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第三百十六話「加護」


 四体存在すると言う妖魔王の一角、オークのオルグーンが斃れた。本来ならばその勝利に沸き上がり、勢い付くもの。しかしその情報は思ったよりも周囲に伝わることはなく、ただ目の前の死者の群れへの恐怖と興味とで塗り潰されていく。


「……ヴォルデス王国での、妖魔帝国軍との戦いでも見たけれど、相変わらず凄いな。これは……」

「戦場ゆえにどこもかしこも死体だらけ。素材に困らんのは理解するが、それでも何もかもがおかしかろう!?」


 戦場を埋め尽くすアンデッド。だが彼らは生者である自分たちには興味を向けず、背を向けたまま妖魔帝国と睨み合っている。それは昼夜を問わず戦える相手を牽制するためのものであり、人々がせめて夜の間はゆっくりと体を休められるようにとの気遣いでもあった。 本格的に戦が始まる前から、同じ事は続いているのだが、流石に本格的な戦となった今、その規模は段違いだと言える。これまでの自分たちを護る壁は、あくまでも手加減していたものなのだと知り、誰もが【冥王】の恐ろしさと味方である頼もしさを感じていた。




「で、魔王ちゃんが邪槍アラドヴァルを破壊しようとしたんだけれど、その前に消えちゃったのよ」

「……なるほど。で、この情報は相手に、既に伝わっていると思うか?」

「ええ。こちらに攻め入っていた妖魔帝国軍は一匹残らず排除し、降伏した人々も捕虜として確保してあるはずよ。でも邪槍が消えてしまった以上、オークの妖魔王の死は、向こうには筒抜けであると考えた方がいいと思うわ」


 そう問うのはヴォルデスの王。問われたネクロは小さく頷き返す。


 ネクロはあの後すぐに天空城に戻り、報告ついでに広大過ぎる戦場をカバーするため、クロトに手伝って貰ってから仕事が終わったので別れた。

 その後は頑張った人々に食事を届けたりしようかと、ぼんやりと考えていたところへ、各国の王族たちの会議が目に入り、一応の報告をと思い混ざってしまったことで、抜け出せなくなってしまったのである。

 因みに魔王国の代表である魔王バルバシム本人は、未だ地上で戦場の後始末に忙しい。なので今はネクロが魔王国の代表扱いなのだ。トワイア魔王国の高官たちは別にこの場にいるが、この会議に出席するに相応しい立場の人物となると、限られてくるので仕方がない。


 【冥王】の反応に、各国の代表者たちが渋い顔をするのは仕方がない。妖魔王討伐と言う大きな目標を達成することが出来たはいいが、それでもまた最初の一匹だけ。それも比較的層の薄いオークの軍勢だったのだ。

 何故ならオーク達は先のヴォルデス王国との戦いで消耗しており、また陽動の為に北に残っていたこともあって、この戦に参戦できていない。途中妖魔王の力で数をある程度回復させているものの、それでも他と比べると見劣りするのは事実であった。

 だからこそガリオン王国や聖庁の軍が前に出てきていたし、支配下に置いた他の国々の兵も比較的多かったのだ


「妖魔も王級の、オークキングが少なからず残っている状況では、相手の統率が乱れるとは考えづらい。何より悪魔ディアブロが残っていて、相手が動揺するとも思えぬ」

「幸い相手が真正面から、力押しでこちらに攻めてきてくれているのと、天空城からの支援のお陰で、魔法もスキルも使えない一般兵でも、まだ対処のしようがある。ただ今後、どのように戦局が響くかは未知数、と言ったところか……」

「最悪、妖魔王達が後ろに引き籠り、消耗戦になる可能性も捨てきれないのが、一番厄介なところか……これは仕方がないのう」


 アトラシア皇帝、セタジキス王、そしてルグト女王がそれぞれ、今後の予想を並べる。

 相手が強大であり、相応以上の知性を有している事が理解出来ているからこそ、自分たちならば選択し得る可能性を考え、頭が痛くなるのであろう。

 しかしあの状況で、勇者が妖魔王を討たない選択肢はない。寧ろ千載一遇の好機でしかなかった。ここで妖魔王の一体を斃せたと言う実績は、間違いなく人類側にとってもプラスに働くのだ。

