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第三百十五話「冥王」


 妖魔王オルグーンは怒り狂い、邪槍アラドヴァルを振るう。それを三振りの聖剣が防ぎ、弾き、そして返す刃で確実に自身を傷付けてくる。

 それは強固なはずの悪魔の鎧と、不死の魔獣の皮を纏っている上で、あり得ないはずの事が起きているのだ。

 勇者と魔王の二人は今、【冥王】からの魔法によって、更なる強化を得ている。その上で彼らがスキルによる攻撃を繰り出すことで、強固な守りを突破してくるようになったのだ。


「ええい、忌々しい! 『我が神よ、我に加護の鎧を与えよ! イービル・アーマー』!」


 オルグーンは慌てて守りの奇跡を邪神に願い、更に気功を使い更なる守りを固める。

 これにより再びアルベルトとバルバシムの攻撃が通りづらくなり、振り出しに戻った。かのように見えた。


「あら、それはちょっと良くないわね。それなら……」


 上空から彼らの戦いを見ていたネクロは、すぐに次の魔法を唱え、発動させる。

 勇者アルベルトと魔王バルバシムに、更なる強化魔法の重ね掛けが行われ、それは当然のようにこの世界の人々が使える、魔法の限界を超えた代物である。


「……これは!?」

「考えるな勇者! あの馬鹿の気紛れに、いちいち驚いている場合か!!」

「は、はい!」


 再び何らかの魔法がその身に宿り、そして漲る力を遠慮なく妖魔王へと叩きつけていく。その力に驚きつつも、ここまでして漸く勝負になる世界であることを、二人は妖魔王と言う存在の強大さを改めて噛み締めている。

 特に先代の勇者ローヴィスと共に一度は妖魔王を斃した経験のあるバルバシムは、今目の前にいる妖魔王オルグーンの強さが、かつて戦った相手よりも遥かに強力であることに、強い危機感を抱いていた。

 一度は当時の邪剣も叩き折っており、だからこそ負けるはずがないとさえ、絶対に近い自信があったのだ。その予想を遥かに上回って来たオルグーンに、バルバシムは相手がかつてない程の強敵であることを認めざるを得ない。


「腹立たしいが、アレの支援なくばあの化け物に傷を負わせるのも、一筋縄ではいかないのは事実!」

「ええ。前から纏っていたあの獣の皮もそうですが、悪魔の鎧も強固で本当に厄介です」

「しかもそれらの防御力は、魔法やスキルによって何倍にもなる。ここまで防御を固めた妖魔王など、ローヴィスと共に戦った時には存在しなかった」


 だからこそ厄介だと、バルバシムは言いながら歯軋りをする。この状況では仮にオルグーンの持つ邪槍アラドヴァルを破壊することに成功したとしても、オルグーン自身にトドメを刺すことは不可能であろう。

 そもそも聖剣や邪剣、魔剣といった武具の殆どは自己修復能力を持ち、例え破壊したところで時間をかけて再生する力を持っている。即座に戻ることはなくとも、オルグーンを倒しきれずに取り逃がせば、邪槍が復活するまで地下に潜られてしまうことは想像に容易い。

 そうなれば打つ手はなく、また他の妖魔王も同様であろうことを考えると、勝利すること自体が不可能に近くなるだろう。

 だからこそ今ここで、超越した力を持つ【冥王】からの魔法の支援はありがたく、今ここで妖魔王オルグーンを斃す事ができる、千載一遇の機会なのだ。


「ええい、こそこそと魔法を使って、我の邪魔をする卑怯者はどこだ!? 恥を知れ!!」


 自身を強化した分だけ、彼らを強化する魔法を飛ばしてくる。そんな面倒な相手から抹殺すべきだと、オルグーンは考えて挑発する。勿論その程度で出てくるなどとは思ってはおらず、苛立ちを吐き出すための罵声でしかないのだが、これが意外な結果を生んだ。


「……あら。卑怯者とまで言われたんじゃ、姿くらい見せなきゃ駄目かしら?」


 刃を交える双方の間に、ふわりと降り立ったネクロ。その予想外の動きに、誰もが動きを止めて固まった。


「はじめまして、妖魔王。アタシがアルちゃんと魔王ちゃんのサポートをしていた、ネクロ・ノミコンよ」


 優雅な、気品ある礼を妖魔王に向ける。その姿はおどろおどろしい、いかにも悪者ですといったローブや装飾品を纏い、強大な力を持っているであろう杖を持つ、美しい人間の男。

 だがそれを額面通りに受け取れるはずもなく、その内側にある強大な力を感じ取ったオルグーンは、初めて恐怖というものを感じた。


「ネクロ殿! 姿を見せてよろしいのですか!?」


 プレイヤーたちの役割、目的を聞かされているアルベルトは、この予想外の行動に驚くしかない。彼らは妖魔王との戦いには一切関与せず、この世界の、聖剣に選ばれた戦士たちによって、討ち取られるべきであるとしていたからだ。


