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第三百十四話「邪道」


 本当に伸び縮みしているかのような、それでいて生きているかのように、毒気と炎を纏った槍が幾度となく突き出される。妖魔王オルグーンの放つ攻撃は、決して達人の技のようなそれではないはずなのに、槍の方が自らの意思で動くかのような技の冴えを見せていた。

 鋭く不規則な動きをする槍の攻撃だけでなく、槍自身が纏う毒気と炎によるダメージも、本来ならば馬鹿にはできない。どれも致命的なものではあるのだが、それらをやすやすと回避し、打ち払い、封じる力を持つ者たちが相対しているのだ。

 その者たちこそが、破邪のオーラを持つ勇者アルベルトと、二振りの聖剣を振るう魔王バルバシム。それぞれが聖剣の力によって、妖魔王の持つ邪槍アラドヴァルの力を阻害し、見事に封じ込めている。

 このお陰で勇者と魔王は、妖魔王という人知を超えた相手と、正面から戦うことを可能にしているのであった。


「聖剣を手にした程度で、図に乗りおって!!」


 怒りの形相でオルグーンが吠える。長く打ち合ってはいるものの、互いに傷らしい傷は見当たらない。妖魔王は悪魔の鎧だけでなく、不死の魔獣であるネメアンライオンの皮を纏い、生半可な攻撃では傷つけることすら不可能。

 対して勇者アルベルトと魔王バルバシムは的確に妖魔王の攻撃を回避し、毒や炎は聖剣の放つ力が防いでくれている。

 正面からバルバシムが斬りかかり、右の剣を振り下ろす。それをオルグーンの槍が絡め捕るように往なすと同時に、陰に隠れて放たれようとした左の刃を受け、そのまま力任せに相手を弾き飛ばした。

 その隙を狙ったかのように放たれたアルベルトの一閃を、強固な鎧と不死の魔獣の皮がその刃を見事に遮って見せる。

 すると次はこちらの番だと言わんばかりに、邪槍を力任せに横薙ぎに払い、アルベルトは慌てて跳び下がりながら、聖剣でその一撃を受け流す。

 そしてバルバシムが魔法で黒い矢を飛ばしつつ、再びオルグーンに躍り掛かる。


 息もつかせぬ、激しい攻防。互いに決め手に欠きながらも、しかし彼ら以外その空間に入る事すら拒絶するような、掠っただけでも致命的なダメージを受けるほどの猛攻が続いていた。


「あれが妖魔王との戦い……あれではとても割って入ることができない。勇者と聖戦士だからこそ戦える世界か」

「勇者様は絶対勝つ! 魔王様もいるんだから、負ける筈がねえっ。だから誰にも、邪魔なんかさせるかよ!」


 彼らの戦いの周囲でも、戦は続いているのだ。勇者たちの邪魔をしようと、オークの上位種たちが次々と雪崩れ込んでくる。そうはさせじとバートとフィルの二人だけでなく、彼らと共に戦う兵士たちが奮戦してくれているのだ。

 そんな中、ローヴィス教の元教主であるエメリア──リアはただ一人、勇者と妖魔王の戦いを見守っている。

 それは彼らの戦いを見て茫然としているわけでも、何も出来ない自分を責めているのでもない。自身の力の使いどころを見極める為、妖魔王と戦う二人が傷ついた時、すぐに治癒の奇跡を使う為に構えているのだ。

 彼女自身もそれなりに剣を扱えるし、ユウリ達によってスキルも習得している。なのでこの戦での戦力としては頼りになるのだが、今回は唐突に巡って来た、妖魔王との因縁の対決なのだ。ならば彼女のやるべき事は、戦う事ではなく勇者を助ける事。

 周りもそれを理解しており、魔物たちを近付けないようにと気を配ってくれているのだ。


「魔法で相手を少し倒したところで、続かないのなら……レーヴィとオリバー殿下は、アルベルト達に守りの魔術を使ってくれる!?」


 アルベルト達が戦っている場所から少し下がったところには、前線の兵を支援するための魔法士たちが配置されている。

 魔法士のディディエは当然として、戦力として数えるにはまだ幼いレーヴィとオリバーの二人は、魔術を使って周囲の人々を支援すると言う役を担っていた。

 魔術を使用するための触媒も、天空城からかなりの量を支給されているお陰で、十分な働きが出来ている。そもそも天空城からも支援魔法が届いているお陰もあって、戦いに不慣れであっても何とかやれているのだ。


