１ あなたのところまで、飛んでいけ。
花子と紙ヒコーキ
プロローグ
私の思いをのせて。
本編
あなたのところまで、飛んでいけ。
春。
それは、花が咲く季節のこと。
島田花子は恋をしていた。
花子の恋のお相手は同じ教室にいる、クラスメートの一人のさえない男子学生だった。
その人の名前は、上野文人くん。
文人くんはいつものように花子の前の前の席に座って、そこからじっと、窓の外に広がる青色の空を眺めていた。（花子の席は、窓際の一番後ろの席だった）
窓は空いていて、そこから春の暖かな風が教室の中に吹き込んでいる。
白いカーテンがその風にゆっくりと揺れている。
そこに文人くんのぼんやりとした表情がある。花子の一番好きな文人くんのいつも見ている、横顔の表情だった。
花子はそんな文人くんの猫背の後ろ姿を見て、やっぱり私は文人くんのことが大好きだ、と頬を赤くしながら、改めて思った。
花子は、文人くんに自分の気持ちを伝えたかった。
でも、どうやって自分の（文人くんを世界で一番好きだという）正直な気持ちを文人くんに伝えればいいのか、それが中学二年生の花子には、まだよくわからなかった。
なので、あれこれと考えた末に、花子は文人くんに自分の気持ちを詰め込んだ手紙を書くことにした。
それは、恋の手紙。
つまり、恋文だった。
中学生の恋の告白にしては、ちょっと古風すぎるかな、とは思ったのだけど、花子は文人くんに自分の気持ちを伝えるのなら、最終的に、この方法が一番だと思った。悩んだ末に、そう結論を出したのだった。
それが決まると、花子は早速、文人くんに自分の気持ちを伝えるために、手紙を書いた。
花子の恋の手紙はすぐに書きあがった。（花子の中には文人くんへの大好きな思いがいっぱいに詰まっていたから、手紙を書くのは本当に簡単だった。花子の気持ちは次から次えと溢れて、ペンが止まることは一度もなかった）
手紙は書いた。
問題はどうやって、この手紙を文人くんに届けるかだった。
その方法をうーん、と、唸りながら、考えているときに、花子はふと、文人くんの真似をして教室の窓の外に広がっている青色の空を見つめた。そういうこと（好きな人の真似をする）をするのは、花子の癖のようなものだった。
するとそこには一機の白い飛行機が、飛行機雲を作りながら、春風の吹く、青色の空を飛んでいる風景が見えた。