「まあ、ここでやっつけちゃえば大丈夫じゃないかしら? アルちゃんも魔王ちゃんも、逃がすつもりはないんでしょう?」


 そんな風に意地悪そうな笑みを浮かべて、ネクロは問題ないとさえ笑う。彼がそう言うということは、それは恐らく絶対である。かの【冥王】がそう決めた以上、あの妖魔王は逃げることさえ出来なくなったのだと。


「それで、貴様はどうするつもりなのだ?」

「そりゃあ、皆の応援……かしら?」

「……はぁ。わかったから、さっさと下がれ。貴様がいると戦えん」


 あまりにも気の抜けた答えに、バルバシムは大きく息を吐きながら、邪魔にならないところに移動するようネクロに指示する。そしてネクロ本人も素直に従い、軽い足取りでリアとキッシュのいる場所まで下がっていった。


「ったく。まあアイツが直接応援とやらをするのなら、この勝負は不本意ながら、我らの勝ちだ。さっさと終わらせるぞ、勇者!」

「ええ。頼もしい援軍がいる以上、下手に手出しをされない内に、我らの目的を達成してしまいましょう!」


 最早消化試合だとでも言わんばかりのバルバシムに、アルベルトも気合を入れなおす。ネクロが彼らの後ろに控えているということは、彼らの仲間を、この場にいる兵たちを守ってくれるという事と同義だと捉えているのだ。

 そして仮に妖魔王が逃げの一手を打とうとしても、確実にそれを阻むであろうことは想像に難くない。


「少しばかり力のある者が来たからと、調子に乗るなよ下等生物ども!!」


 吼えるように、オルグーンは真っすぐ、二人へと突撃してくる。邪槍には毒気を纏った炎と、青白いスキルの光が宿っている。


「調子に乗る気はないが、貴様に負けぬ理由が来たのは事実。そろそろ終わりにするぞ!」


 手にした二振りの聖剣に青白い輝きを宿し、バルバシムが応戦する。突き出された槍を、正面から叩き伏せるように、剣を振り下ろした。

 大地を大きく抉り、小さなクレーターが出来る。その隙を突いて、アルベルトが妖魔王に肉薄する。


「もらったっ、ディバインブレード!」


 聖なる光を宿した聖剣ジョワユーズが、オルグーンの肉体を捕らえる。

 これまでなら簡単に通るはずのなかった刃が、魔獣の衣を裂き、黒い鎧を貫いて、その下にある肉体を深々と切り裂いていく。


「ぐぁあああああっ!? この我に、触れるな下郎が!!!」


 乱暴に腕を振り、アルベルトを弾き飛ばす。しかし素早く後ろに跳ぶことで、勢いを殺した勇者は殆どダメージを受けていない。

 そして織り込み済みだと言わんばかりに、バルバシムがすぐさま追撃に入る。


「聖剣カーテナよ、最期の慈悲を与えてやれっ。ミセリコルデ!」


 魔王バルバシムが放った一撃は、妖魔王の首を捕らえようとするも、オルグーンはそれを強引に体ごとぶつけて勢いを殺す。肩に深々と刃が刺さるが、お構いなしに邪槍を振るおうと、腕を振り上げた瞬間だった。


「させるかっ……邪封剣!」


 邪の眷属を封じる光の刃が勇者の剣から伸び、オルグーンの体を貫く。大きなダメージこそないが、それは確かに妖魔王の力を削ぎ、その動きを阻害する力があった。


「おのれ……!?」

「よくやったぞ、勇者アルベルト。オーク如きに安息など不要だが、昏き死をくれてやる。グリムリーパー・サリエル!」


 死剣ミュルグレスより放たれた一撃は、今度こそ妖魔王の首に深々と切り裂く。そのまま、オルグーンの首を刎ねるかと思われた、次の瞬間。


「っ……この程度で死ぬほど、万物の支配者である妖魔王は容易くないわぁ!!」

「!?」


 強引に、首の筋肉だけでその刃の進行を遮り、踏み止まる姿は異常の一言であった。槍を振りかざし、アルベルトへと炎を放つ。それにより僅かに緩んだ邪封剣の呪縛から抜け出し、密着しているバルバシムを殴り飛ばした。


