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閑話 我輩は狼である その5

 みなさん御機嫌よう、ミコラーシュです。わたくしはまさに今、戦を終えて王城へと帰ってきたところでございます。

 さて皆さん、信じられない光景を目の前にしたとき、どんな反応を返すでしょうか。わたくしの場合は、どうやらいつもの口調を忘れるという境地に至ったようで。


 ーーいや、しっかりしろ自分!


 さて、状況を説明しよう。俺は帰るなり中庭で休んでいたんだが、エリーが労いにやってきたのだ。

 そしたらなんと、エリーかと思ったら違う女だったという、驚愕の事態に見舞われた。一瞬騙されるところだったが、俺の鼻は甘くない。顔がそっくりでも絶対に違う、この女はエリーとは別人だ!


「わあミコラ、久しぶりだなあ。ちょっと撫でさせておくれ」


 女が白々しいセリフとともに手を伸ばしてきて、俺の頭をワシワシと撫でた。

 うお! うががががが! こ、こいつ……見た目の百倍力が強え! やめろ、毛が痛む!


「本当にふわふわだ。ずっと撫でていられるなこれは」


 されるがままに撫でられていた俺は、助けを求める視線を、この女についてやってきたシルヴェストルの親分に送った。

 親分、頼む助けてくれ! わかんねえかも知れねえけど、こいつはエリーじゃねえんだよ! けどそっくりだし、流石に噛み付くわけにはいかないだろ……⁉︎


「……ふむ」


 親分は今は人の姿になっていて、俺が何を言っているのか理解できない様子だ。しかし面白そうに顎を撫でているかと思ったら、開口一番こう言ったのである。


「さて、そろそろお名前をお教えいただけますかな。王妃様に瓜二つのお嬢さん」


 お、お、親分ーー! 俺はあんたに一生ついてくぜ!


「……あれ? バレてる?」


「ええ、なんとなくではございますが。それにミコラーシュの様子がおかしいので、それが決め手になりました」


 親分はあくまでも飄々としていて、特に動揺はしていない様子だ。ああ、本当に親分がいてよかった。

 女はしばし呆けたような顔をしていたが、やがてニヤリと笑った。


「はは、参った参った。こんなにあっさり見破られるなんて、この計画の無謀さが嫌になるよね」


 女はニコニコと笑っているが、エリーではないと認めたなら容赦する必要はない。俺は距離を取ると、女に向かって低く唸った。


「もしかしてミコラも気付いているのかな?」


「狼は鼻が効きますゆえ」


「ああ、そうか。本当に遅かれ早かれ見破られていたんだね……」


 悟ったように微笑む女は、やはり表情が違ってもエリーにそっくりだった。

 これは一体どういうことなんだ。エリーはどこにいるんだ? それにイヴァンは一体何をやっている?


「では、説明しようかな。少し長くなるけれど」


 女は立ち上がって、あえて中庭の真ん中へと俺たちを誘った。遮蔽物のないここなら立ち聞きの心配もなく、声を抑えれば大丈夫ということらしい。


 *


[な、なんつー話だ……]


 俺は絶句した。今聞いたこと全部が現実味がなさすぎてピンとこない。

 やっぱブラル皇帝は本当に勝手で横暴なんだな。酷え話だよ。


 今までエリーが見せた色々な表情が蘇ってくる。その中でも、イヴァンへの想いを吐露しながら見せた切なげな笑みは、深く心に刻まれていた。

 きっとすごく辛かっただろうな。頑張ったんだな。帰ってきたらこの毛並みを撫でさせてやらないと。


「というわけで、イヴァン王は長期視察に出かけたことになっている。ああ、あなたの奥方もご存知だよ。ダシャなどはエリーを追いかけて行ってね、無事合流できているといいんだけど」


「ふむ、驚いた。これはしてやられましたな」


 鷹揚に笑う親分は、流石の大物ぶりである。


「怒らないのかい?」


「怒りませぬ。カールハインツ帝の横暴には思うところはございますが、若者たちの感情に年寄りが口を挟むものではありませぬ故」


 慈しむような笑みを浮かべる老戦士に、エルメンガルトは意表を突かれたような顔をした。

 けれどそれも一瞬で、姫君はすぐに微笑んで見せた。どこか後悔をにじませた瞳で。


「……本当に、あなたたちは優しいんだね。これもあの子が優しいから、なんだろうな」


 とんでもない計画の発端になった身勝手な女だと思ったけど、やっぱり悪いやつではないんだな。

 妹の人となりをわかっているから、この人はここにいるんだろう。もし万が一、カールハインツ帝が条件を飲まなかった時、味方になってくれようとしているんだ。


「あなたの処遇はどうなるのです?」


「親書の返事が届き次第無罪放免だそうだよ。国王陛下も甘いよね。でもまあ、エリーに嫌われたくないんじゃないかな」


 その言葉には俺も間髪入れずに頷いた。そうだな、イヴァンならそうするだろう。

 俺は知ってる。エリーだけは特別なんだ。あいつにとって唯一、理性を感情が上回る相手。そんな彼女が泣くような事は、可能な限り避けるに決まってる。


「心配だなあ。無事に連れて帰ってきてくれるといいんだけど」


 エルメンガルトが苦笑気味にため息をついた。

 うーん、大丈夫だと信じたいけどな。イヴァンのやつ、流石にここでしくじったら見限るぞ。


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