第五十三話「冒険者ギルドに行こう」
レガントの工房を後にしたユウリ達は、途中で昼食を挟んでから、冒険者ギルドに向かうことにした。
二人の装備に関しては、アイリスは防具はドラゴンローブのままで、外套など上から他の物を重ね着する事で対処し、武器は女性でも持てる程に軽い、片手用のライトメイスとバックラー。
そのような装備なので、古いゲーム知識がある者が見れば、聖職者タイプの冒険者のような恰好になっている。
ルナの装備はとりあえず、動きやすさを重視して少し厚手のクロースアーマーという、普通の服とあまり変わらない物を選ぶ事にした。ステラがいつの間にか指導していた為、ルナも僅かながらに精霊魔法が使えるようになっており、武器は護身用の短剣だけにしている。
亜人用の店だけあって、防具のサイズに関しては中々豊富で、ちょっと直すだけですぐに使える物ばかりだった。お陰で間に合わせとは言えど一番手間がかかりそうなヘルガの皮鎧でさえ、すぐに丁度いいのが見つかったのだ。
「ああ、アレは単なる在庫だよ。あの店、売る気があるのかないのか、ジジイの気分で客を追い返す事もあるからね。ただ腕だけはいいから、割とあちこちから注文は来るんだって話だけど」
呆れたように息を吐いて、ヘルガが苦笑する。そんな話を聞かされてもユウリ達は曖昧な表情を浮かべる以外に出来ず、アイリスが気を利かせてすぐに別の話題へとすり替えるのであった。
北から南に真っ直ぐに街を突っ切るように整備された大通り。この街のメインストリートと言える場所で、王城は街の中央から西側の方に存在している。
そのお陰か人の往来が多く、特に隊商の馬車が多い。そこから中央付近にある横道を曲がり、彼らは東門の近くにある冒険者ギルドへとやって来るのだった。
「わ、大きいね」
「ここはこの国の冒険者ギルドを纏める本部だからね。ああでも、フィンダート王国の冒険者ギルドとは、別組織だと思っておくように」
二階建てばかりが多い王都メイージュにおいて、四階建ての大きな石造りの頑丈な建物はとても珍しく映る。造りは違うようだが、ベルンの街の冒険者ギルドの物と似ている気がした。隣には同じように冒険者用の酒場を兼ねた宿が併設されており、この辺りはどこも同じらしい。
「ベルンのプレート自体は通用するけど、他国だからあんまりいい仕事はさせて貰えないし、アイリスとルナの事を考えると、また最初の時みたいな仕事ばっかりになるから、そこは覚悟するんだよ?」
「そうなの? というか、あの……こう、名前が言えないのがもどかしいっ。とにかく、私たちの目的を考えると、どうにかあちこち回れそうな仕事がいいわ」
「ああ。いい加減そっちも本格的に動かないといけないからね。ステラ的にはどういう場所が良さそうか、心当たりはあるかい?」
あえて世界樹の名は出さない。どのようなよからぬ輩がいるか分からぬ以上、迂闊に存在を知られる訳にはいかないのだ。そんなステラの心情をヘルガも承知しているからこそ、このようなやり取りになっている。
「うーん……とりあえず、森の中でも清浄そうな場所がいい、とは思うんだけど……」
「ステラ姉さま。縁深い場所とか、荒れた土地もいいかもしれないと、あたしは思うの」
ステラの袖を引きながら、遠慮がちにルナが言う。ある意味当たり前のように、ルナもステラと一緒に世界樹の世話をしており、その時の様子から好みそうな場所が分かるまでになっているようだった。
「縁ったって、神話の時代に失われたあの貴き方がどこにあったかなんて、もうわからないのよね。それに荒れた土地は相応しくない気がして、個人的にはちょっとね」
「植えられそうなところに持っていけば、大丈夫かわかる。はず」
そんな風にエルフの二人が言うので、それっぽいところを探しつつという形で行くしかないと、ユウリは静かに息を吐いた。
「それはそうと、そろそろ中に入るからついておいで」
「はーい!」
ヘルガに促され、一行はメイージュの冒険者ギルドへと足を踏み入れるのであった。
建物内に入るとそこにはある種、見慣れた光景となったものが広がっていた。建物の造りや配置はやや違うものの、冒険者ギルド特有の空気感がそこにはあって、久々のギルドにユウリやマットは安堵や高揚のような気分を味わっていた。
逆におっかなびっくりな態度なのは、これから冒険者登録をしようと言うアイリスとルナの二人だ。やはり女性が好き好んで近付きたい場所ではないため、どうしても及び腰になってしまう。
亜人なので街中では普段からマントとフードを被っているものの、やはり女子供はとても目立つようで、あちこちから刺さる値踏みするような視線は、とても居心地が悪い。
周囲のそんな反応を気にすることなく、ヘルガはどんどん先に進んでいく。その後ろをステラがルナとアイリスの手を引きながらついていき、最後尾をユウリとマットが固める。事前にヘルガからそうした方がいいだろうと、言われていた為だ。
「おーっと。ちょっと待ちな姉ちゃん達。依頼の受付はこっちじゃないぜ?」
「…………なんて基本に忠実で、つまらない芝居をしてるんだい、アンタは」
古巣であるヘルガからすれば、ここの顔触れは見覚えのある懐かしいのが半分、見た事が無いのが半分と言ったところだ。これが覚えのない若手であれば問答無用で投げ飛ばすところなのだが、見覚えのある古参の男がそんな風に絡んで来れば、手を出すよりも先に呆れたくもなる。