 決して打ち倒す事の出来ない災厄などではない、と示せた事それ自体が、彼らの戦意高揚に繋がってくれることだろう。そう期待するだけの戦果だったのだから。



 それから数日、戦況は膠着したまま。終わりこそ見えてきつつあるが、王達が懸念した通りに消耗戦となっており、勇者たちの勝利で高めた戦意も、すっかり萎えつつあった。

 その頃には上位種と呼ばれる妖魔が前線に出てきており、特にスキルや魔法を使えぬ一般兵を苦しめている状況。

 そんな中でユウリとクロトの二名が悪魔ディアブロの暗躍に気付き、プレイヤーたちがそれぞれ、自分たちの縁深い者たちのもとへ駆けつけるべく動き出していた。

 だからこそ、予想外の事態と言うものが発生する。プレイヤーと呼ばれる超常の存在が動く。それは常に、関わる者たちにとって想定以上の成果を生み出し、良くも悪くも世界へ多大な影響を及ぼすのである。


「……ユナちゃん。やらかしたわね」


 目を逸らし、頭を抱えながら、とりあえずネクロは見ないフリをする事に決めた。やってしまったものは仕方がない。ユナが放ったのは『アイン・ソフ・オウル』と言う奇跡。神聖魔法の中でも『サンクチュアリ』に匹敵する、最高位の魔法の一つ。

 味方には回復、各種バフを。敵側には攻撃と各種デバフを付与すると言う、戦況を仕切り直したりするのに使われる魔法なのだ。本来なら世界級のモンスターとの戦いで使用されることを前提としている大魔法であり、こんな状況で使うべき奇跡ではない。

 それをやらかしたのである。しかも既に使った後なのだ、スルーする以外にないのも当然であろう。


「アタシも妖魔王との戦いで、皆に力を貸したんだし、これくらいは見て見ぬフリをしなきゃ」


 後でユナがクロトにあれこれと叱られる未来は見えるが、しかしそれは本人たちに任せるしかないとネクロは気楽に構える。

 そもそもユナの行動は、決して悪いとまで言えるものではないだろう。悪化の一途を辿る戦場に、人々の心を纏め上げるため、落ちた士気を再び上げるための、有効な一押しになりえるのだ。


 実際、彼女が起こした奇跡の後、人々は自分たちを救った「神々の加護」に感謝し、そして折れかけた心をも修復している。絶対に負けられないと再び闘志を燃やし、立ち上がっているのだ。ならばこのくらいは都合のいい奇跡として、見逃すのは十分アリだろう。

 事実、クロトが飛んでこないところを見るに、この世界の神々的にもセーフだったようなのだから、結果オーライだと考えている。



 天から注ぐ優しき光。暖かい太陽のようでもあり、懐かしき愛する人の腕の中のようでもあり、人々は確かに神々の加護を感じた。この局面でこれだけの奇跡が起きたと言う事は、きっとこの戦いも終わりが近いのだと誰もが確信している。

 この光は特に一部の敵に対して強い効果を発揮しているらしく、オーガの上位種が次々に苦しみ出したと思ったら、その正体が悪魔である事が判明したのだ。

 そして相手が悪魔であるのなら、一切遠慮をする必要が無いと暴れだす者が居た。


「……まあ、いいんだけれどね。悪魔ディアブロの化けの皮も、剥がれたようだし!」


 そう言ってベリエス卿は愛馬グルファクシで戦場を駆けながら、オーガの上位種に化けて紛れていた悪魔を、手にした馬上槍で刺し貫く。それは有無を言わさぬほどの威力であり、まるで相手を意に介さないほどに圧倒的な実力は、味方に強い安心感を与えている。

 悪魔の数は想像以上に多く、まだまだ数えられないほど残っていたのかと、少々呆れ気味ですらある。だが逆を言えばこの戦場で、加減し、自重して戦う必要が無い相手でもあるのだ。


「ハッ、随分と強いなっ。ベリエス卿!」

「うむ。まさかここまでの戦士が、遥か北の大国に居るとは知らなんだ。流石は妖魔帝国軍を退けたと言う、国の騎士だわい」


 共に戦うカーチス卿とウルツ卿が、オーガたちを薙ぎ払いながら、ついて来ているのは少々驚きであった。しかし彼らは元々ユウリによってスキルの手ほどきを受けており、十分なほどに習熟している。