「ブフゥーッ、フゥーッ! 殺すっ、殺すっ、殺してやるっ!」


 怒りと出血で目を真っ赤に染め上げるオルグーン。流石のバルバシムも正面から、妖魔王の剛腕に殴打されては大きなダメージを負うのは必然であった。


「忌々しい……まだ食らいつくかっ」


 吼える妖魔王の首と肩に、二振りの聖剣が青白い光を宿したまま、突き刺さっている。決して逃がすまいとするのは、聖剣の意思ゆえなのか。

 ならば先に邪魔者を滅ぼさんと、オルグーンは邪槍アラドヴァルを振り上げ、倒れるバルバシムに炎を放とうとした時だった。


「させるかっ」


 邪槍の炎を受けたはずのアルベルトが、いつの間にかバルバシムのもとへ駆け寄り、聖剣を構えて迫りくる炎を防ぐ。

 そこにはまるで盾のような、光の壁が現れて炎を遮り、彼らを守る。


「ちぃっ、無駄なことを!?」

「この聖盾の型ならば、邪剣の力を防ぎきれるっ。破邪のオーラを舐めないで貰おう!」

「神の駒風情が、調子に乗るなぁ!!」


 邪槍アラドヴァルを振り上げ、オルグーンはアルベルトへと突撃する。禍々しい毒炎を纏わせ、力任せに勇者に叩きつけようと迫った。


「諸共朽ち果てろ!!」

「破邪のオーラが究極の一……ブレイブストライク!」


 オルグーンの一撃に合わせ、アルベルトが光の盾を解除し、その光をそのまま聖剣に纏わせる。邪を封じ、邪を退け、邪を断ち切る。それは邪槍アラドヴァルの一撃すらも相殺し、妖魔王を諸共に切り裂くだけの力があった。

 だがそれでも、妖魔王の命を奪うには足りず。もう片方の肩を切り裂き、しかしそれを強引に邪槍によって弾き返したのだ。それでもオルグーンが負った傷は深く、最早息も絶え絶えといった様子だ。



「ぐぅううっ、貴様ら何をしている! 貴様らの支配者を守らんか!!」

「なっ、逃がすか!」


 このままでは負けると判断したオルグーンは、配下のオークたちに命じる。すると人々と戦っていたオークたちは、無防備な体を晒してまで、アルベルトの間に割って入って来たのだ。

 一見して狂気の沙汰であり、だがそれを当たり前とするのが妖魔王の力である。そしてオルグーンは悠々と後ろに下がろうと、歩き出したその時だった。


「あら。悪いけど、もう時間なのよ? ……逃がさないわ」


 悠々と、そして静かにこの戦いを見守っていた、ネクロが動く。ヒトの姿を解き、白骨のアンデッドとしての姿を晒した。


「なっ……化け物!?」

「あらっ、失礼しちゃうわね!」


 妖魔王が慄く姿を見て、不服そうにネクロが睨みつける。そんな事など知らぬとばかりに逃げ出すオルグーンを前に、ネクロが軽く指を鳴らすと、逃亡者の行く手を遮らんとばかりに、無数のアンデッドたちが塞いだのである。

 その理不尽な光景に、オルグーンは怒り狂い、強引にアンデッドの群れの中を突き進もうと足掻く。


「死なぬ! 死んでたまるものか!! ええい邪魔だっ、道を開けろ死体ども!!」


 押し寄せる死者の波。その分厚い壁は邪槍アラドヴァルの力で以てしても、容易く破れるものではなかった。傷つき、未だに二振りの聖剣が自らの肉体に食いついたまま。何が何でも逃げ延びるのだと、オルグーンが叫ぶ。


「……ネクロ殿が作ってくれた好機、無駄にはしない! 聖剣ジョワユーズ、俺に力を! リュミエール・ド・オルドル!!」


 聖剣ジョワユーズの固有ウェポンスキル。群がるオーク諸共、妖魔王オルグーンを打ち払う光の波が、聖なる力の奔流が、戦場そのものを断ち切るように放たれたのだった。



 もうじき日は落ちる。戦自体はまだ続いており、夜になればヒトは途端に不利になるだろう。その不利な時間を引き受けるのが、【冥王】ネクロ・ノミコンの仕事でもあった。

 それは戦場を東西に分かつ、死者の壁を作り上げること。アンデッドの群れを戦場全体の、自陣と敵陣の間に発生させて、分断するという荒業を仕掛けるのだ。


「さてと。この戦場はこんなものね……でもアタシ一人じゃちょっと厳しいから、少し援軍を頼もうかしら?」

「はい。ネクロ殿のご助力、本当にありがとうございました」

「いいのよ、気にしないで。まさかこんなに早く妖魔王を倒せるなんて、びっくりしたわ。本当に皆、頑張ったわね」


 ネクロの言うように、確かにアルベルトは妖魔王オルグーンにトドメを刺した。それはジョワユーズだけの力にあらず、オルグーンの肉体に食らいついていた、魔王バルバシムの二振りの聖剣があってこその、トドメの一撃だったのである。


「……ちっ、さっさとやるべき事をやりにいけ、冥王」

「はいはい。魔王ちゃんは、ちゃんと怪我を直して貰うのよ? せっかく頑張ったんだから、うっかり死んだらアンデッドにしちゃうんだから」


 存外ボロボロになった魔王バルバシムは、リアとキッシュの二人掛かりで治療されている真っ最中だ。

 そんな友人の姿を見ながら、ネクロは苦笑を浮かべながら、かき消えるようにその場から転移してしまうのだった。


実は開戦初日でオークの妖魔王は脱落していた……!?

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