「はい! 触媒は……こっちの白い石です、オリバー殿下。呪文は、『プロテクション』!」

「えーっと、白い石白い石……あった! えっとえっと、『プロテクション』、です」


 魔術用の複雑な魔法陣が掘られた杖に触媒を重ねて、術ごとに決められたコマンドを唱える事によって、魔術は完成する。

 本来魔法を構築するために必要な動作や詠唱と言った手順を、大幅に簡略化させて魔法陣に組み込むことで可能にしているのだ。それを使い捨ての触媒を贅沢に使用することで、魔法の模倣としての魔術が発動する。

 それは道具の使い方さえ知っていれば、そして必要な触媒に問題がなければ、魔法の素養を一切持たない者であっても、使用と再現が可能な超常の力。

 ヴォルデス王国で開発されたこの魔術と言う新技術は、この戦いに参加している全ての国々に、驚きと共に知られることとなった。それと同時に、運用にかかるコストの大きさに、落胆する羽目にもなっているが。


 レーヴィとオリバーによって、アルベルトとバルバシムの二人に、より強固な魔法の守りが加えられた。この魔法は天空城の支援魔法とは干渉せず、重ね掛けが可能なタイプなので、選択肢としては問題ない。

 ただ魔法士の扱う魔法や魔術による強化の多くには、効果時間に限りがある。なので妖魔王との戦いが長引く場合、再度かけ直すことも視野に入れなければならない。その為、長時間効果が続く天空城からの強化システムが、どれほど反則的なものかがよくわかる。


「はっ、小賢しい! その程度の魔法で守りを固めたところで、我が肉体を傷付けられもしないのならば無意味! 無駄に苦しむことを長引かせようとは、人間とは残酷なことをする」


 せせら笑いながら、妖魔王が吼える。その声には物理的な攻撃力があり、全周囲に放出されているもの。これには回避も不可能であり、味方のはずのオーク諸共周辺を吹き飛ばした。

 これにはアルベルト達も吹き飛ばされるものの、先程の守りの魔法のお陰もあって、ダメージは大したことは無い。また敵味方諸共攻撃していたものの、周囲からもとから離れていた事もあってか、互いに損傷は殆どないと言っても差支えが無い程度の被害でもあった。


「アルベルト、すぐに癒しを!」

「バルバシム様は、あたしがやる!」


 リアが叫び、ディディエたちと共に後方支援に下がっていたはずの、キッシュまでもが前に出て来て叫んだ。自分たちもそれなりに傷ついているだろうに、妖魔王と相対している二人に癒しの奇跡が放たれる。

 直接この戦いに関与できない以上は、神官として戦う勇者たちを支えると言う、彼女たちの覚悟でもあった。

 バルバシムは少しだけ憮然としつつも、素直に癒しを受け入れる。彼もアルベルトも神官なので、自身で癒すこと自体は可能なのだ。だが妖魔王との戦いに集中しなければならず、攻撃力不足を補う為にも、神聖魔法を回復に使うだけの余裕は殆どないと言えた。

 すぐに態勢を立て直し、二人が妖魔王へと向かおうとした瞬間。オルグーンがにたりと笑う。


「何故貴様らと距離を置いたか、教えてやろう。『偉大なる我が神の奇跡を。邪なる力、顕現せよ。聖なる者達だけを打ち払え。我らが怒りを解き放て、イーヴィル・エクスプロージョン』!」

「くっ、『聖なる盾をここに! ローヴィス、力を貸せ! ディバイン・シールド』!」


 妖魔王オルグーンから放たれたのは、邪の神々の加護を受けた者以外に、痛打を与える破壊の魔法。特に神官への攻撃力が高く、まともに受ければ、この世界の者ではひとたまりもない。

 逆に神官以外には先程の咆哮程度のダメージにしかならない、属性特攻魔法である。

 それに対して、バルバシムが乱雑な祈りの言葉によって発現させた奇跡は、邪の力を阻む盾の魔法。背後にいるリアやキッシュを護るためでもあり、更にその後ろにいるであろう神官たちへの守りも意識したものでもあった。


