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第四十五話「ご主人様ってどういうこと!?」


「改めて助けていただき、ありがとうございます。ワタシは見ての通り半獣人で、アイリスと申します」

「えっと、この娘はルナって言うみたい。アイリスが言うには取替子らしくて、この子も同族を見たのは初めてらしいわ。ただ詳しい年齢は分からないけど、十は超えてるはずよ。エルフは十歳を過ぎると急に成長が遅くなって、百歳くらいまではそのままだから、他の種族には解り辛いけど」


 歩きながら自己紹介を済ませ、いつの間にかルナの事情まで聞き出していたらしいステラが補足する。地味にエルフの成長曲線について触れられており、なかなか衝撃的な内容でもあった。

 なおエルフが肉体的に成熟するまでかかる時間は約百五十年程。成人として認められるのは、凡そ二百歳を超えた辺りだ。


「しかし運がいいのか悪いのか、また困った同行者が増えたもんだね」

「……そうなの?」


 ヘルガの言葉にそう疑問を返しながら、頑としてこちらを向こうとしないユウリは現在、マットと共に先頭に立って街道を歩いている。ルナはまだ幼いからいいとしても、アイリスの姿は色々と刺激が強すぎる。

 適当なマントを渡して羽織らせてはいるものの、それでも滲み出る色香は、ユウリを挙動不審にさせるには十分過ぎた。

 そんな少年の様子に苦笑を浮かべつつ、ヘルガは困ったような表情を浮かべる。


「そりゃあ幾ら取替子(チェンジリング)だからといっても、エルフだしね。ステラも同族を放って置く気はなさそうだし、アイリスもこの見た目だ。すぐにまた奴隷商人にとっ捕まってしまうかもしれないね」

「うぅ、一応見た目には自信がありますから、やっぱりそうなりますよね……」


 自分の美貌を理解していると、ある意味で自慢にも聞こえる事を言いつつ、アイリスはがっくりと肩を落とす。猫のような耳と尻尾を生やした半獣人であるアイリスは、その美しさとメリハリのある女性的な肉体によって、故郷の都市国家では王の妾の一人として後宮に居た程なのだ。

 高級娼婦となるにしろ、金持ちのペットになるにしろ、彼女を放っておく男がいるはずがない。


「というかですね。ユウリ様がワタシの新しいご主人様じゃ、駄目なのでしょうか……?」

「……は?」

「……ちょっと、どういう意味かしら?」


 とても気軽に、そしてある意味でとんでもない危険な台詞をアイリスが口にする。即座にヘルガとステラが反応したはいいが、声の低さがとても怖い。


「え、えっと……見たところ貴族のお坊ちゃまと、その御一行様……ですよね? だったら他所に売られるくらいなら、と思ったんですけど」


 その言葉に、一瞬誰もが沈黙する。何言ってんだこいつ、という空気が場を支配するが、一般的に見てアイリスの感想は間違いとも言えないのだ。


「……さっきも言ったけど、私らは冒険者だよ。全員ね」

「えぇ……そんな、嘘でしょう!? だってユウリ様の身に付けている物とか、どう見てもただの高級品じゃないですよね!?」


 それなりの期間を後宮で過ごしたからか、アイリスの物を見る眼は確からしく、魔法の武具かどうかは別としてもユウリの身に付けている物が、ただ高いだけの装備ではない事を見抜いていた。


「あ、冒険者ごっこ……じゃない、冒険者もなされている貴族様なのですよね? ね?」

「……まあ当たらずとも遠からず、な気もしなくもないけど。本人の申告では貴族ではないって話だしねぇ。一応真っ当に冒険者してるんだよ。私らは」


 必死なアイリスに対して、どうにも力の抜ける思いをしながら、ヘルガが事実を告げる。それで納得できる程度なら、最初からエルフの美女を引き連れているユウリを標的になどしない。


「えぇ……で、でもでも、それはそれでほら、ユウリ様も男の子ですし。夜の一人寝は、お寂しいのでは?」

「なんでそっちの方向でばかり、ユウリにすり寄ろうとするのかしら?」

「それしか特技と呼べるものがないからですよぅっ。殿方を悦ばせる事だけが唯一の取り柄なんですから!」


 ルナを抱いたまま鋭い視線を向けるステラに対して、アイリスは切々と自身の半生を語り始めた。

 親と死に別れ、亜人である事と幼子であったことで、碌な仕事に就けなかった。奴隷に身をやつして最終的には春を売る以外に、生きる道が無かった事。後に運良く後宮入りし、安定した生活と奴隷と言う身分からも解放された。

