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1-6:入学手続きと初めての魔法習得!?

明日からは18時ごろの更新になります。

よろしくお願いします。

目の前の扉はなんの変哲も無い木製の扉だ。ただ、一点気になることがあるとすれば、扉の掛札には『学園長室』と書かれておらず、『マオウの部屋』と書かれているところだ。

ここ、もしかしてマオウさんの自室に繋がっているとかじゃないだろうな。

そんなことを考えているところ、メルクレストさんが何度かノックし扉を開ける。


その先に見えるのは、なぜか裸でシャワーを片手に鼻歌を歌っているマオウさんであった。


その瞬間メルクレストさんは即座に扉を閉めーー。

「ソウタくん、君は今何も見なかった。わかった! わかったわね!」

「は……はい……」

やっぱり自室に繋がってたのか。


メルクレストさんはポケットからメモ用紙を取り出し、文字を書きなぐる。そしてそのメモを扉の下から部屋の中に忍び込ませる。


「さて、それじゃあ、もう少し学園を案内するわ」

「あっ、その前にトイレいってもいいですか?」

「ええ、いいわよ。この廊下をまっすぐ歩いて、突き当たりを右、少しするとトイレのマークが見えるわ。男性が逆三角で青色のマークで女性が三角で赤色のマークだから間違えないようにね」

「わかりましたー」

メルクレストさんの案内の通りトイレのマークを見つける。実際に見てみて確信に至ったが、俺のいた世界で使われていたマークとほとんど大差ないものだった。

メルクレストさんやマオウさんも普通に俺のいた世界に来て溶け込んでたし、文化みたいなものはほとんど変わらないのかもしれない。


そう思ってトイレに入る。

「こんにちは」

そこに立っていたのは俺よりも身長が高く、スラッとした手足。銀髪の長い髪を揺らし、凛々しさの中に優しさを醸し出す整った顔立ち、そして鈴音のような凛とした声。さらには胸にはしっかりと主張する膨らみがある。


「そう、男子トイレにいたのは、女子だったんだ」


言葉にしてみて思った。俺ってなんて馬鹿なことを言ってるんだろう。

まぁまてよ、俺の見間違えかもしれない。そもそも男子トイレって言ってるのに女子がいるわけないだろ。

俺はもう一度女子が立っていたところに視線を向ける。


そこには変わらず、笑顔でこちらを見る綺麗な女子が立っている。当然、胸もある。

うん、いるな。なるほど。ということは、メルクレストさんが間違えるなと言ったのは男性が三角の赤なんだな。

俺は一つ頷いて。

「すみません、間違えました」

トイレを出て俺は改めて三角の赤色マークの方に入ろうとした。


ガシッーー。


その瞬間後ろから肩を掴まれた。

「ソウタくん、間違えるなと言いましたよね? それとも貴方はどうどうと女子トイレに入る変態さんなんですか?」

振り返るとそこにはメルクレストさんが笑顔で立っていた。ただし、笑顔といっても目が笑っていない笑顔でだ。


「いやいやいや、違いますよ! 逆三角の青色マークの方に入ったら女性が立っていたからもう一方へ行こうとしたんですよ!」

「ソウタくん……」

「やめてください! 可哀想な子を見るようなその目はやめてください!」

「とにかく、逆三角の青マークが男性用です。マオウさんから先ほど入学儀式の準備が整った連絡があったので、速やかにトイレにいってきてください!」

「……わかりました」

色々腑に落ちない点はあるけど、渋々返事をした。そして、男子トイレと言われた方に改めて入ると、そこに先ほどまで立っていた女子の姿はなかった。

見間違いだったのだろうか。それとも幽霊ーー。

そのどっちでもないだろうな。容姿をはっきり覚えているし、幽霊にしては体は透けていなかった。

とりあえず、男子トイレが好きな変態女子がいたってことにしよう。


そんなことを考えながら、目的であるトイレを済ませ、メルクレストさんと合流して再度マオウさんの部屋を訪れた。


「やぁ、ソウタくん先程はすまなかったね」

「いえ、大丈夫です」

「それはよかったです」

そういうとマオウさんはメルクレストさんの方に視線を向け。


「メルクレストは後でちょっと話があります」

「なんで、私ばっかり! 今回のはどう考えてもマオウさんの方が悪いでしょ!」

「貴方が予定より遅かったのが問題でしょう」

「それには事情があるんです。何も聞かずに私が悪いなんて流石のマオウさんでも許しませんよ!」

このままでは白熱した言い合いが始まってしまう。


「あのー、マオウさん」

「なんですか? ソウタくん」

「遅れた理由を説明します」


一呼吸置いてから、ジュリとの遭遇について、変な視線について、トイレについて、それぞれ脚色なく事実だけを伝える。その話を聞きながらメルクレストさんもウンウンと頷いていた。


