたろ」
報告が終わり、思考に没頭しかけた所で、脈略もなくそんなことを言ってくる。
「ああとは、あれか?自分とマルクスが辺境へ派遣される時のお嬢の言葉か?」
マルクスは、ああと頷く。
たしか、自分とマルクスは、まだ認めていないとか言っていた。
「そうだな。厳密には認めるとは違うが」
マルクスは、少しだけ考えるそぶりを見せ、決まり悪げに自分に宣言をする。
「お嬢に言うつもりは今のところないんだけど・・・
俺は、お嬢を主に定めようと思うんだ。
というか、危なっかしくて目が離せない気もするし。
辺境伯はまぁ嫌いじゃないし。的な?」
何故、最後が疑問形なんだ。そもそも、自分に言ってどうなる。
「何故、自分に言う」
「俺とヘーゼルは、能力と特性的に組まされることが多いからな。
それに、ヘーゼルはお嬢を主かそれに準ずるもとして認めてると感じたから?」
・・・なるほど?マルクスらしいと言えばらしい。
「確かに、自分に出来ないことを補うにはマルクスが一番適任だが。
自分はそんなにわかりやすかったか?」
「いや?むしろ、わかんねえんじゃないかな。
多分気づいたのは、俺の悪いクセのせいなんじゃ?」
マルクスの悪いクセか。
まぁ、厄介と言えば厄介なクセだな。
他人を事細かに観察する。
出自が関係しているが、自衛のためだし文句も言えない。
それに、自分のような暗殺を生業としていた者と兵器でペアを組めるのは、そのクセがあってこそだろう。
「そうか」
「まぁ、そんなわけだから、これからもよろしくって事で」
そう言うと、マルクスは辺境伯にも報告してくる。と、自分の元を離れていった。
そう言えば、見張りもかねて自分は屋根に居たのだが、マルクスはよく上がってくる気になったものだ。
今更ながら、あれには感心するしかない。
軽そうに見えて、けしてそうではないし、慎重に事を運ぶ。
自分にはない能力だ。
あれは、彼女を主と定めたか。自分は、どうするべきか。
彼女の忘れ形見である彼女。ミリュエラお嬢様。
彼女を見守る事は、今もこれからもかわらない。
彼女に仕えると決めたときとは違う思いではあるが、仕えることに異論はない。
侯爵は恐らく彼女を嫁にだす心づもりなのだろう。
それも、知の一部の力と共に。
そうだな。彼女が決めたのならば、自分はあれの・・・彼の傍にいることにしよう。
長い目で見れば、彼女を守る最善と判断する。
とりあえず、自分も辺境伯の元へ戻るか。
マルクスの報告には、このペンダントも必要だろう。
それに、新たな異変は特に感じられない。
元々魔界と隣接している地域だから、不穏な空気は常時ある。
今はそれとは別に、張り詰めた空気と切羽詰まった殺意が蠢いている感覚がある。
恐らく事が動けば、一瞬で全てが決まる。そんな空気。
辺境伯も似た空気を感じているのだろう。
悪い方に転ばぬ事を祈るしかないな。
音もなく屋根を一跳びでおり、そのまま辺境伯の、執務室へと自分は顔を出した。




