—序章 another II—
アドルフは王女の”案”がどうかまともな案であることを切に願っていた。というのも、アドルフがペネステーレ王国の繁栄を考えだした政策を王女の思い付きで廃案になることが多々あるのだ。
しかも、王女の案は政治的にありえないような愚策ばかりである。王女として政治に関与することは悪いことではない。将来の勉強も兼ねて政策案を考え、実行し、成果が上がればよりよくする案を考え、成果が上がらなかったらその原因を考え、改善することを学んでくれればよい。
だが、アリス王女は案をだして文官に政策の実行を丸投げするだけで、自分で行おうとしない。そのため、一向に成長の兆しが見えず、無駄に資金を浪費するばかりである。
国王も国王で娘の案の全容について何も考えず、可愛い娘の案を聞いて娘の言うとおりに実行するばかりだ。
少し前、モンスターの影響で作物が取れない状況になった時、物価が上昇し、食糧難に陥った時期があった。その際に王女が放った言葉が、“食べ物が少なくて困っているのなら、食べる人を減らしたら?”だ。今考えてもゾッとする。
アドルフはどうか、今度ばかりはアリス王女が何かの軌跡でまともな案を提示することを願うばかりだった。
「お父様!お金がなくて戦えないのなら、お金を使わずに戦えばいいのですわ!」
王座の間が沈黙した。
何を言っているのだろうか。武器も兵糧もタダで手に入ると考えているのだろうか・・・。あぁ・・・とアドルフは国王と王女には伝わらぬように心の中で嘆いた。
「娘よ・・・、さすがにそれは無謀ではないのか?」
国王が戦をするのにお金がかかることを理解し、娘をたしなめていることにアドルフは少し希望を抱いた。
「まぁ、お父様ったらひどいですわ。私がそんなことも考えていないと思っていますの?」
思っていますの!!とアドルフは心の声で反論した。
「勇者ですわ!勇者を召喚して戦争すればいいのですわ。」
「ふむ!勇者は一騎当千の力を持つと言い伝えられておる。勇者に戦わせれば数人分の資金で戦争できる。さすが、わが娘だ。」
「ですわ!お父様、”いい案“を出したご褒美に今度宝石商を呼んでくださいませんか?」
「いいとも、いいとも。好きなものを買いなさい。王女としてふさわしい身なりをしなくてならないからな。」
話が進み、アドルフは慌てて、二人の会話を静止に入った。
「お、お待ちください。勇者様を召喚するのは古くから魔王が出現した時で御座います。隣国との戦争に勇者様を召喚するのは前例のないこと。勇者様を戦争の道具にしたとあっては周辺諸国全てを敵に回してしまいます。」
「よいではないか。周辺諸国全て勇者に倒してもらえば我が国が潤うであろう?アドルフもそれを望んでいて、まさに今我が娘の良案で達成されようとしている。何が問題なのだ?」
「問題しか御座いません!勇者召還は1000年に1度しか行えないと言い伝えられています。それを行ってしまえば今後千年は勇者召還が出来ないということです。もし、勇者様がいなくなられた後、魔王が出現したら誰が魔王を討伐するのですか!?」
「わたくし、勇者様が見たいですわ。」
アドルフは会話の流れをぶった切った発言がうまく聞こえなかった。
「な、なんと仰いましたか?王女様。」
「アドルフ、わたくし、勇者様が見たいのですわ。それ以上の理由が必要でして?」
開いた口が塞がらなかった。国の財政難の解決方法の話をしていたはずなのに自分の欲望を垂れ流したような発言をした王女を本当にこの国の王女なのか疑った。
「ふむ。我も見てみたいな。1000年に1度しか拝めない勇者の顔を拝んでやろうではないか。はっはっは!」
「そ、そうですな。私も見てみたく存じます。はっ、はは・・・。」
もう思考するのをやめたアドルフであった。