 そして王は討たれ、再び奴隷商人に捕まって今に至る。


「三年ほどいい暮らしをさせて貰ったんですけどね。その結果がこれなのです。再び娼婦に戻るのも、なんだか嫌なんですよぅ」

「……気持ちは分からなくもないけど、こっちも事情ってもんがあるんだよ」

「そうね。安易に旅の同行者を増やすのは賛成できないわ。エルフとして」

「じゃあステラ、その取替子のエルフのお嬢ちゃんは、どうする気だい?」

「それは……もちろん見捨てるなんて出来ないわ。エルフの先達としてどこかの同胞の森に預けるまでは、私が面倒を見ます!」

「じゃあじゃあ、ワタシもいいですよね?」

「それとこれとは話が別でしょう?」

「ルナとアイリスを同じ扱いには出来ないけど、見捨てるのも寝覚めが悪いよ?」

「うっ、それもそうなのよね……」

「自慢じゃないですがワタシ、まともな職に就ける自信はこれっぽっちもありません。あと同業者同士でギスギスしてる環境の職場もお断りしたいです!」

「アンタ、結構図太いよねぇ。案外しぶとく生きられるんじゃないのかい?」

「いま図太くならないで、何時なれって言うんです!? こっちは今ここで拾ってもらえるか否かの瀬戸際なんですよ!」


 女三人寄れば姦しい、という諺をユウリが知っているかどうかは別として。かつてゲーム内での女性陣も集まるとこんな感じで五月蠅かったな、などとユウリは遠い目をするのであった。



「で、またこうなるの……?」


 そう言って大きく肩を落としたユウリに微妙な視線を向けたのは、ステラとヘルガであった。

 あれから襲撃場所を離れて徒歩で移動し、日が落ちて来た頃に街道から少し外れて野営をすることになった。ユウリがセーフハウスカードを展開してコテージを出したのを見て、アイリスが大騒ぎしていたが些細な事だ。

 今は夕飯前に戦いの汚れを落とすべく、入浴しようと言うことになったのだが、ある意味いつも通り男女混浴なのである。この世界に来てから地球時間で既にひと月以上が経過しているが、その間の入浴はずっと混浴だったのだから、実に今更だ。


「今まで一緒だったんだから、今更一人二人増えたくらいで騒ぐんじゃないよ。裸なんてそろそろ見飽きた頃だろう?」

「それは……ヘルガさん達は慣れたような気がしなくもないけど、でも!」

「ワタシの事でしたらお気遣いなく! 寧ろお背中を流させてください!」


 嬉々として目を光らせるアイリスに、ユウリは微妙な表情だ。ヘルガは突き放した態度なので、味方として期待できそうにない。ステラはと言うと、今はルナという同族の少女の世話で忙しい。マットもステラに頼まれて、一緒にルナの世話を手伝っている為、ユウリは孤立無援も同然である。


「いっそのこと背中と言わず、全身でも喜んで!」

「い、いいです!」


 ぐいぐい来るアイリスから目を逸らしながら、ユウリは逃げるように浴室へと向かっていった。

 アイリスとしても、ユウリを逃すと言う選択肢はない。亜人に対して偏見のようなものは持っておらず、偉ぶったりもしていない。寧ろヘルガとステラが保護者役になり、マットと同レベルの世話を焼かれているくらいだ。

 つまりアイリスに対して無理な欲求や難題を吹っ掛けて来る可能性は低く、愛妾にしろペットにしろ悪い扱いはされないと踏んでいる。褥に仕えろと言うのならば、喜んで自身の業を披露するつもりだが。

 その上このコテージのような、見た事も聞いたこともない魔法の宝物を所有している事からも、ユウリと一緒ならばそこそこ楽な暮らしをさせて貰えそうだと言う打算も当然あった。

