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第三百二十三話「聖剣大戦」


 巨躯を誇る、邪王オルゼオンは笑う。自らの力に挑もうとする、無謀なる者を。それは嘲りではなく、歓喜にも似た笑い。

 邪神剣グルテメーツォを振るう度に、何もかもが塵芥の如く消し飛ぶと言うのに、しぶとく生き残ろうと足掻く人々を見て、ただ無慈悲に滅ぼし尽くしたいと言う欲求と、強者と相対する喜びと言う二つの意識がそこに在った。

 だが邪王はそれが自然な事であると、ただ自身の中に浮かび揺れる感情に任せるように、聖なる輝きを宿す者たちと相対する。


「こいつも、僕が戦ってもいいヤツだよね?」


 そう言って剣を構えるユウリに、邪王は問答無用で邪神剣を叩きつける。それをユウリは軽々と己の剣で受け止め、そして当たり前のように弾き返す。

 その驚くべき事実に軽く目を瞠るが、しかしすぐに次の一撃を振り下ろして、少年と何度も剣戟を繰り広げた。あり得ない現実に、更に二つの感情が邪王の中に渦巻く。

 忌々しい邪魔者。挑むべき、超えるべき相手。混乱しそうな感情と思考を捻じ伏せ、邪王オルゼオンはただ剣を振るう。


「我が刃を幾度と無く受けられるとは、実に面白い! さあ、もっと愉しませてみよ!」

「良い訳ないだろ」


 交錯する刃。邪王とユウリは、突如として動けなくなる。何故なら自分たちがぶつかるべき剣が、全く別の剣になっていたのだから。


「ユウ君。それ以上は、流石にアウトだ」

「ク、クロくん!?」


 そこに現れたのは、他の戦場の援軍に向かっていたはずの、クロトその人。左右それぞれに持った剣で、ユウリと邪王オルゼオンの剣を悠々と受け止め、二人の動きを封じているのだ。


「あぅ……だ、駄目だった? でもコイツ、悪魔ディアブロよりもずっと強いよ?」


 そう答えるユウリに、クロトは小さく首を横に振る。


「それでも邪剣の集合体。邪神剣だか何だか知らないが、少なくとも邪王自身は、聖剣によって滅ぼされるべき相手だ」

「えぇえ……」

「だから、援軍を連れてきた」


 そう言ってクロトは、小さく笑う。彼は邪王を弾き飛ばすと、自軍の方へと視線を向ける。ユウリも慌ててそちらへ身体ごと視線を向けると、本来ならまだ他の戦場で戦っているはずの者達が、そこに集っていたのである。


「アルベルト! それに……え、聖剣を持ってるヒトが全員いる!?」

「ユウリ、遅くなってすまない。だがここからは俺たちが引き受ける。勇者として、俺がやるべき事だからだ」


 驚いたことに、そこに居たのは聖剣を振るい、使いこなす者達。それが全員、この場所に集っていたのだ。そしてよく見ると、各戦場へと応援に出ていたプレイヤーたちもが、この場に集っている。