 そこへ聖剣と聖槍を携え、先程の光による強化バフも受けた上でその威力を遺憾なく発揮しているのだから、このくらいは出来ても不思議ではない。

 そもそも二人が乗っている馬も、ただの軍馬に過ぎないのだが、先程の光のお陰でかなりパワーアップしているらしく、普通のオーガくらいなら蹴散らしているので、その能力の上り幅はかなりおかしなことになっている。

 これによりかなり楽に敵陣を薙ぎ倒すことに成功しており、味方もそれに続いて、一転攻勢の様相となっていた。そんな自軍の状況に、慌てる者が居ないわけではなかったが。


「あんまり前に、出過ぎないで欲しいんですけど!?」


 慌てて三人の近くまで飛んできたカペルが、悲鳴を上げるような声で叫ぶ。先程から妖魔の上位種を倒すのに三人が暴れ過ぎるせいもあって、奥の敵を広範囲の魔法で殲滅していたカペルとしては、味方を巻き込まないようにする為に非常に気を使っているのだ。


「お主は……ああ、レイメシアの魔法士殿か。敵陣を纏めて薙ぎ払うとは、大したもんじゃな」

「魔物をどんどん吹っ飛ばしてて、魔法ってのは流石に凄いな。貴殿のお陰で心強いよ」

「いやぁ、それほどでも……じゃなくて! 前に出過ぎなんですよ! 巻き込みそうになるから、程々にして欲しいんですってば!?」


 純粋に魔族の少年を賞賛する二人の騎士に、思いがけず褒められたカペルも胸を張りそうになるが、すぐに思い直して彼が前に出過ぎであると指摘した。

 余り無秩序に突っ込まれてしまうと、非常に困るのも当然なのである。カペル自身も先程の光の影響で、彼の使う魔法も強化されているのだから。

 その事を必死に説明している間も、騎士たちは群がる魔物を、カペルが狙われないように気遣いながら薙ぎ払っていく。


「大丈夫大丈夫。君くらいの魔法なら、私はどれだけ巻き込まれても平気だから、どんどん魔物をやっつけて欲しいな。出来れば悪魔ごと」

「本気でぶっ飛ばしますよ!?」


 ベリエス卿のふざけた一言に、流石のカペルも顔を真っ赤にして怒り出す。だがベリエス卿本人は、割と本気なのだ。自身もグルファクシも、あの程度の攻撃ならば受けるダメージよりも、回復する速度の方が上回る。それを計算に入れての提案なのだ。


「うん。問題ないから、私も遠慮なく突っ込むよ」

「馬鹿なんですか貴方!? 頭の中身まで筋肉なんですか!?」


 あまりにも気楽に、そして当然のように言い放つベリエス卿に対して、空中で駄々を捏ねる子供のように振舞うカペルは、ただただ可愛らしいだけである。これが殺伐とした戦場でなければ、まだよかったのだろうが。

 傍で聞いているカーチス卿とウルツ卿は、互いに肩を竦めながら、しかし自分たちは巻き込まれないようしようと、互いに視線で確認し合う程度には良識がある。おかしいのはベリエス卿だけなのだ。


「酷いな。ネクロ殿やレイ陛下が放つ魔法ならともかく、君が先程から放っている魔法くらいなら、すぐに回復できるという意味なのだけれど」


 ベリエス卿は苦笑しているが、それがますますカペルのプライドを傷つけていると言う事には気付いていない。その姿こそ少年ではあるが、カペルはネスティーナと並んで、この世界でも最高峰の魔法士の一人なのだと言う事実を知らないのだ。

 実は本人も特に自覚していないが、この戦いに参加している魔法士が聞いたら、憤慨する事間違いなしである。



「……はぁ。手間のかかる子」


 浅黒い肌に黒く揺れる長い髪、紫色の瞳が地上を睥睨する。ダークエルフの女が遥か上空から見下ろしている事を、誰も気づいてはいなかった。

 一連のやり取りを見ていたレイは、どうやってベリエス卿に現状を説明し、弟子であり、可愛い我が子でもあるカペルを宥めようかと、少しだけ思案する。しかしすぐに考える事を中断し、彼女は彼らに向かってくる気配に対して注視するのであった。


こうして時間は現在に戻る。

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