 無音の衝撃が、破壊が、アルベルト達を中心に襲い掛かる。距離を取られ、相手に魔法の詠唱をさせる余裕を与えてしまったのは、まさに痛恨の極みであった。

 魔法の防具などで身を固め、聖なる盾で幾らか減衰出来ているからこそ、二人は十分に耐えることが出来た。しかし周囲の者達は違う。

 背筋を伝う、冷たい汗。仲間たちはどうなったのか、それを確認したくとも眼前の妖魔王オルグーンから、目を離すことは出来ない。それはバルバシムも同様らしく、忌々し気な表情を浮かべ、彼の頬を汗が伝う。


「なんなんのだ……それは!?」


 オルグーンの言葉の意味がわからなかった。茫然とするような、そして驚愕したような表情。信じられないものを見るかのような、その様子から察するに、何か予想外の事が起きたのだろうことは理解できる。

 思わずアルベルトが周囲を見渡すと、漸く気付くことが出来た。自分たちの背後に聳え立つ、悍ましい死者の壁の存在に。



 陽は落ちようとしている。それは彼の役割を果たすべき時が、近いと言う事を示している。だがその時にはまだ少しだけ早い。そう自分に言い訳して、好奇心の赴くままに、彼は戦場を俯瞰していた。

 そこで見たのは、敵味方を問わずに弾き飛ばされる、ヒトと妖魔。その乱雑さと大雑把さに、少しばかりの嫌悪を覚える。例え敵とはいえ、味方への被害や犠牲を強いる事には、人並みに怒りを覚えるのだ。

 続けざまに、魔法が放たれようとしている。ならば少しくらい邪魔してやろう。そんな気になるのは、ごく自然な流れであった。


「『阻め、死者の産声。怨嗟を奏で、壁となれ。ウォール・オブ・グラッジ』」


 優雅な仕草で詠唱し、魔法を結実させる。無数の死者の壁が、同じ邪属性であるからこそ干渉し、威力を抑え込み、阻む。


「こんな感じかしら? あとは……そうね。もう少し強めの強化魔法とか、どうかしら?」


 そんな風に、彼は微笑んだ。【冥王】ネクロ・ノミコンよる、直接的な戦場での干渉。それを事前に予測できる者など、この場にはいないのだ。


 恐ろしくも、一目見て強固と分かる壁。それはすぐに霧散し、壁の向こうの様子を見せる。そこには何が起きたのかと目を白黒とさせるリアとキッシュ、そして一緒に戦っている兵たちの姿があった。

 次いで気付いたのは、自分たちを包む、大いなる力。これまで掛かっていた支援魔法など比ではない、強力な強化魔法。この場でそんな魔法を使えるのは仲間のディディエくらいのはずだが、この周囲にいる味方全員を対象に出来る訳ではない。

 困惑しつつも、明らかにオークの上位種たちと互角以上に渡り合える力を得ており、兵たちの士気は上がりつつある。それはアルベルト達も同様であった。


「一体、何が……?」

「まったくもって腹立たしい!! 礼など言わんぞ冥王!!」


 未だ困惑するアルベルトを他所に、何かをすぐに悟ったバルバシムが怒鳴りつける。そしてそのまま、妖魔王へと駆け出して行った。それに気付き、動揺しつつもすぐに彼の後を追う。

 自身の放った魔法を完璧に防がれ、顔を真っ赤にして怒りを露わにするオルグーンは、邪槍アラドヴァルを大地に叩きつけ、向かってくるバルバシムを迎撃する。


「おのれおのれおのれっ! なんなのだ貴様らはぁああああああああああああ!!」

「五月蠅い豚が! 水を差されたこちらの方が、怒り狂いたいわ!!」


 互いに怒りに任せ、オルグーンとバルバシムが、殴り合うように切り結ぶ。若干引き気味に、アルベルトも加わっているが、些細なことだ。彼らの目的は妖魔王を討つこと。その目的に変わりはない。

 周囲は暗くなりつつあり、このままでは妖魔王が撤退する可能性だってある。この場で確実かつ早急に、決着を付けなければならなかった。そして今ならば、更なる強化の重ね掛けがある今だからこそ、相手の強固な防御をも貫けるかもしれない。

 否、間違いなく貫けると、アルベルトは確信している。

 何故ならあのバルバシムが、無謀にも見える突撃をしているのだ。そして先程からの支援の正体が、誰からのモノであるかを考えたなら、それは至極当然のようにすら思えるのだから。


 因縁の戦いに終止符を打つべく、勇者アルベルトは聖剣ジョワユーズを強く握り直した。


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