「皆が……一体どうして!?」


 戦力を一極集中させるような、そんな極端な真似をしてまで、何故ここに居るのか。驚きを隠せないのも当然であろう。


「単純な事。敵はもういない。それだけよ」

「まあ、あの大きな影が敵も味方も、誰かれ構わず吞み込んでいたのを見て、慌てて皆の救助に降りてきたのよ」


 レイとネクロ、最強の魔法士である二人が、悪戯っぽく笑った。

 二人の魔法士は、その強大な魔法で邪王オルゼオンを縛り付けており、その動きを一時的に封じている。お陰でゆっくりと会話が出来るのだ。


「アレには参ったよ。何とか被害は抑えたけれど、それでも救えなかった人々は居たからね」

「はい。折角、人々を奇跡が守ってくれても、あれではどうしようもなく……己の力不足を痛感しました」


 ベリエスとユナもここまで来ており、残された敵はすっかり数を減らした悪魔ディアブロと、あの邪王を名乗る存在だけなのだと言う。


「とまあ、いよいよこの戦いも、大詰めを迎えたってことだよ。だから俺たちのやるべき事は彼らの援護と、後方の人々を護る事だ」

「……そっか。うん。じゃあ僕も下がるね」

「ああ、折角の強敵を前に悪いけれど、花道は彼らに譲ってやってくれ」


 素直に引き下がったユウリに、クロトも苦笑を浮かべた。

 だが道を譲られた本人たちにとっては、割とたまったものではない。それでもこの世界では、非常に高い実力を誇る者たちであり、この戦いにおける切り札的存在なのだ。


「……まあ、俺は全然かまわないと言うか、使命なので」

「フンッ、冥王が慌てて連れて来るから何事かと思えば、案の定バケモノの相手と来たか!」


 聖剣ジョワユーズを探し出した、勇者アルベルト。

 聖剣カーテナ、そして死剣ミュルグレスの二振りを操る、魔王バルバシム。


「……我らは今、妖魔王との一戦を終えて、あまり時間が経っていないんだがね」

「ほんっと、人使いが荒すぎるぜ。クロトさんよぉ!?」

「ラルド君達と一緒に戦えるのはいいんですけど、この件については、後でしっかりと抗議しますからね!?」

「自分に異論はありません。聖剣を与えられた者として、この役目を全うします」


 聖剣デュランダルの繰り手、テオドール。

 聖剣アスカロンの担い手、ラルド。

 聖剣の性質を隠し持つ、星剣シューティングスターを振るうアルナ。

 氷聖剣アルマスに選ばれた、エイダ。


「妖魔王と戦ってすぐ、ってのは我々も同じなんだよなぁ」

「まあ仕方があるまい。アレを見た上で、全ての聖剣が必要だと言われて、断れる道理もなかろう」


 炎聖剣フロベージュを与えられし、カーチス。

 清槍グランテピエを携える、ウルツ


「あー、まあ。有難いんだけどな。疲れてる奴らも居るのに、大丈夫なのか?」

「あらあら。ここまでお膳立てをされたら娘たちの為にも、お母さんも頑張らなきゃって思うわ」


 そして聖剣オートクレールを、無理矢理渡されたクレスト。

 想聖剣グロリユーズを、難なく使いこなすイリス。


 例外があるとすれば、この場には更に高位の聖剣であるアロンダイトの存在を隠している、ベリエスも居る。


「聖剣使いの皆は邪王オルゼオンと、邪神剣グルテメーツォの対処に集中してくれ。残った悪魔掃除と、君たちへのサポートは俺たちに任せろ」

「ん! じゃあ僕は早速、残った悪魔の方に行ってきまーす!」


 クロトの言葉が言い終わると同時に、ユウリは全力で突っ走っていく。その速さに誰も反応できず、ただ見送るしか出来なかった。


「……いいの? クロトちゃん」


 勢いよく走り去っていったユウリを見て、ネクロが呆れたようにクロトの方に視線を向ける。


「もう、いいです。どうせ味方は殆ど引き上げさせましたし、戦場には残ってる敵も少ない。不穏な動きが無いよう、天空城にも見張ってもらってます」

「それで私達の分担は、さっきの通りでいいのね?」

「ええ。治癒回復はユナ君、魔法への対処はレイ君で。ネクロさんには邪属性の相殺を。ベリエス卿は戦いの衝撃波から、後方の自軍を守ってください。俺は全体を見ながら、皆の補助をします」


 既に一人が突っ走ってしまっているのが、前衛職で戦うことしか出来ないユウリについては、クロトも余り気にしていない。この場に残された面々が、聖剣使い達の戦いを支えればいいだけなのだ。

 本来ならプレイヤーが戦っても良い相手なのだが、それでも誰か一人で事足りてしまうだろう。だったら誰かが目立つよりも、現地の聖剣使いを全員揃えた上で、自分たちはサポートに徹することでこちらに焦点が当たらないように動いた方が、双方にとっても都合がいい。

 だからこそこの世界の人々による、最終決戦の舞台は整った。


「それじゃあそろそろ、相手さんも自由になる頃だし、皆気を付けてね」


 ネクロの言葉と同時に、自身を縛り付けていた強大な魔法を振りほどき、再び動き出す邪王の姿があった。それを見て、聖剣使い達は小さく息を呑む。

 これで全てが終わるのだと、己に言い聞かせ、それぞれが聖剣を構えた。



 風が悲鳴を上げるように、邪神剣が振り下ろされる。邪王の持つ巨体から繰り出される攻撃を巧みに回避し、そして防ぎながら、聖剣使い達は邪王へと切り込んでいく。


「流石にあの攻撃は、一人で受け止めるのはしんどいから、避ける方が楽じゃな!」

「ええ。こちらの氷の壁でも、とても受けられるような威力ではありません」


 このメンバーの中で最も防御を得意とし、高い防御系スキルを持つウルツでさえ、邪王の攻撃は真正面から受け止めるのは厳しい。寧ろ後ろを気にせずに回避しても良いのなら、その方が体力的にもマシなのだ。