「なるほど、そういう事情でしたか。すまなかった。メルクレスト」

「わかればいいんですよ! 私だって大変だったんですから!」

なぜか勝ち誇ったような顔をしているメルクレストさんであった。


「さて、それじゃあ色々なルールについては後でメルクレストの授業を受けてもらうから、入学儀式を始めようか」

「はい! で、入学儀式って刻印魔法を習得する以外に何かするんですか?」

「入学手続きの契約書へのサインと刻印魔法の習得の二つですね」

「契約書……ですか……」

「はい。こちらの書類を読んでいただき、サインを書いていただければそれで終了です」

マオウさんが手渡してきた用紙は一枚のみ。そこに書かれていたのはただ一言『私は良き魔王になれるよう仲間たちと切磋琢磨し、自身を磨き上げることを誓います』と書かれていた。その下に署名を書く欄があったので、そこに自分の名前を書いた。


「はい、これで契約書の記入は終了です」

「……」

「どうしたんですか? そんな呆気にとられた顔をして」

「いえ、転入手続きに必要な書類をもっと書くと思っていたので」

「その辺りは先ほどソウタくんが寝ている間にご両親に書いていただきましたよ」

「そうですか……って、ちょっと待ってください!!」

「どうしたんですか?」

「俺が寝ている間って……もしかして俺が寝ている間に既に両親にーー」

「はい、説明して契約書も書いていただきましたよ」

「……」

開いた口が塞がらないとはこのことだ。

「って、内緒話ももしかして……」

「はい、まとめて再度説明しただけですよ」

もしこれで俺が行かないって言ってたらどうしてたんだろう。あの両親のことだ無理矢理にでも行かせてたんだろうな。

まぁ、今ここにいることが結果であるなら、間違いなく、あの両親のシナリオ通りなんだろう。


「今度帰った時に絶対文句言ってやる」

俺はポツリと呟いた。

「何か言いましたか?」

「いえいえ、何も言ってないですよ」


「そうですか。では、次に刻印魔法習得の儀式に移りましょうか」

「はい!」

ついにきた。これで俺も魔法を使うことができるんだな!

住んでいた世界ではありえない空想の産物。そんな超常の力をついに俺は手に入れるんだ! そう思うとワクワクが止まらない。


「では、刻印の間に移動しますね」

そう言ってマオウさんが指を鳴らすとーー。

一般的な学校にある校長室のような場所から一瞬で風景が切り替わったーー。


そこには、床に大きな魔法陣が描かれており、淡く青色に光っている。その中心には胸もくらいの高さまである本立てと、その本立ての上に一冊の本が広げて置かれている。

まるで悪魔召喚でもやりそうな部屋だなというのが率直な感想だ。

「それではソウタくん、魔法陣の中央に置いてある本に刻印を重ねてください」

「いや、無理でしょ」

本立てから本を降ろしていいのならなんとかなるが、本立てに立てたままで行うのであれば、どう考えても無理だ。

「そうでした、ソウタくんの刻印はお尻にあるんでしたね」

そう言ってマオウさん本立てを右手で握り手が光り始める。そうすると、本が丁度お尻の当たるくらいの高さまで本立てが縮み。

「これで大丈夫でしょう」

マオウさんはニコリと笑った。


これで高さの問題は解決した。だがしかし、マオウさんには大切なことを聞かなければならない。これは男の尊厳にも関わることーー。

いな、それだけではない、次にこの儀式を行う人にとっても大切なことだ。

「マオウさん、刻印は直接本と接触しなければならないですか?」

俺は慎重に、言葉を選んで質問した。

質問の意味はわかっているであろう。しかし、マオウさんは懸命に考えている。そしてなにかを呟き始めた。


そのまましばらく時間が経ち。回答を思いついたのだろう。マオウさんは真剣な表情でこちらに見て、眼鏡を押しあげながら。

「とう……」

「いえ、ズボンを履いたままでも大丈夫ですよ。ただし、しっかり刻印のある箇所を本に押し当ててくださいね」

何かを言おうとしたところをメルクレストさんの回答によって遮られた。

説明をメルクレストさんが代わりにしてくれたのに、なぜか血の涙を流しかねないような悔しそうな顔でメルクレストさんを見ている。

「ありがとう、メルクレスト……覚えておけよ(小声)」

「いえいえ、部下として当然の責務です」

悔しさからかマオウさんの声は裏返っていて、それに対するメルクレストさんの反応はいつもより笑顔で、声のトーンも若干高めだ。


「じゃあ、ズボンのまま儀式始めちゃいますね」

「ちっ……」

なぜかマオウさんに舌打ちされた。いや、俺何かしたっけ?

