—序章 real II—
「ゃっしゃっせー」
コンビニに入ると店員がスマフォをいじりながら気怠そうに出迎えてくれた。
先ほどまで浪人した時にバイトすることを考えていた俺はコンビニの店員は楽そうだし候補に入れとくかと考えながら、温かい飲み物と肉まんを買うべくレジ脇のホットドリンクコーナーに向い、レジの列に並んだ。
ふと、前の客が会計を終えるのを眺めていると、店員がレジの袋を取ろうとして上半身がカウンターの下に隠れた瞬間、会計をしている最中の同い年くらいの青年が左手でレジの横に置いてあったチェコレートを取り、下腹部にあるパーカーのポケットに突っ込んだ。
おいおい。流石にバレるだろ・・・と、思っていたが、店員は青年に「っしたー」とお礼を言って気づいた様子がなかった。
どうする?いや、別に俺には何の影響も痛手もないのだから別にわざわざ勇気を出して言う必要もないだろうし、もし、俺の見ていないうちに言葉で「これ1つ下さい!」とか伝えてあって、会計が済んでいた商品だったらすんげー白い目で見られるよな。だって何もしていない人を犯罪者のように見たってことだし、言われた青年は俺に切れかかってくるのは間違いないし・・・。
そうこう考えてうちに青年はコンビニの外へ出ようとしている。
「あっ、あのー・・・そのチョコレートはサービスですか?」
とっさのことだったため緊張で出だしが裏返ったが、遠回しに伝えることにした俺、チキンだな・・・。
「は?違うけど?」
「えー、じゃ、じゃああの前のお客さんが持って帰っていったのは買ったんですかね?」
「えっ?持ってったのあいつ?」
「はい、お腹のポケットに入れているのを見ましたけど。」
「マジかよ」
店員は舌打ちをしながらスマフォで電話をかけ始めた。
「あっリッキー?ごめん、バイト終わるのまだなんだけど、今コンビニの外に出た青いパーカーのやつ捕まえてくんね?そいつドロボーだから。うん、サンキュー。」
外に友達を待たせていたのか。この店員の風貌からその友達とやらもガラは悪そうだな。もし間違いだったらその青年には大変悪いことをしたし、そのあとは俺がこの店員とその友達を相手にしないといけないのかと思うと胃が軋む思いだった。
「どう?捕まえた?おう、サンキュー。そいつのお腹のポケッにチョコ入ってない?ある?ビンゴだわー、そいつこっちまで連行しちゃって。兄ちゃん教えてくれてありがとな。」
「間違いじゃなくてよかったです」
本当にな。もうこんなハラハラする思いは二度としたくないな。
「会計するでしょ?」
「はい。あっそれと肉まんを一つ下さい。」
「ありがとーございまーす」
あぁ、のどが渇いた。緊張と興奮のせいでのどがカラカラだ。だけど緊張と興奮のせいで体は熱い。なんで俺はホットドリンクなんて買ってるんだよ。
緊張で火照った体を外の寒さで冷ましながら温かいレモネードを飲みほした。
いててて・・・。家に向かって歩いていると急にお腹が痛くなりトイレに行きたくなった。まぁ体が急に冷えたのとレモネードを勢いよく飲みすぎたな。近くに公園があるし、そこで用を足すか。
昔よく遊んだ公園。遊んでた頃からずいぶんの風景が変わったな。俺が遊んだころから遊具がだいぶ減ったが公園の中央にあるトイレだけは今も健在だ。
公園に寄り、和式の便所で用を足そうとズボンを下ろしてひねり出そうと踏ん張っている時だった。この腹の痛みから加俸される感覚と同時に急に何故かまぶしいと感じて目を閉じた瞬間だった。
「きゃああああああああああああああああああああああ」
まだ視界がはっきりしないが、女の叫び声のようなものが聞こえた。目をこすり視界をはっきりさせると急に広くなったトイレの中に甲冑を着たおっさんと執事服のおっさんとドレスを着た女の子が目の前にいた。
「は?」