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第十二話「説明を聞こう」


「まずは……そうだな。冒険者の仕事には色々ある。っつーか基本的に何でも屋だ。街のドブさらいや貧民街の共用便所の清掃、商店の臨時の荷運びや、信用があれば臨時での屋敷の警護なんてのもある」

「……えー、街の中だけ?」


 ユウリが嫌そうに抗議すると、受け付けの男のごついゲンコツが容赦なくその頭上に飛んできた。鈍い音が響いたが、しかし殴った方は兎も角、殴られた方は小動もせずに平気な顔をしている。


「最後まで聞けクソガキ……くっそ、なんだその糞固い頭は!」

「ふふーん。僕にダメージ与えたかったら、最低でも気功や魔力を纏った攻撃じゃないと、通らないよ」


 殴って逆にダメージを受ける男に対して、何故か勝ち誇ったように胸を張るユウリ。つまり、話が進まない。

 色々と聞き逃してはいけなような単語も出ているが、殴った方はそれどころではないらしいのが、また困りものである。


「クソッ、なんつーガキだっ。まあ、頑丈なのが取り柄なのは悪くない。さっきも言ったが、お前ら冒険者は何でも屋だ。街の中の依頼が気に入らないってんなら、外の依頼を受けるこった」

「そと?」


 マットがこてん、と首を傾げる。薪拾いかな、などと考えている辺り、やはり冒険者という物をまだ理解出来ていない。


「薪拾いだとか草刈だとか、そんな簡単なもんばかりじゃねえからな。冒険者のやる事で一番多いのは、獣や魔物と戦う事。つまり、討伐依頼なんかだな。他にも薬草を採取する薬師の護衛をする、なんてのもある」

「護衛? 僕らが採りに行くんじゃないの?」

「勘違いしているようだが、薬草の採取なんてのはよっぽど解り易いモンしか、依頼には出ないから安心しとけ。毒草と薬草を間違える馬鹿も多いから、薬草採取の依頼なんてもんはない」


 元の世界でも薬草と毒草は、見分けるのが非常に難しい物が多い。それこそ、毒草と山菜と薬草が同じ場所に混生していたりする場合があるので、山菜や薬草と間違えて摂取し、大きな中毒事故に発展する例には事欠かないのである。

 経験も知識も無いド素人の冒険者程度が、気安く触っていい領域ではないのだ。


「あとは隊商や行商人の護衛なんてのもあるが、こっちはギルド側が信用できる奴らにしか頼まねえ。途中で野盗紛いになって金品を奪った挙句、依頼人を皆殺しにして何食わぬ顔で他所の、遠くの街や国に逃げられ、それでおしまいってのもないわけじゃあないからな」


 いきなり物騒な話になった。だが悪い事を考える者というのはどこにでもいるもので、ギルド側もそう言った違反者は厳しく取り締まっている。だが取り締まれるのはあくまでも街の中、ヒトの住む領域のみなのだ。

 それ以外は治外法権とでもいうべき、無法の野。魔物が闊歩し、油断した者から食い物にされる弱肉強食の世界。だからこそ信用が大切なのだと、受付の男性は言う。


「ギルドの顔に泥を塗った馬鹿野郎が出たら、こちらも全力で叩き潰す。首に懸賞金を掛け、徹底的に追い詰める。勿論それぞれの国や領主にも、そいつの情報が早馬なんかで行って、とっ捕まえようとする。いいか、逃げられると思うなよ? 嫌なら馬鹿な事はしないこった」

「はーい!」

「うん!」

「……あなた達、変なところだけ返事がいいのはどうなの?」


 受付の男性だけでなく、同行しているステラまでもが不安になるような、無駄に元気で良い子な返事を返す二人。そんな二人を見て頭を抱えるのは、誰にも責められなどしないだろう。


「……まあいい、次だ次。冒険者が受けられる依頼には、限度ってもんがある。それは冒険者一人一人に決められたランクがその指標になるんだ」

「しひょー?」


 再びこてん、とマットが首を傾げた。


「あー、馬鹿でも分かるように言うとだな。目安とでも言えばいいか?」

「えっと、要するにこのランクなら、ここまでの依頼を受けてもいいですよ。ってことだよね?」


 口は悪いが解り易く説明しようとする受付の男の言葉に、付け加えるようにユウリが口を挟む。それらの説明を受けて、マットは満面の笑みで「わかった!」と答えた。


「おう、ありがとよ。そっちの坊主はやっぱ身形がいいだけに、ちゃんとした教育受けてたか。お貴族様の……家督を継げない三男坊とかそんなとこか? まあ、冒険者には出自なんて関係ないから、そこんとこだけ気をつけな」