「ハッ、あの男嫌いの暴れ虎だったヘルガが、ガキを連れて来るなんて面白い事してるからよ。ま、一応な?」
「はいはい、そういうのは後にしな」
「おっと、一発殴られるくらいは覚悟してたんだが、年食って少しは落ち着いたか?」
「お望みならここから大通りまで、ぶん投げてやるよ?」
気安いやり取りをしながら、ヘルガが牙を剥くように笑う。知り合いらしい男は両手を挙げて降参だと示しながら、冗談だと笑って道を開けた。
これは彼らなりの歓迎であり、同時にヘルガを知らない者への牽制でもある。また一緒にいるユウリ達にも、余計なちょっかいを出されないようにという気遣いなのだが、気付いているのはヘルガだけだろう。
苦笑しつつもひらひらとやる気なく手を振れば、あちこちから「おお」と珍しいものを見たような驚きの声が上がった。過去のヘルガがここでどんな扱いだったのか、ステラとアイリスに何となく見えたような気がしたのは、気のせいではあるまい。
「新規の登録希望を二人連れて来たから、手続きしておくれ」
「……説明は必要か?」
「いや、後でこっちで教えておくよ。特に他所と変わらないだろう?」
ヘルガが銀のプレートとベルンで貰った異動許可証を差し出しながら、アイリスとルナの方を示す。受付の男はヘルガのプレートを確認すると、小さく頷いた。
「登録料は?」
「依頼は面倒だ。払う」
「この書類に記入したら、寄越せ。一人八百セタだ」
顔中傷だらけの不愛想な受付との、短いやり取り。ユウリ達が初めてギルドに来た時とは大違いだ。
「なんか、ヘルガさんカッコイイ……!」
「ああいうスマートなやり取りは、ユウリじゃ無理よね」
「なんで!?」
「だって貴方、初めて入るところだとして、お上りさんみたいにキョロキョロしないでいられる?」
ヘルガのやり取りを見ながら、ユウリとステラが小声で言葉を交わす。なかなか痛いところを突かれたのか、ユウリはぐっと言葉を詰まらせ、ステラを上目遣いで睨む。すると優しく頭を撫でられてしまい、ユウリは思わず頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。
それを見たマットが面白がってユウリの真似をするのだから、彼らの行動は場所が変わっても大して変わらないらしい。
「なに面白い事やってるんだい、アンタ達は」
三人がじゃれ合っている間に、ヘルガはアイリスとルナの登録を済ませてしまったらしい。新しくノービスプレートを受け取った二人は、少し照れるようにしてプレートを見せてくれていた。
「ほら、あとはアンタ達もそっちの受付にプレートを見せておきな。ここで暫く活動する以上、異動手続きを済ませないと仕事を貰うのに、面倒な手続きが必要になっちまうよ」
そう言われてユウリ達は、慌てて受付の方へ向かっていく。それぞれのプレートを見せると、受付の男は何やら書類を確認して短く「いいぞ」と告げた。
「えっと……?」
「もう手続きは終わったから、大丈夫だよ。それじゃあ次は依頼を見に行こうか」
「あ、うん」
余りにもあっさりし過ぎていてユウリ達が困惑していると、ヘルガが誘導してくれる。彼女の案内に従って依頼が張り出された場所まで来ると、やはりというか、ベルンに居た頃と余り代わり映えのしない依頼が並んでいた。
「これは、確かにベルンの時と大差ないわね……」
「うん。外に行く依頼も殆どないし、ちょっと困るね」
「うー、街はヤダ」
ステラ、ユウリ、マットの三人が相変わらずな反応を返すので、ヘルガでなくとも思わず頭を抱えたくなるものだ。とはいえ、ユウリとステラがカッパープレートである以上、この程度の我儘は許されるとも言える。
「まあ私も居るし、ユウリとステラのランクを考えると、討伐系の依頼を受けた方が無難かね?」
「い、いきなりですか!?」
「アイリスとルナに戦え、なんて言わないよ。今は荷物持ちとでも思ってな。新人はそう言う育て方もあるからね」
怯えた表情を見せるアイリス、ヘルガは笑いながら否定する。
いわゆる新人冒険者向けの仕事の一つとして、ポーターと呼ばれるものがある。先輩冒険者の荷物持ちとして付いていき、その技術を間近で学ぶことが出来るというものだ。ただし相応に高い体力を求められるため非常にきつく、強い覚悟の要る仕事でもある。
「あ、じゃあこれは? 森の熊退治!」
「熊は強敵……ではあるんだけど、ユウリだしね」
気軽に熊退治などと言っているこの少年の非常識ぶりに、ステラは思わずため息を吐いた。魔物でない熊であっても恐ろしく強く、ゴブリンやオークの中規模程度の群れなら、単体で全滅させることが可能な獣なのだ。
普通の冒険者なら間違いなく避けるべき依頼であり、積極的にこういうのを手に取ろうとするユウリがおかしいのである。しかしこのパーティだとヘルガ、ユウリ、ステラの三人は、それぞれ一対一ですら余裕で対処可能なのだから、色々と反則気味なのだと言わざるを得ない。
ヘルガとユウリは実力で真っ向から狩ることが出来、ステラなら野生の熊を精霊魔法で撃退も捕獲も容易なのだ。この国のシルバープレート持ちですら一対一では難しいこれらを、反則と言わずして何を反則と言おう。
やりとりの方向性が色々とおかしいこの新顔のパーティに対して、遠巻きに見ていたメイージュの冒険者たちは、どのように反応するべきか、困惑を深めるのであった。
冒険者らしい事をするのも久しぶりですね。