 同様にエイダも相手の動きを少しでも鈍らせられないかと、相手の手足を凍らせようと試みたりしているが、殆ど効果はないと言ってもよかった。結局回避に専念せざるを得ず、苦しい戦いを強いられている。


「これだけの聖剣とその使い手が揃い、勇者である自分が居てもまともに戦う事が難しいなんて……なんと恐ろしい敵だろう」

「全く同感だな。こんだけ聖剣があっても碌にダメージが通らないってんだから、邪王ってのは厄介過ぎるだろ!?」


 幾度も足元を斬りつけ、しかし全く意に介した様子を見せない邪王に対し、アルベルトとラルドはその頑強さに辟易している。


「だああっ! 前に戦った悪魔ディアブロみたいに面倒な野郎だな、こいつは!?」

「斬った端から、あっという間に再生するなんて、流石に厄介な相手ね」

「だったらぶん殴ってぶっ叩いて、徹底的に叩き潰せばいいんだよ! さっさと倒れな!!」


 漸く攻撃が届くようになったと、クレストとイリス、更に後ろに退かずに戦い続けているヘルガが暴れていた。他の妖魔王と対峙した面々と違い、いきなりこの邪王と戦う羽目になったからか、他の聖剣使い達よりも多少は士気が高い。

 流石はあのユウリと一緒にいる【ユグドラシル】の面々だと、誰もが呆れている程度には非常に好戦的である。


「チッ、勘の良い」


 またこの中では唯一自力で飛行が可能な魔霊であるバルバシムは、空から死角へと襲い掛かるも邪神剣を持たない方の腕に阻まれ、なかなか攻撃が出来ずにいる。


「後ろから強力な魔法の支援を貰えるのは助かるが、しかしそれでもまだ届かないのだから、邪王と名乗るだけの事はあるか」

「全くですよ! しかも私達は妖魔王を倒したばっかりだっていうのに!」

「同感だ!」


 カーチスとアルナは軽々と相手の腕や足を駆けのぼり、胴体へと切り込んでいくが、やはり与えられる傷は小さなもの。

 しかも相手は傷がすぐに再生し、カーチスの持つ炎聖剣フロベージュで斬りつけ、傷口を焼いていてさえ、難なく再生してしまうのだから厄介この上ないだろう。


「これだけ体格差があると、目くらましも殆ど意味がない。私が使える攻撃魔法では、今と同様に大したダメージを与えられない。さて、どうしたものか……?」


 自身が使える手札を整理しながら、テオドールは一歩引いた位置で邪王オルゼオンを観察し、突破口を見極めようとしていた。そうしなければならない程に相手は強大であり、最悪の難敵であることは間違いない。

 そもそもこれだけの聖剣で攻撃されていても、まともにダメージを与えられず、与えた小さな傷も即座に回復できるほどに、強い生命力も併せ持っているのだ。即座にまともな正攻法では勝てないと判断したからこそ、他の者たちよりも後ろに下がり、攻略法を考えているのだが、そう簡単に思いつくはずもなく。

 何もかもが規格外であり、更に後ろにクロト達が控えていないのであれば、全軍で挑むしかないとさえ思えるほどの難敵なのである。


 そんな彼らの苦戦する様を見ながら、ユナは己に出来る事が無いかを思案する。無論、その片手間で次々と人々を癒し、また前線の聖剣使い達が傷ついたりしていないか、確認している程度にはちゃんとやるべき事をやっているのだから、なかなか器用な人物であろう。


「何かわたくしに出来る事……あ、そうです!」

「駄目だぞ」


 今の自分が彼らに出来る支援をと、良い事を思いついたとばかりに手を叩いたユナを見て、即座にクロトが釘を刺した。


「えっと……」

「まず何をしようとしたか、教えてくれるかな。ユナ君?」

「聖なる力を強化するため、ちょっとした結界でも張ろうかな……って」


 クロトからの視線が痛い。ついさっき、強大な加護を人類側全体に与えたこともあって、警戒されているのだ。自業自得である。


「なるほど。相手の邪属性を弱めつつ、対である聖属性を強めることで、聖剣も一緒に強化する、と」

「そ、そうそう! それです!」

「だからと言って『サンクチュアリ』は駄目です。ここはもう数ランクさげて、『ホーリーフィールド』くらいが妥当でしょう」

「あ、はい。そうします」


 有無を言わせぬクロトの迫力に、ユナもただ素直に頷くしかない。そして彼女は祈りの言葉を紡ぎだす。

 それはすぐに力となって解放され、周囲を塗り替えるが如く、その効果を現した。


「ぬっ、これは……小賢しい真似を!」


 広大な戦場の、彼らが戦っている範囲内とはいえ、邪王の力を弱める聖なる空間が顕現する。目に見えないものでありながら、それは確かに聖剣使い達に助力し、そして邪王や邪神剣の力を削いでいくのだ。