「はーい」

「で、話の続きだ。ランクについてだが、こいつは冒険者の証でもあるプレートだな」


 そう言って受付の男はゴソゴソと、カウンターの下から何枚かの小さな板を取り出す。丁度免許証のような大きさの薄い板だ。片側の端の真ん中あたりに穴が開いていて、紐などが通せるようになっている。

 また偽造防止のため、裏側にギルドマークの焼き印と、特殊な塗料が塗ってある。この塗料は太陽の下ではきらきらと金色に、月光の下では銀色に輝くと言う、非常に不思議なものだ。


「この普通の木製の板がノービスプレート。冒険者になったばかりの初心者が持つもんだ。それから半人前だが、冒険者としてちゃんと仕事が出来るようになってきたら、こっちの黒い板のオブシダンプレートになる」


 ユウリ達が見える様に、それぞれのプレートとその意味を教えてくれる。


「当然ながら、お前らはノービスプレートからのスタートだ。どんな冒険者でも最初はそこから始まるから、早く上のランクに行きたかったら、頑張るんだな」

「上のランク……かぁ」

「オブシダンプレートまでは、一定の回数依頼をちゃんとこなせていれば上がれる。それより上に行きたかったら、魔物の討伐依頼も一定数こなせなきゃ話にならねえ。まあ、その時が来たら説明してやるさ」

「うん、わかった」

「で、この銅板がカッパープレート。漸く一人前と認められるのは、ここからだ。その上のベテランに与えられるのがアイアンプレート。そして一般に最高位とされるのが、シルバープレートになる」


 そう説明されて、ステラは違和感を抱く。男の方を見ると、何やら意味深に笑っているのだ。


「……一般にって、どういう意味なの?」

「おっと、そこに気付いたか。この上にランクが二つほどあってな。超一流のゴールドプレートや、更にその上のプラチナプレートってのがあるんだ。まあ、一応な」

「なり手が少ないから、あえて除外してたってところかしら?」

「……ま、そう思ってくれ」


 初心者のノービスプレート。

 半人前のオブシダンプレート。黒曜とも呼ばれる。

 一人前のカッパープレート。銅級とも呼ばれる。

 ベテランのアイアンプレート。鉄級とも呼ばれる。

 一流のシルバープレート。銀級とも呼ばれ、これが普通のギルドでの最高位冒険者を指す。

 一流を超えた超一流のゴールドプレート。金級とも呼ばれ、国に一人いれば良い方。

 そして伝説的な存在であるプラチナプレート。白金級とも呼ばれる英雄的存在。


 改めてそう説明されて、マットが頬を紅潮させて興奮する。英雄という言葉に反応したからだが、そこは厄介事の気配を察知したステラとユウリの二人の鮮やかな連携で、事前に少年の口を塞いでしまっていた。

 ステラは本来の目的である世界樹を植える場所を探す上で、人間に余計な情報を与えないため。ユウリは自分が英雄と呼ばれる事への違和感と、周囲から変な目で見られたくないという羞恥心からで、それぞれの理由は全く異なっているのが趣深い。


「今言った殆ど居ない、ゴールドやプラチナ、この辺にくるとお貴族様や国の偉い奴らが、競って自分の兵士や騎士として取り立てていくから、居ても国に横から掻っ攫われて、何の意味も無いランクになっちまってるのさ」


 そう言って受付は溜息を吐く。その様子に、ユウリ達は何とも言えない表情になった。

 長年ギルドに貢献し、多くの功績を上げた英雄として、尊敬と羨望の眼差しを一身に受ける冒険者へと成長しても、それを上から横取りされるのでは、ギルドとしては全くもって面白くない。

 どれほどの強者であろうと、その地域一帯を治める領主や、それら領主たち貴族を束ねる国相手では無力に等しい。それを殆ど無理矢理にと言っていい程、多額の報酬と甘い言葉、時には人質を取ってまで自分達の武力として取り上げるのだ。