 そんなユウリの後を追ってアイリスも浴室へと向かい、驚愕する。


 濛々と立ち込める湯気の中、とても広い浴室を昼間のように明るく照らす照明。全員で入ってもまだまだ余裕のある大きな浴槽には、獅子の頭をした注ぎ口から、絶えまなくお湯が流れ込んでいて溢れかえっているほどだ。

 不思議な材質で出来た浴槽や備品など、王侯貴族の生活を知るアイリスであっても、全く未知の光景であった。


「な、なんですかこれ……」

「やっぱり最初は、そう言う反応になるもんだよね。これを当たり前のように使い慣れてしまうと、普通の生活って奴が味気なくなっちまうから、困りものなのさ」


 驚愕して動けないアイリスの背中を押すように、ヘルガが浴室に入ってくる。そしてステラとマットに手を繋がれたルナが入ってきて、皆で洗い場の方へと向かう。

 因みにユウリはしっかりと前を隠しているが、それ以外の面々は一切隠す気がないという、色々と刺激の強い光景である。

 そんなユウリはというと、さっさと一人で体を洗い始めており、アイリスは慌てて彼の方へと向かって行った。

 どれほど高度な魔法の宝物を使っていようが関係ない。自分を売り込み気に入ってもらう為には、この程度で怯んではいられないのだ。

 この辺りは流石に後宮に居ただけはあり、贅沢に対する慣れのお陰だろう。すぐさまユウリの背後に回り、彼の手に自分の手をそっと重ねる。


「ご主人様、このアイリスめがお背中をお流し致します。どうぞ楽になさっていてくださいね」

「いっ!?」


 固まってしまったユウリの手から、そっと泡立ったスポンジを取り上げ、アイリスはそのままゆっくりと彼の体を洗い始める。暫くは普通に背中を流しているだけで、漸く手が止まったと思い、ユウリが油断した時だった。

 背中に大きく柔らかな感触が、ダイレクトに伝わって来たのだ。それがゆっくりと背中を上下し、先程までのスポンジのようにユウリの背中を洗い始めたのである。


「どうですかご主人様。この胸で体を洗うの、ワタシを見初めてくださった御方は大層気に入ってくださったんですよ?」


 少年の体を後ろから抱えて拘束するようにアイリスは肌を密着させる。ユウリの掌よりもずっと大きな二つの果実が、石鹸のお陰もあって滑らかに背中を滑っていき、とても子供には見せられない光景が繰り広げられている。

 予想外の出来事で完全に思考停止してしまったユウリを他所に、アイリスは徐々にその行為をエスカレートさせ、熱を帯び始めた少年に手を伸ばそうとした瞬間。


「こんな場所で何やってんだい!」

「ギャンッ」


 目の前が一瞬チカチカと眩むような衝撃がアイリスの脳天に直撃し、直後、細くしなやかな獣のような指が頭を鷲掴みにしてギリギリと締め付けて来た。


「事情が事情だから多少は多めに見るつもりだったけど、流石に見過ごせる範囲じゃないからね!」

「いだだだだだっ、痛いっ、痛いですっ!!」

「痛くしてるんだよ! この万年発情猫!」

「ね、猫は半分だけですから~!」


 ヘルガもちゃんと手加減しているらしく、痛いと喚きながらもアイリスの台詞は結構余裕がある。

 目に余ると判断したヘルガによる鉄拳制裁により、漸くユウリは解放された。ヘルガの方を向こうとすると、先程まで自分の背中を這いまわっていたであろう、アイリスの揺れる双子山とその山頂が視界に入る。パニックになりかけながらも、ユウリはすっかり熱を持って自己主張をしている自身を、慌てて抑え込んで視線を逸らす。

 まだまだユウリにはこの手の光景は早いらしい。今どき珍しいほどに、純情な少年であった。



「……マット、ルナをお願い。ちょっと向こうの方に行ってくるわ」

「はーい」

「……い、いってらっしゃい」


 一連の騒ぎを聞きつけ、ステラがゆらりと立ち上がる。その雰囲気に触らぬ神に祟り無しと悟ったのか、泡だらけになったマットとルナは良いお返事で大人しく彼女を見送るのだった。


久しぶりの濡れ場、もといお風呂シーン。

少々表現がアレだったかもしれませんが、未遂と言うことで一つ御許しを。


なんと次回もお風呂のターンが続きます。

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