辺境伯の戸惑い(ユミナ視点)
全くもって、意図が掴めない。
侯爵は、いったい何を考えているんだ。
舞踏会の会場を見回しながら、今回はもう諦めてしまおう。
私は、悪くない。これはもう、きちんとした貴族令嬢を呼んでいない王弟殿下のせいだ。
完全に、王弟殿下へ責任転嫁をしながら、早々と帰路へつこうとした。
ん?あれは、確か侯爵家の...?
ああ、そうだ。テイラー侯爵だ。まだ、現役でいらしたのだな。
お隣に控えているのは、誰だ?侯爵に何処と無く似ているようだが...
私は、失礼にならない程度に、侯爵とその連れを観察した。
会ったことは、ないはずだ。となると、後継か?
いやしかし、テイラー侯爵家のご子息は、勘当状態で亡くなられたのでは...
そこまで、考えたところでやっとのこと、思い出した。
亡きご子息の忘れ形見のご令嬢とご子息を養子に迎えになったと風の噂で聞いた。
おそらく、それが彼なのだろう。ご令嬢は、いらっしゃらないようだが。
ふむ。挨拶をしておくか。王家にならむ歴史を持つ侯爵家だしな。
そんなことを考えながら、私はテイラー侯爵に近づき、声をかける。
「お久しぶりでございます。侯爵」
侯爵は、少々怪訝な表情で、私の顔を見ている。
だよな。多分、挨拶なんてもう何年もしていないものな。
「ああ。シュトラウス辺境伯でしたか。お久しぶりです。失礼。一瞬どなたか、わからなかった。そろそろ、歳かな」
侯爵は、ゆったりと微笑みながら、返答してくださった。
「いえ。なかなか、社交の場に出ない、私が悪いのです」
私は苦笑を浮かべる。そもそも、思い出してくださって若干驚いている。
最後に言葉を交わしたのは、多分私が20歳の頃だ。
「ところで、侯爵。そちらの方は?お若い方をお連れのようですが」
侯爵の側で、寡黙に佇んでいる少年を見ながら、聞いてみる。
「ああ。申し訳ない。私の養子で孫息子のクルツです。クルツ。こちらは、シュトラウス辺境伯です」
侯爵に紹介され、私は改めて挨拶をする。
「ユミナ・シュトラウスです。若輩ながら辺境伯を勤めさせていただいています。以後お見知りおきを」
「丁寧なご挨拶、ありがとうございます。私は、クルツ・テイラーと申します。お祖父さ...あ。こほん。侯爵から色々学ばせて頂いている身です」
なるほど。クルツくんを次期侯爵に考えているわけか。そして、普段はお祖父様と呼んでいるな。これは。
まぁ、呼び方に関する情報は、どうでもいいのだが。
「辺境伯は、普段あまり社交の場にお出にならないとお聞きしております。お会いできて光栄です」
「そうですね。我が領地の土地柄、領地に籠もりがちになってしまいますので、社交は少々苦手ですね」
私は、秘密ですよ?と、クルツくんに答える。
話を聞いていると、どやらクルツくんは、18歳で今年社交界にデビューしたようだ。
そして、どうやら婚約者がいるらしい。2歳年下の伯爵令嬢なようだ。
何故だ?やはり、この年まで婚約者が居ないのは、異常なのか?いや。そんなことは...
「ああ。そうだ。辺境伯」
己の思考に没頭しかけていると、侯爵が声をかけてきた。
「君、ウチの孫娘の婚約者にならないかい?まぁ、一時的なんだけど」
「…は?」
私は、言われた意味を取り兼ねて、失礼にも間抜けな声が出てしまった。
「うん。年の頃もちょうど良いし、君は一応信頼できるからね。後日、顔合わせをしてくれないかな。詳しいことはまた連絡させて頂くよ」
侯爵は、そこまで言うと、ちょっと呼ばれているから失礼するよ。と、クルツくんを連れて、去っていった。
いや、ちょっと待ってくれ。婚約の話は、まぁいい。テイラー侯爵家であれば、辺境伯家としても問題はない。
だが、一時的とはどう言うことなんだ?
全くもって、意図が掴めない。