 そんなことをされては、数少ない実力のある冒険者を育てた甲斐が無い。そしてギルドに持ち込まれる依頼が滞るのだ。


 冒険者は魔物と戦う機会が多いからか時折、英雄と呼ばれるような強者が現れる。逆に対人との集団戦闘に特化している傭兵には、そう言う存在は生まれにくいという特徴がある。

 だがこの二つ存在は似ているようで、用途が全くの別なのだから当然だろう。

 しかしユウリ達の居る大陸北部では国同士の争いが多く、傭兵の方が需要の高さから花形職業の一つとなっている。多少の魔物も兵が数で押し潰してしまえばいい、という考えが横行している面もある。

 この世界において、民間で魔物に対抗できるだけの力があるのは、冒険者くらいなものなのだ。それを十分に頭角を現してから、国や領主が取り上げる。国や民のためだから、と。

 そんな風に有能な者を引き抜かれてばかりでは、ギルドとしての力や評価が低下するのも当然だ。だから冒険者は「まともな仕事に就けない、役立たずの行き着く場所」「乞食や犯罪者よりはマシな何でも屋」「亜人まで使わなければならない、汚らわしい仕事」と、世間一般からはそんな風に認識されている。


「国に抗議なんかしても意味はねえ。本人が望んだと言われれば、それまでなんだ。大体、冒険者の多くはそういった立身出世を夢見てやってる奴らも多いからな。世知辛い話だぜ」

「へ~」


 平民が手柄を立て、それが認められれば領主や国に取り立てて貰い、地位と安定した生活を手に入れることが出来る。そんなよくある物語のような出来事は極稀ながらも、確かに存在しているのだ。


「っと、話が逸れた。これらのプレートは一種の身分証でもある。つっても冒険者が街を出入りする時に、税が多少安くなるってだけだがな。さっき払ってもらった金は、この街に納める税金やら発行手数料なんかが含まれている。だが金が無い冒険者志望のガキも多いから、ちゃんとやる気があるかの試験も兼ねて依頼をさせる訳だな」


 無論、プレートを発行するのに必要な金額と同等の依頼をこなして貰うんだが。と男は笑う。そう難しい仕事ではなさそうだが、一人銅貨八枚分であるならどんな仕事をさせられていたか、分かったものではない。

 大体は便所掃除やらドブ攫いなどの、きつくて汚い仕事をやらされる。病気になる可能性もあるため、潜在的な危険度も高い。そういった人が嫌がる仕事を真面目に最後までやれるか、という意味もあるが。


「あとはそうだな、ある程度は定期的に依頼を消化しないと、登録が取り消される。これは当たり前だな。再登録するとまたランクは最初からだし、登録料もかかる。どれだけ実力があろうと、ギルドに貢献しない奴は要らん。わかるな?」

「なるほど」

「あとランクはどこの街や国だろうと、冒険者ギルドさえあるなら通用するから安心しろ。ただ余所者は多少受けられる難易度が下げられるだろうし、旅をしているならその分、税金は多めに依頼料から引かれる。だから冒険者が一つの街を拠点にして活動する奴が多いのは、それが理由だ」

「税金……」

「依頼書に書かれている依頼料は、税金やらその他の手数料やら諸々が最初から引かれている額だから、その辺は気にしなくていい。ま、それもあってノービスプレートなんかが出来る仕事は悲しいくらいに安いんだが、その分多くの依頼をこなすのが普通だ」


 実際、一日で複数の依頼をこなせるような仕事は、あまり多くはない。それでも毎日のように、一日で二つくらいの依頼をこなす者もいるのだ。パーティを組んで人海戦術を駆使し、多数の依頼をこなすような者達は、次のランクへ上がるのも早い。この辺りは完全に好みや環境によるだろう。

 意外と真剣に聞き入っているユウリ達を見て、受付の男は満足そうに一つ頷くと、彼らの前に三枚のプレートを差し出す。


「さて、これで大体の説明は終わりだ。そしてこれがお前らのノービスプレートになる。まあ、死なない程度に頑張れよ」

「ありがとう、おじさん!」

「ああ。依頼が張り出されているのはあっちの壁だ。やりたい依頼があったら、こっちに持って来い」

「はーい」


 そう答えてユウリ達はプレートを受け取り、意気揚々と最初の依頼を受けるべく、依頼書が張り出されている場所へと向かうのだった。


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