「えぇ、大丈夫ですよ! サクッとやっちゃってください!」

その舌打ちを聞いてさらに機嫌が良くなったのか、先ほどよりもさらにテンション高めにメルクレストさんが答えてくれた。


「それじゃあ……」

俺は本の方にお尻を向けて、首を後ろに回して距離を見ながら一歩ずつゆっくりと後ろに下がる。

本とお尻が密着したところで、本の感触が刻印の位置からずれていたので、少し左に移動して微調整する。


そして、本と刻印が重なった瞬間ーー。

お尻が黒く輝き出し、本が白く輝き出した。

最初は拡散していた二色の光だったけど、徐々に二色の光が収束。螺旋を描きながら天に昇り、そして俺の頭に向かって落ちてきた。


その時、何かイメージのようなモノが流れてきた。それは俺には到底理解できるものではなかった。口で説明することもできない。ただ漠然と白と黒の光の渦がグルグルと回っている。

おえっ、目が回りそうだ。

不思議なイメージは徐々に薄くなり、それと同士に光も次第に薄くなっていき、遂には光もイメージも霧散した。


「さて、これで儀式は終了ですね」

そのマオウさんの声で儀式が終了したことを認識した。

「どうですか? あなただけの魔法を習得した気分は」

と聞かれたが、俺自身全く何も変わっていたい。本当に魔法を習得できたのか怪しいほどに。


「えーっと、これで魔法を覚えられたんですかね?」

「はい。そのはずですよ。固有魔法なので私にはどのようなものなのかわかりかねますが」

ふむ、たしかに固有魔法であり、儀式の中心は俺だ。俺にしか習得できたかどうかはわからないだろう。


だがーー。

「あの、マオウさん、一つ聞いていいいですか?」

「はい、なんでしょう」

「この儀式で覚えた魔法がどんな魔法かってどうやったらわかるんですか?」

「?」

俺の質問にマオウさんだけでなく後ろで立っているメルクレストさんも首をかしげる。

「使い方とか……」

「光を浴びている間に何かイメージのようなものは流れてきませんでしたか?」

「はい、流れてはきたんですが……どうにも意味が分からず……」

「…………」

マオウさんとメルクレストさんは押し黙る。


「もしかすると……」

「もしかするとなんですか!」

メルクレストさんは一呼吸置きーー。

「今のソウタくんでは魔法を習得できないのでは?」

「え?」

「ふむ」

「え、ちょっ、どういうことですか?」

「刻印魔法も魔法は魔法、魔法のない世界からきた人ということから、魔法に関する基礎すら知らない状態なのですから、覚えられないのも納得がいきます」

「たしかに、その可能性は大いに高いですね」

ちょっと待て。つまりはなんだ? 本来入学の際に得られるはずの刻印魔法を得られないまま学校に入学しろと。

いやいや、でも俺以外にも異世界から来ている人たちはいるって話だろ。その人たちはどうなんだ。


「ほかに俺のように異世界から来ている人たちはどうだったんですか?」

「それが……ソウタくん以外はみんな何かしら魔法が存在する世界から来ているので……こんなケース初めてなんですよ」

マオウさんも困った表情をしている。


「仕方ありません。刻印魔法については私の補修が終わってからもう一度儀式を行いましょう。そうすれば、少なくともどのような魔法なのかはわかるはずです」

「そうですね。保険が功を奏しましたね」

「本当に」

マオウさんとメルクレストさんが深刻そうに話している。そりゃ当然だ。本来何事もなく終わるはずの儀式でイレギュラーが起きたんだから深刻にもなるわな。


「それじゃあ、ソウタくん、刻印魔法のこともありますから、明日からの補修かなりいつもの倍くらい頑張っちゃうので!」

どこか楽しそうに話すメルクレストさんだけどーー。

「死にたくないです」

「死なないですよ! 死にたくなるだけです!」

メルクレストさんーーそんなこと言われたら授業を受ける気もなくなるってのが、人間ってやつなんですよ。

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