「その程度の奇跡、邪王に使えぬと思うたか!!」


 吐き捨てるように、邪王オルゼオンは邪神への祈りの言葉を紡ぐ。それは先程の『ホーリーフィールド』の対となる、『イービルフィールド』と言う魔法。

 その奇跡は互いに打ち消し合う関係ではあるのだが、相手の力を上回っていれば、一方的に打ち消すことも不可能ではない。そして結果は火を見るよりも明らかであった。


「馬鹿な!? ……あれは、聖エストラーテ王国の聖女? よもやこのような場所まで来て、このオルゼオンの邪魔をしてくるとは……!」


 最悪でも互いに打ち消し合えれば、問題ないとさえ考えていた邪王オルゼオンは、己の願った奇跡が一方的に打ち負けた事に驚愕する。そして自身の奇跡をも超える力の出所を探れば、そこに見えたのはかつて自身の軍が滅ぼしかけた国の聖女の姿。

 思わぬ仇敵との再会に、オルゼオンも思わず驚愕するほかない。だが驚く余裕など、最早与えてはもらえない事にも、すぐに気付く。


 水を得た魚のように、聖剣使い達の攻撃が激しくなってきたのだ。

 正しくはそうではなく、元々弾くことが出来ていた攻撃を弾くことも出来なくなり、より深い傷を身体に刻まれるようになってしまったのである。しかも再生力も大きく落ちており、徐々に押され始めたのだ。


「チィッ!? 悪魔ディアブロの肉体であることが、裏目に出たか!」


 自身の再生力を封じているのは、間違いなく聖なる力によるもの。そして今の邪王の肉体は悪魔と融合した物が、更に邪神剣の力によって死を食らったことで強化されているのだ。

 その力を抑え込むほどの、強力な聖なる力で包まれては、幾ら強化したところで意味を成さなくなる。

 邪神剣を振るい、暴れ、抵抗して見せるものの、それでも自らが弱っていくことは止められない。そも邪神剣そのものが弱っているのだから、邪神剣によって邪王となったオルゼオンが影響を受けないはずも無いのだ。


「まさかここに来て、邪神剣グルテメーツォの力までもが封じられるなど……!? あってはならん! そのような事、認めてはならぬ!!」


 邪王が吼え、邪神剣を振り上げる。そのただならぬ様子を見て、誰もが次の一撃が非常に危険なものであることを悟った。


「全員気を付けろ!? あの邪気は普通じゃない!!」


 クレストが叫ぶ。禍々しい光を纏った邪神剣は、誰の目に見ても危険な物であるとすぐに理解出来、そしてその力が解放されればこの辺り一帯が吹き飛んでしまうであろう事さえも、易々と理解させた。

 それだけの力を内包し、そして叩きつけられようとしているのだ。

 どうにかそれを阻止しようと、聖剣使い達は攻撃し続けているものの体格差もあり、邪王の態勢を崩すことも出来ずにいた。


「……あれ、ちょっと不味いわよね!?」

「どうするの、クロトさん?」

「間に合わん、私の盾で防ごう!」


 邪王の動きを察知して、プレイヤーたちも動こうとした、次の瞬間。



「邪神剣は、別にいいんだよね?」


 宙を舞うのは、邪神剣と呼ばれるモノと、それを掴む腕。それでも放たれようとした邪神剣に溜め込まれた力は、それを打ち消すように、無数の剣閃によって剣身ごと砕かれ、切り刻まれた。


「後より放ち、断ち切る光……リタリエーター」


 ユウリの放った一撃は、ただ相手の腕を落としただけではない。放たれる攻撃に対する、カウンター専用スキルでもある、彼の持つ神剣、光神輝剣フラガラッハのもう一つの固有ウェポンスキルだったのだ。


「……馬鹿な」

「今だっ、全員で奴を仕留めるぞ!」


 唐突に片腕を奪われ、邪神剣ごと破壊された邪王が茫然とする中、クレストが好機だと叫んだ。

 その声に合わせるかのように、それぞれの聖剣は輝きを増し、邪王オルゼオンを滅ぼすべく力を解放する。


 それは聖剣がその役目を果たし、全ての妖魔王を滅ぼした。奇跡のような光景だった。


な、長い……長すぎる。でもなんとか決着。やっと戦が終わった……のか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・・・あ、後書きのそれは! 何、それとはなんなのだ!? 孔明! いわゆるフr・・・ うっ ドサッ どうした !? 何があった!
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